第5話 学校へ行こう

 ダンジョンが現れて攻略していった日曜日が終わって月曜日。今日は休日の部活の無い慎介も登校しなければならない。

 美沙と卑弥呼のいる朝食の席。二人は争うかと警戒したが今のところは無言でご飯を食べているだけだった。

 美沙は朝から無駄な争いをして疲れるのを避けたのかもしれない。

 そうして朝食を済ませて歯磨きをして、制服に着替えて鞄を持って外に出た。


「行ってきます」


 出たのは三人。留守番は零。気が付いた美沙はすぐに素っ頓狂な声を上げた。


「お兄ちゃん! なんでこいつが付いてきてるの!?」

「いや、知らねえけど」

「お前達、わらわだけ仲間外れにしようとしてもそうはいかんぞ!」


 美沙は睨んでいたが卑弥呼は離れる気配がない。慎介はどうでもいいとため息を吐く。

 どのみち学校には部外者は入れないのだから校門まで行けば卑弥呼は諦めるだろうと慎介は思っていたのだが、そうはいかなかった。


「慎介、この学校で一番偉い奴は誰じゃ?」

「さあ、校長じゃないか?」

「ならばわらわが交渉してこよう」


 卑弥呼は宙に浮かんで校舎へ向かって飛んでいく。止める言葉もなく慎介と美沙は見送るのだった。




 何も知らない生徒達がたまに不思議な少女の噂をしながら校門を通り過ぎていく。

 上の階に消えた卑弥呼をいつまでも気にしてもしょうがない。始業の時間は迫っている。

 慎介と美沙は急ぎ足で昇降口へと移動する。


「お兄ちゃん、あいつ学校に入ってくると思う?」

「さあな」

「気を付けてよね。お兄ちゃんは一度あいつにごにょごにょされてるんだから」

「分かってるって。お前は気にせずに勉学に励め。何かあったら俺が解決するから」


 などと話し合ってそれぞれの教室に向かう。下級生の美沙とは違う階だ。

 エイリアンやダンジョンが現れたりと何かと物騒な世の中だが平時の学校の景色はいつもと変わらない。

 それは大人たちが頑張って対処が適切に行われているからだろう。

 チャイムが鳴って何事もなく授業は始まるかと思えたが、予感はすぐに的中した。卑弥呼は転校生として慎介のクラスに入ってきたのだ。そして、当然のように隣の席に座った。


「ちょうど隣の席が空いていてラッキーじゃったな」

「お前よく校長先生が許可したな」

「当然じゃ。女王の姿を前にすれば人間は涙して首を垂れるのが自然なのじゃ。崇めぬお前らの方が例外なのじゃ」

「まあ、俺達は最初に痛い被害を受けたからな」


 そうして、授業が進んでいく。黒板を見ながら慎介は気になった事を隣に訊いた。


「お前、今の文字が読めるの?」

「形は変わっても大和に受け継がれる心は変わらぬ。文字とは心で読む物じゃ」

「そうなのかー」


 不思議な術に精通しているだけあって卑弥呼には違う見方があるようだ。

 分からないことがあったら教えてやろうと思いながら授業は進んでいった。




 そうしてチャイムが鳴った休み時間。卑弥呼は転校生の例に漏れずクラスメイトに囲まれて歓迎を受けていた。その姿は崇められると言うよりは可愛がられているように見えた。

 最初こそどうなる事かと思ったが、卑弥呼はみんなに受け入れられたようだった。

 



 何事もなく時間は過ぎていき放課後になった。

 生徒の帰りだす賑やかな教室。そこにやってきたのはロボットの開発者にしてこの学校の科学研究会の会長を務める博士だ。


「慎介、君に大事な話がある。卑弥呼もいるのかちょうどいい」

「わらわのロボットが完成したのか!」


 大人しくしていた卑弥呼が元気に立ち上がる。

 ダンジョンの宝でお金の返済は完了した。卑弥呼がそう期待するのは無理もないことだったが、博士の曇った顔を見れば良い話でないのは明らかだった。


「すまない。実はロボットの開発に夢中になっている間に出席日数が足りなくなっていてな。しばらく補習を受けないといけなくなった。こればかりは私の天才的な頭脳でもどうにもならない。なのでしばらくロボットは作れない。そう伝えに来たのだ。それじゃ」


 それだけ伝えて博士はさっさと教室を出ていった。この学校には飛び級とかそういう便利な優遇措置は無いのでいくら頭が良くても出席日数が足りなければ進級できないのだ。

 博士も天才と持て囃され生活に問題はなくとも中退は避けたい様子だった。

 卑弥呼はぽかんとしてから怒った。


「なんじゃとー! そんな馬鹿な話があるものかー! 出席日数ぐらいわらわの術でどうとでもしてくれる!」

「来たばかりで迷惑かけんなよ」


 と、止める間もなく警報が鳴り響いた。これは卑弥呼の術のせいではない。この耳に馴染んだ警報はエイリアンの出現だ。


「あいつら、まだ現れるのかよ!」

「慎介、ロボットを呼ぶのか?」

「あいつにそんな便利機能はねえ。……はずだ!」


 試しに呼んでみようかと思ったが、人の目が合って恥ずかしいので止めておいた。

 避難を始める人達で慌ただしくなる学校。外では戦車や防衛装置なんかも動き出した。

 音の激しさからエイリアンの戦力が前より上がっている感じがする。全滅させたせいで本腰を入れてきたのだろうか。放っておくわけにはいかない。


「走るしかねえな!」


 飛び出す間もなく、美沙が駆け込んできた。


「お兄ちゃん! エイリアンが来たよ! うわっ、卑弥呼がいる!」

「分かってる! お前は避難してろ! 俺は出撃する!」

「ならば飛ぶぞ!」

「え? ええーーー!?」


 卑弥呼は慎介の首根っこを掴んで窓から飛び出す。そのまま風の精霊を召喚して空を飛ぶ。

 美沙の不満の声が聞こえた気がしたが、すぐに風に流れて消えた。


「お前、あぶあぶ」

「あぶの物まねか?」

「ちげえよ!」


 卑弥呼はそのままロボットのコクピットに慎介を叩きこむと自分も乗り込んできた。


「お前、乱暴すぎ!」

「じゃが、間に合ったじゃろう。さあ、わらわの国に仇なす奴らを倒せ! お前の働きを見せてみよ!」

「ここはお前の国でも俺はお前の臣下でもないんだが。出撃するぜ!」


 ロボットは飛び立っていく。世界の平和を守るために。

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邪馬台国の女王がロボットに乗って戦う話 けろよん @keroyon

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