第13話

日記45ページ目

南さんが転校してから初めての天のタワーでの授業だった。

1人減った影響で星野くんも乾さんも探索の時にかなり警戒していた。

移動速度の低下でそれなりにイライラしたがパーティー行動なので我慢した。

戦闘の時でもイライラする。

前回までなら星野くんが抑えたモンスターを南さんが倒していた。

今回からは星野くんが抑えても誰も攻撃できない。

乾さんの火魔法では星野くんもモンスターと一緒に焼いてしまうから。

俺が攻撃するには背負っているドロップアイテムや魔石のせいで激しい動きが出来ないからだ。

本来ならここで乾さんが荷物持ちをするべきところを星野くんが男なら荷物くらいお前が持てと言われ、更になんで攻撃しないんだと非難される。

本当に今日はイライラした。

一瞬だけコイツらを殺してやろうかと思ったくらいには本当にイライラした日だった。



「ほら!早く倒せ!!」

「はぁ、分かったよ。」


背負っている荷物袋を気にしながら俺は星野くんが抑えているトカゲに斬撃を喰らわせる。

星野くんが邪魔でトカゲの足の一つを切断するくらいのダメージしか与えられなかった。


「何してんだ!?早く倒せよ!!暴れて抑えられねぇ!!?」

「分かってるよ。」


心の中で舌打ちをして俺は暴れるトカゲの尻尾を切り裂き、そこから暴れるトカゲの手足を切り裂いてから、動けないトカゲの首を両断して倒した。


「チッ、もっと早く倒せよ。」

「はぁ、それなら荷物を戦う時くらいは乾さんに持たせるべきだろ?何度言ったら分かるんだ。」

「男のお前が持てば良いんだよ!?俺に口答えするな!!!」


心の中で今度は溜め息を吐きながらトカゲのドロップアイテムと魔石を回収する。

俺は男なら持てと言うならお前が持てば良いだろうと思いながらも荷物を背負う。

そんな俺に私が持とうか?と乾さんが言うのだが、何故だか星野くんが乾さんは持たなくて良いなんて怒声に近い声で言うものだから乾さんは萎縮している。

なんで星野くんがこんな風になったのか分からない。

元々の性格なのか、それとも死の恐怖を感じたことでこんな感じになったのか、どちらにしても迷惑だから退学か死ぬかして欲しいところだ。


「……私も辞めようかな。」


ズンズンと前を歩いている星野くんには聞こえなかった様だが、近くの俺には乾さんの声が聞こえた。

乾さんも南さんの足を齧られている姿を見て恐怖していたし、それにこんな風に豹変した星野くんと一緒に行動なんてしたくないのだと思う。

南さんが退学を決める原因を見ても何も思わない俺では乾さんに何かを言っても無駄だろう。

俺は先ほどの乾さんがボソッと呟いた言葉を聞かなかった事にして歩くのだった。



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案の定、今日は乾さんが退学して転校して行った。

これでA組での退学者は2人目。

それも同じ探索者パーティーから退学者が出たのには同じクラスメイトたちも俺と星野くんがしっかりしないからなのではないかと言われてしまった。

俺としてはあの程度の怪我やその怪我を見たくらいで辞める方こそ問題だと思う。

まあ、乾さんは可笑しくなった星野くんのせいで退学した可能性があるが、乾さんがなんで退学を選んだのかはしらないので、退学の真相は不明だが。

そんな訳で俺と星野くんだけになってしまった探索者パーティーは解散する事に決まった。

俺と星野くんはA組の何処かのパーティーに入ることになるのだが、俺はここで先生に相談した。

俺のギフトなら1人だけでも問題がないし、下手に何処かのパーティーに入るよりも俺1人の方が戦いやすいからだ。

でも、却下された。

探索者パーティーを組むのは、将来パーティーを組む事になった際の練習にもなるからだそうだ。

五等分に報酬が下がってしまうのには俺も残念だし、俺が入る事になったパーティーにも残念な事だが、ここは仕方がないと諦める事にした。

ても、星野くんと同じパーティーで行動する事になるよりは良いのだろうが。



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新しく加わる事になった探索者パーティーだが、既に役割が決まっているせいで、このパーティーでも荷物持ちになった。

