5.精霊との契約と加護

「あなたは贄として血を捧げました。私は了承して、契約のキスをしました。これにて契約は成りましたわ」

「え、あ、そうなんですか?」

「感じないかしら? 水の力」

「なんとなく。水の流れを感じるというか、この泉、すごかったんですね」

「そうですよ。王家がここを首都とし、墓標をここにしたのも、この泉と私の力を欲しがったからですの」

「ほへぇ」


 なんだかすごいことになってきちゃったぞ。


「この辺りが、周りより涼しいのも、泉の力なのですよ」

「そうだったんですね」


 王都は周りの都市よりなぜか夏でも涼しくて過ごしやすいと言われている。

 冬もそこまで寒くならなくて雪が積もらない。

 それで周辺部からの移住者が多い。

 地形や環境的なものだと思っていたけど、精霊様の力の影響だったんだ。


「水は癒しの力でもありますの。死んでしまったら、ゆっくり癒してあげますわね」

「わっわっ、まだ死にたくない!」

「あはは、大丈夫。ワタクシの加護があって、そうそう死ぬようなことはないですわ」

「そうですか、よかったぁ」


 精霊様は笑って、くるりと回って見せる。


「あなたたちもこの子の大切な人みたいですね」

「え、私ですか」

「ええ、私もですか?」

「うん。二人とも大切だよ」

「そう。二人ともね。では二人にも、水の精霊の守護を授けましょう。私の下の妖精たちがあなたたちを守るでしょう」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます。精霊様」

「あ、ありがとう!」


 精霊様はふふふと笑う。


「そういえば、精霊様、名前は?」

「人間はほいほいと名前を教えてしまうけど……私たち精霊や妖精は名前に縛られています」

「ほへぇ」

「だから、おいそれと教えることはできないのです」

「そっか、そうなんだ。残念。あ、僕はミレル・アレサンドロ・マーシナル、第一王女です」

「私は、ナーシー・サラマンド・マーシナル、公爵令嬢です」

「私はラーナ・ミッケンハイム侯爵令嬢で、ミレル姫の専属メイドをしております」

「ふむ、分かりました。覚えておきましょう。いずれ、そなたたちの子孫にも会うかもしれないですしね」

「へへ、私たちの子孫……」


 あ、うん。でも一瞬、僕とナーシー、僕とラーナの子供を想像したけど、ぼくたちみんな女の子だったわ。


「試しに水魔法をやってみましょう」

「水魔法!」


 僕は驚いて目を丸くする。


「ほら、水面に向かって『アクア・ヴェ・ミラル・ファーシモ』と」

「え、アクア、べ、みらる?」

「『アクア・ヴェ・ミラル・ファーシモ』です。精霊語ですよ」

「そっか、そうなんだ」


 何回も言い直してもらい、やっとのことで呪文を唱える。

 水がバシャッと出る。


「おおぉおぉ」

「ミレルちゃん、やったね」


 みんなで挑戦してみると、なんとかできるようになった。

 三人で魔法の水かけっこをする。


「王家の血ですね。魔力そして水魔法に適性があります」

「そうなんだ」

「ラーナさんも血は薄まっていますが、王家の血が少し流れていますから、多少は」

「し、知らなかったです。光栄です」


 ラーナが胸に手を置いて、感動していた。

 そっか、ラーナもうちの遠い親戚なんだ。


「あーあ、びしゃびしゃ」

「そうですね……」


 泉のほとりに座って休憩をする。


「そうでした。泉の水は『精霊水』ですから、自由に汲んで持っていってかまいませんよ。でも、ご利用はほどほどに、お願いしますね。神域ですから、言いふらさないように」

「分かりましたっ」

「それでは、また、さようなら。呼んだらどこへでも、出ていきますので」

「ばいばい」


 お水を水筒に汲んで持って帰る。



 そうして王宮に戻ってきて、さっそく実験しよう。

 メイド見習いの女の子たちを集めて準備をさせる。


「ここになんと、精霊水があります」

「呆れますね、まったく」

「ラーナ、ちゃちゃを入れない」

「はい」


 横にある草を手で持ち上げて、皆に見せる。


「ここに庭の薬草のうち、上位のエターナル草だよ」

「そうですね」

「増幅剤のレッドシードの種も用意してある。これは去年の秋のもの」

「なんでもありますね」

「ちゃんと錬金術で使いそうなものは収集してるんだよ」

「はい。知ってます。私も手伝わされましたから」


 エターナル草を千切って精霊水にいれ沸騰させる。

 それにレッドシードを入れて、赤い色素を抽出すると、水が真っ赤に染まる。


「ここに魔力を注ぐんだっけ」

「そうですね」


 薬草水に魔力を注ぐことでポーションになるのだ。

 これは中級回復ポーションくらいの効果があるはずなんだけど。


「できた」

「見た目は変わりませんが」

「いや、なんていうか最初から精霊水に水の癒しの魔力が含まれててね?」

「私にはあまり、そういうのは」

「まぁ、魔力感知みたいなのは、やっぱ血筋とか関係あるので」

「そうですね」


 ここでさっきから腕を組んで見てるだけだったナーシーにビンを渡す。


「どう?」

「どうって、こんなの『おかしい』に決まってるわ」

「だよね」

「こんなの、秘薬じゃないの」

「まあ、そうだと思う」


 上級ポーション相当が出来上がっていた。

 さて、どうやって検証しようか。

 作ったのに放っておくなんてとてもできない。

 そわそわと考えをめぐらした。


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