4.水の精霊

「ブルーベリーですね。美味しい。……ここより少し北によく生えている種類ですわ」

「へぇ、そうなんだぁ」

「これを、どこで?」

「え、ちょっと王宮の森を少しばかし」

「まぁ、たまにはそのお転婆も役に立つのですね」

「えへへ」


 ブルーベリーを王室の食事に出してもらったところ、ママに言われた。

 ママ、メリア妃は、お兄ちゃんと僕を産んだにしては、まだまだ若く見える。

 僕が照れると頭を撫でてくれる。


「それで、このブルーベリー美味しいから、裏庭の王宮庭園に品種サンプルを、それから前庭でたくさん育てて、こっちはブルーベリー狩りのお茶会とかしたら楽しいかなって思うんだけど」

「いいですね」

「母上も賛成か。なるほど、賛同してやるか」

「お兄ちゃん、ありがとう!」


 ということで、ブルーベリーの栽培もはじまった。

 今から夏だ。うまいこと夏を越せるといいんだけど。



 そうしてまたナーシーと王宮の森探索へと出かける。

 森へ行くときはいつもナーシーとラーナを連れている。

 一回だけナーシーがいないときに森へお散歩しに行ったこともあるんだけど、後でナーシーに怒られてしまった。

 王宮まできてずっと待っていてくれたらしい。ごめんね。

 でもすぐに仲直りのキスをしたよ。


「見つけた! オオダンゴムシ」

「おおぉ、これはアイアンダンゴムシだね!」

「さすが、ミレルちゃん。詳しいね」

「もちろん」


 オオダンゴムシにも種類があって、これは鉄でおおわれているアイアンダンゴムシだ。


「えいしょっ」


 大人しい。触ると丸まってしまう。

 丸いまま持ち上げる。結構重い。

 ラーナのマジックバッグに放り込む。

 文献によれば、エビ味なのだそうだ。

 殻は集めて炉で溶かすことにより、鉄を抽出できる。

 また今度やってみよう。


「こっちにもいるわ!」

「これで四匹目だ。かなりの数が生息しているっとメモメモ」


 マジックバッグは容量の拡張だけでなく、重量軽減効果がある。

 というか、中は異空間につながっているらしい。

 それで重さを感じないのだろう、って王宮の図書室の本に書いてあった。


「マイマイもいるよ」

「大きいわね」


 四十センチくらいのカタツムリだ。

 これも食べるとコリコリしていて貝みたいな旨味と出汁が出るので、スープにしたり焼いて食べると絶品だそうだ。

 魚や貝はよく食べるけど、マイマイは食べたことがない。

 貝も二センチくらいのサイズのアサリやハマグリが主流だ。

 王宮なのでサザエやアワビが出る事もある。

 でも、ここまで大きな貝はない。


「今日は御馳走だね」

「はいっ」


 ナーシーと二人で笑い合うと、ラーナもつられて笑ってくれる。

 そうして奥の方まで、ずんずんと進んでいった。


「あ、沢がある」

「この前も見たわ」

「うん。ちょっと辿ってみよう」

「はい」


 沢伝いに歩いていく。

 この森の中にはあちこちに沢が流れている。

 この森の水が集まって、王都の水道水に使われているらしい。

 王宮の庭の水と水道水もこの森のものだ。


「わあぁぁ」

「すごい」


 そこには木々の隙間に綺麗な泉があったのだ。


「綺麗な泉ですね。お姫様。これは素敵です」

「うん」

「そうね」


 三人で暫く眺める。

 そっと水を掬って飲んでみる。


「わっわっ、お水美味しい」

「あら、私も」


 三人でお水を飲む。美味しい。


「ぷはぁ」

「ねえ、ミレルちゃん、あれ」

「祠だね」


 泉の向こう側には大木を背に小さな祠が設置してあった。

 石で出来てるので形はそのまま残っているが、苔むしていた。

 かなりの年代物に見える。


「えっと、何かお供えしていこうか」

「何か持ってる?」

「なにも、そうだ」


 僕は大きな葉っぱを折りたたんで簡易的なお皿を作ると、指先をナイフでちょっとだけ切ってそこに血を垂らす。


「大丈夫なの?」

「うん、へいき」


 ナーシーとラーナが心配そうに見守る中、僕は血が乗ったお皿を祠の前に置いて、手を合わせる。


「よろしくお願いしますっと」


 するとヒューとどこかから風が吹いてくる。

 ここは森の中で、あまり風が吹かない。

 周りを見回していると、自然の中からじわじわと水色の女の子が姿を現した。

 百センチくらいだろうか。僕たちより少しだけ小さい。

 全身水色の少女だ。まさに水の妖精という感じだろうか。

 可愛らしく、首を傾げる。


「ワタクシを起こしたのはあなたですね?」

「えっ、あ、はい、僕です」


 別に怒っているわけではなく、笑顔だった。


「えっと、今、何年になるのかしら」

「ラシミール暦一六二八年ですね」

「それなら二百年ぶりくらいかしら、適合者は」

「え? 適合者?」

「あなた、マーシナルの子孫でしょ?」

「初代の王様ですね。確かに直系の子孫です」

「だいぶ、血は薄まっているようだけど、この匂い確かですわ」

「匂い? 僕、くさいかな?」

「大丈夫、甘くて美味しそうな匂いですわ」

「そっか、ならよかったです」


 妖精さんなのだろうか。


「私はここの泉の精。水の精霊ね。妖精はもっと小さくて弱い子のことを言いますわ」

「そうでしたか!」

「こっちへおいで」

「はい」


 ちゅっ。


 気が付いたら精霊様とキスをしていた。


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