しかも、荷物持ちしかしていないのだからと俺だけ換金したポイントがあからさまに減らされていたのにはイラつく。

もちろん抗議したのだが聞き入れて貰えず、この事を先生に伝えた事でようやく授業で天のタワーの活動をするパーティーを移動する事になった。

今回は俺が悪くはないだろう。

それでもチクられたと、今日の組んだパーティーメンバーから言われてしまったが、本当に人との関わりなんてしたくないと思う出来事だった。

この日のイライラは日記に書いて忘れる事にする。



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土日や祝日に天のタワーを探索して貯めたポイントを使って図書館を利用した。

大量に置かれている教本を読み込む為だけにようやく20人になった分身と共に教本を読んで、教本のコピーの為に買った紙に書き写していく。

基礎妖術指南書、記憶術基礎、気配感知基礎、無魔術初伝、水魔術初伝、火魔術初伝、風魔術初伝、土魔術初伝、無妖術初伝、水妖術初伝、火妖術初伝、風妖術初伝、土妖術初伝。

この13冊の教本もコピー作りと読み込んで行くのに図書館が開館から閉館までの時間を使って学んだ。

これは重要な事なのだが寮の部屋に戻ってから分身を解いたのだけれど、大量の学んだ知識が流れ込んで来たのは大変だった。

帰った時間帯も遅かったからそのまま眠ろうかと思っていたのに、あまりの情報量に頭が痛くて目が覚めてしまい、今は日記を書いている。

本当にあれほどの量の情報知識が流れ込んだのは初めてで激痛で死ぬかと思ったのだが、分身たちが学んだことは覚えられている範囲で覚えている様だったのはよかった。



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分身たちによる技術の練度上げの為に訓練所へ、新しい技術の獲得の為に図書館へ、ポイントを貯める為に天のタワーへ、分身たちは平日でも活動している。

そのお陰で今日の魔術の授業では先生に無魔術の魔術を使って見せた。

無魔術初伝では魔力弾、魔力壁、魔力剣の魔術が書かれている。

魔力弾は名前の通りに魔力の塊をぶつける魔術、魔力壁は魔力の壁で攻撃を防ぐ魔術、魔力剣は魔力の剣で斬撃を放つ魔術だ。

どの魔術も純粋な魔力を使用する魔術である。

その為、魔力の操作でも無魔術と似た様な現象を起こすことは出来るのだが、魔力の効率が段違いなのが違いなのだろう。

先生から次のコピーを受け取る事になるのだが、俺はその時にまとめて授業で習う範囲の魔術の教本のコピーを貰えないかを相談する。

コピーではない教本を図書館で読んでいる分身も居るが、こうしてコピーを貰うことで寮の部屋の中でも内容を確認できる方がより早く覚えられる。

そう説得して図書館で読んだ範囲の属性魔術の教本のコピーを貰うことに成功した。

これ以上の内容のコピーを渡されるのは渡されたコピーの魔術を使える様になってからと言う事になった。

図書館で学んでいる分身の数を考えれば夏休みが終わるまでには出されたコピーを学び終えるだろうと思う。

夏休みまでにはあと1ヶ月もあるから、それまでには魔術の授業で魔術を使った戦い方を先生から聞いていこう。

それに、まだ他の授業を受けている生徒のほとんどが基礎魔術指南書を学んでいる最中だと考えれば、俺がどれだけ進んでいるのか分かると言えるだろうし、ここは自身を持って言える。

それに無魔術初伝よりも基礎魔術指南書を覚える方が大変だったから、他の生徒たちもそこを乗り越えればすぐに他の魔術を使える様になる気がする。

今のアドバンテージがある内に先生から聞けるところは聞いておこうとも思った。

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