第3話 新たなる脅威

 そうして、次の日。玄関で出かけるのを渋る制服姿の妹を慎介は見送っていた。


「日曜日なのに部活があるの。先輩が休んだら殺すと言って聞かなくて。くれぐれも絶対にあいつには気を付けてね」

「ああ、分かってるって。俺はもう死んだりしないから気にせず部活に行ってこい」

「行ってきます……」


 不承不承学校に行く美沙を見送って慎介は今日はゆっくりとするつもりだった。だが、それを許さない奴がいた。

 部屋のドアをノックもせずに開けてちっこい少女が乗り込んできたのだ。


「慎介、お前にわらわを案内する使命を与えるぞ。わらわがこの国を気に入るよう紹介に励むのだ」

「うるせえよ。何で俺がそんなことしなくちゃいけねえんだ」


 反抗すると卑弥呼が近づいてきて肘うちを放ってきたので、慎介は急いでベッドから跳びのいた。

 バフッと押し付けた顔を上げて卑弥呼は憤慨した。


「お前がわらわのロボットを破壊するからじゃろうが。お前が乗っていた方はどうしたことかわらわの力を受け付けんのじゃ」

「あれは神のロボットだからなあ」

「神めえ。この時代でもわらわより上だとふんぞり返りよるか」

「そう言うなよ。お前には殺されたけどお詫びだと言ってあのロボットくれたんだぜ。お前よりは良い奴だよ。仕方ない出かけるか」


 卑弥呼を放置しておくとどんな悪さをするか分からない。慎介はめんどくさいと思いながらも彼女と出かけることにする。

 コクピットに乗り込んで案内なら歩きでもいいんじゃないかと思ったが、それも面倒かとすぐに思い直す。


「お前はどこに乗るんだ? 掌の上に乗るか? それとも自分で飛ぶか?」

「ふざけるでない。乗る為の席があるのだからそこでいいじゃろう」

「ぐえっ、重い」


 卑弥呼はあろうことか慎介の膝の上に乗ってきた。迷惑を受けているのはこっちだと言うのに生意気に睨んでくる。


「文句を言っていると貴様を摘まみだすぞ」

「俺を摘まみだしてどうやってロボットを操縦するんだよ。動かすからおとなしくしておくんだぞ」

「うむ、お前の案内に委ねるとしよう」

「飛ぶぞ」


 慎介が操縦幹を押すとゴッドブレイブは空へと飛びあがった。卑弥呼はコクピットから見える外の景色を興味深そうに見ていた。


「昨日は戦いに夢中であまり見れなかったが、これがこの世界の景色なのじゃな。なかなか堅牢そうな建物が並んでおるし道も綺麗だし良いところではないか」

「ああ、そうだ。別にお前に気に入られたくて見せているわけじゃないんだが良い町だよな」


 エイリアンに壊された場所は一部あるものの世界は概ね平和だ。この平和がいつまでも続けばいいと思う。それがフラグになったのだろうか。

 地上を見下ろしていた卑弥呼が不意に顔を上げて、慎介は頭突きされないように慌てて顔を背けて頭を避けた。

 卑弥呼が見上げた物に慎介も気が付いた。青い空に点のような物が現れて近づいてくる。それは瞬く間に大きくなっていく。


「空から何か来るぞ。この時代ではあんなのも降るのか?」

「いや、降らねえよ!」


 エイリアンの侵略かと思ったが、あんなのは慎介も見たことがなかった。巨大な山のような物体が数個隕石の様に降ってくる。

 それらは地上に着地すると木のように根を生やした。驚きはしたが兵器のように爆発したりはせず、対エイリアン用に改装されていた町にはたいした被害は出ていないようだ。

 正体はすぐに教えられた。

 コンソールに慎介の知る神様の姿が映し出された。


「慎介よ、あなたに伝えておくことがあります」

「待ってくれ。今はそれどころじゃ」

「あれはダンジョンです。あなたが私の定めた異世界に行かず無理やり元の世界に戻ったからそちらへ転移して流れ落ちてしまったのです」

「なんだって!?」

「あれは慎介のせいじゃったか」

「人聞きの悪いこと言うなよ。元はと言えばお前のせいで」

「ダンジョンを消滅させるには迷宮主を倒す必要がありますが損な話ばかりではありません。ダンジョンにはこの世界にはない宝も眠っているからです」

「宝か」

「それがあればあの博士に請求されたお金を返せるかもな!」

「この情報はこの世界の人間にも共有しておきます。では、頑張ってください」


 神様の映像が消える。慎介と卑弥呼はダンジョンを、さらにその奥に輝くであろう宝を見据えた。


「どんな宝があるんだろうな」

「楽しみじゃな。さっそく行こうではないか!」


 慎介はロボットを操作して近くのダンジョンに向かっていく。だが、二人は状況を甘く見ていた。

 敵は未知のモンスターだけではない。情報を共有された人間達もまたライバルだったのだ。


「ダンジョンの宝か」

「こいつは楽しみだぜ。くえっへっへっ!」


 戦いは続いていく。

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