3.王宮の森

 植物図鑑も完成し、裏庭は制覇されたと考えてもいいだろう。

 野菜から薬草、毒草までほとんど知られている限りの草花がある。

 表庭の花壇と芝生広場には木も植わっているけど、表庭はもっと一般的な植物が多い。

 植物図鑑にはバナナとカカオも載っている。

 バナナの成功の後、カカオにも挑戦してみた。

 カカオは主に医薬品として扱われていて、食べるものではない。

 チョコレートにしたいんだけどな。

 後、サトウキビも欲しい。

 主に小麦と鉄製品を輸出していて、バナナと白砂糖と紅茶、それから魔石などを輸入している。


「よしっ、王宮の森へ探索だ!」

「ミレルちゃん、森へ入るの?」

「大丈夫、オオカミとかゴブリンとかいないからね」

「そっかぁ」


 もちろん二人だけで行くことは許してもらえなかったので、ラーナを武装させて連れて行くことになった。


 その頃、僕は文字も覚えたので、暇を見つけては王宮図書室に頻繁に通っていた。

 ナーシーは毎日来るわけではないので、暇なのだ。

 書いた植物図鑑には載ってない、たくさんの植物それからキノコ類、動物やモンスターの知識を片っ端から読み漁っていた。

 もちろん、南の植物や遥か北の動植物なんかもある。

 あと、地球にはない、妖精や精霊、魔法といった知識も詰め込む。

 地図や歴史もある。覚えることはたくさんあるけれど、吟味しないと。

 歴史の武勇伝や神話とかもあるんだけど、これらは切りがないので、また今度にしよう。

 地図は頭に叩き込む。いつどこに出かけることになるか分からないし、近くの国なら大使なども来ている。

 普通に交流があるので、こっちは必要なのだ。


「ふぅ、いっぱい読んだ読んだ」

「お姫様には呆れます」

「ラーナはつまんないもんね」

「まぁそうですね。内職できるので大丈夫です」

「そっか」


 メイドさんの仕事は色々あるらしい。

 ラーナは本を読んでる間に事務仕事や針仕事なんかもしていた。

 針仕事は主にメイド見習いの子の仕事だけど、僕の服を縫ったりするのだ。

 凝った刺繍とか入ってるドレスはだいたいラーナの仕事の成果だ。


 僕も毎日遊び歩いているわけではない。

 嫌でもダンスパーティーやお茶会、晩餐会、結婚式にお葬式と頻繁に駆り出される。

 普段お転婆娘をしていても、格式高いこれらの式にはそれらしい態度でいないとママが怖い。

 聡明なのでいつもちゃんと猫の顔を被っておとなしくお淑やかなご令嬢をナーシーとしている。

 実際のところ、ナーシーの本当の姿はどちらかというとこっちのおとなしい方なのだろう。


「では、森へ、出発」


 やっと準備が出来たので王宮の森へと進んでいく。

 王都は城塞都市なのだけど、かなり大きい。

 真ん中にどどんと王宮があり、王宮の周りを内壁が取り囲んでいる。

 それで王宮区の三分の二は森なのだ。

 奥に歴代王朝の墓標がある。


 王宮の裏庭さえ碌に手入れしてないのだから、王宮の森は実質、自然林に近い。

 しかも一般人立入禁止のため、ここ王都のど真ん中なのに自然が残っている。

 日本で言うところの皇居に近い。

 しかも皇居よりたぶん広い。


「ここって管理されてないわよね?」


 ナーシーが心配そうに聞いてくる。


「一応、年間通して近衛騎士団が警備してるよ」

「そうなのね」

「春の新人のキャンプ訓練とかもあるんだ」

「へぇ、キャンプかぁ」

「今度、許可出たらやろうねキャンプ」

「うんっ」


 森の獣道みたいなところを進んでいく。


「ほら、サルノコシカケ」

「キノコ類だわ」

「王宮の木にもたまに付いてるね」


 バリバリと採ってラーナが背負ったマジックバッグに入れる。

 初収穫だ。

 これは民間薬の材料になるため売れる。


 別に貧乏ではないが資金はあるなら欲しい。

 お金があるだけ出来ることは増える。


「ルンルンルン♪」

「ラーランラン♪」


 三人で歌を歌いながら進む。

 危険なモンスターはいないのだ。

 これだけイージーな冒険なんてない。


「あ、タヌキ!」

「お、おうう」


 ナーシーが見つけて指を差す。

 オオカミはいないが、ネズミ、リス、タヌキ、キツネ、イタチなんかが棲んでいるらしい。

 あとホーンラビット、スライム、リクウミウシ、マイマイ、オオダンゴムシといったモンスターたちもいる。

 一番怖いのは実は野犬だ。野ネコもいる。

 動物は魔石がなく、モンスターは魔石がある。

 魔石はワイン倉庫の魔道ランプや厨房にある魔道コンロなどの燃料になる。

 あとは砕いて魔石肥料、インクと混ぜて魔力インクとか、使い道はたくさんある。


「沢が流れてる」

「ほら、サワガニ」

「本当だ、ナーシー」

「どうする?」

「今回はスルーで」

「わかった」


 サワガニも食べられるらしいが、王都は海にも面しているので、カニなら月に一度の食べ放題がある。

 種類は違うけど、わざわざ食べたい程ではない。


「ブルーベリーかな?」

「ミレルちゃん、ナイスだわ」

「これは食べられそう」

「私が先に毒味を」

「別にいいのに」

「もぐもぐ、美味しいです」


 毒味のラーナが幸せそうに笑顔を浮かべる。

 みんなでブルーベリーを採って食べる。

 この種類は王宮植物園にはない。

 オレンジベリーとホワイトベリーならあるんだけど、どちらもそれほど甘くないのだ。

 このブルーベリーはとても甘酸っぱく、そのバランスがかなり好みだ。


「これは持って帰ろう」


 周りには何株も生えているのが見える。

 地面を掘って根っこごとマジックバッグに入れる。

 是非、植物園でも育てたい。美味しいし。

 前庭で増やしてもいいかもしれない。

 お茶会しながら収穫して、ブルーベリー狩りとかも面白いかも。


「よし、今日は戻ろう」

「分かったわ」

「もうすぐおやつの時間ですもんね」

「ラーナが僕のこと食いしん坊だって言った」

「バナナの頃からそうでしょう」

「悔しい、否定はできない」

「あっははは」

「ナーシーまで笑う、いいもん」


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