第36話 マスターの逆襲

「クソッ。あの程度の魔法で機械人形を破裂させただと……。あの小娘、何をしやがった?」


 全ての魔法には術式という手順がある。


 その手順に従って魔法を使うことを、古代の魔法使いたちは術式を組み立てると表現していた。


 正しい手順にそって術式を組み立てると、魔法の威力や効果が格段に上がる。


 例えば、魔法使いが術式を詠唱するのは、その手順を正しく行うための方法を読み上げて、確実に実施するためだ。


 現代の魔法使いは、この術式の概念を知らずにイメージだけをたよりにして魔法を使っていた。


 そのため、古代の魔法に比べて、威力や効果が劣っていたり、より多くの魔力を消費していたのだ。


 アンナはこの術式を正しく組み立てていたので、見た目よりはるかに強力な威力の魔法を撃てたのだ。


「私の機械人形をよくも……絶対に許さんぞ」


 マスターは、素早くアンナの髪を掴むと、顔を地面に叩きつけた。


 そして、頭を何度も踏みつけた。


「がはぁっ!! がはぁっ!!」


「私の怒りはこの程度ではおさまらんぞ。お前、身体は再生出来ても、痛みはカット出来ないだろう? 痛みで気絶しても何度でも叩き起こしてやる。次は身体を切り刻んでやるよ」


 マスターはアンナの髪を引っ張って再度持ち上げた。


 マスターは左手でアンナの身体が浮くまで上に引っ張り上げると、右手に魔法でロングソードを具現化した。


「どうした? その腹、ずいぶんと膨らんでいるじゃないか。なるほど、私と違って、魔素を解毒出来ずに腹に溜めてしまうようだな。それで動けないでいるのか。なら、まずはその膨らんだ腹を突き刺してやるよ」


 マスターはアンナの下腹部に剣を突き刺した。


「あぐぅっ!!」


「ああ、いい声で鳴くなあ。なあ、もっと聞かせてくれよ」


 マスターは何度も何度も下腹部に剣を突き刺していく。


「あぐぅっ!! あぐぅっ!! あぐぅっ!! あぐぅっ!! あがぁっ!! あがぁっ!!」


 マスターが剣を突き刺すたびにアンナは悲鳴をあげる。


「いいねえ!! ゾクゾクしてきたよ!!! 今度はこのまま上に突き上げてやる!!!!!」


 マスターはアンナの下腹部に突き刺した剣を、そのまま上に突き上げた。


「ああああああああっ!!!」


 しかしその瞬間、何かに気づいたマスターは動きを止めた。


「……なんだこれは?」


 マスターの周囲を無数の光の円盤が取り囲んでいた。


 アンナはマスターにいたぶられながら、周囲に高速で回転する無数の光の円盤を魔法で作り出していた。


 しかし、マスターはアンナをいたぶるのに夢中でそれに気づかなかった。


 高速で回転する光の円盤がマスターに向かっていく。


「ふん、悪あがきをしやがって。こんなもの、かわすまでもない。すべて受け止めてやる」


 光の円盤を大したことがない攻撃と判断したマスターは、アンナの攻撃をすべて受け止めた。


 しかし、その判断は間違っていた。


 アンナの作り出した光の円盤は、かまいたちのような姿へと変化して、マスターの全身を細切れになる寸前まで切り刻んだ。


「があああああぁぁぁっ!!! がぁっ!!! はぁっ!!! はぁっ!!! くっ!!! まさか……まさか私が……これほどまでのダメージを喰らうとは!!!!! だが、お前も……もう動けないだろう?この傷を治すのに……しばらく時間がかかりそうだが、私の勝ちは……揺るがない!!!!!」


 そう話すとマスターは漆黒の壁を二人の周囲に作り出した。


「私の身体が……回復するまでに……他の奴らに邪魔をされると……面倒だからな。ぐぅっ!!! 魔法の壁で……仕切らせてもらった。後は、私の身体が……回復するのを待つだけだ。ははっ!!! お前は……魔力を使いすぎたな。腹の傷は治ってきても……膨れた腹は戻らないようだなぁ。はぁっ!!! はあっ!!! 私の勝ちだぁ!!!!!」


 しかし、いくら待ってもマスターの身体は回復しなかった。


(……おかしい。身体が回復しない。それどころか動かすことも出来ないだと。どうなっている?)


 アンナは突き刺された下腹部を押さえて、痛みをこらえながら笑っていた。


「はぁっ、はぁっ。ふふ……この私が……何もしないとでも思った? あなたより……この超再生能力の身体とは……長く付き合っているからね。弱点も……調べてあるの。一見無敵にみえる能力だけど……回復には、酸素が必要なの。酸素欠乏の状態になってしまうと、細胞自体の……はぁっ、はぁっ……再生能力が……著しく低下してしまうからね。だから……ずっとあなたの周囲の空気を……操作して……酸素濃度を……低くしておいたの。それだけじゃないわ。さっきの……魔法に……はぁっ、はぁっ……麻痺性の毒を……仕込んでおいたの。細胞が……麻痺していくと……再生能力は……さらに鈍くなるわ。ふふ……あんたも……そろそろ、出血多量で……ヤバいんでしょう?さっきから……声も出せないみたいだし・・・」


 しかし、追い詰められたようにみえたマスターも不敵な笑みを浮かべた。


 彼女は宇宙から隕石を召喚していた。


 巨大な隕石をこの世界に落下させて全てを破壊する。


 それがマスターの奥の手、最後の作戦だった。


(ここまで私を追い詰めたことを褒めてやるよ、小娘。だが、私だけ死ぬと思うなよ。確実にこの国を破壊するために、上空に隕石を召喚してやった。あれが落ちれば、この国どころかこの世界の人間は全て終わりだ。みんな道連れだ!!!)

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