第33話 大災害を乗り越えて

 ローゼンブルグの中央部にある太刀破山。


 この山の山頂にある、水鏡湖と呼ばれている湖には、湖底に二酸化炭素が溜まっていた。


 その湖の上空に、機械人形たちが魔法で浮かんでいた。


「さあて、時間だ。一気に爆発させるよ」


 機械人形たちはここの湖底を目掛けていっせいに閃光魔法を放った。


 閃光魔法は湖の底を爆発させて、湖底に溜まっていた二酸化炭素が一気に噴き出した。


 二酸化炭素は空気よりも重い。


 そのため、高濃度の二酸化炭素が太刀破山を下り、ふもとの街を襲った。


 二酸化炭素の塊は、山に生息していた魔物や生物を窒息死させながら、街へと進んでいった。


「ふふ、これで山の周辺の奴らは全滅だね」


「生物が高濃度の二酸化炭素を吸うと、一瞬で意識が飛ぶらしいからな。奴らは何が起きているのかすらわからず窒息して死ぬだろう。ま、苦しまずに死ねるだけありがたいと思ってもらおうか」


「そうだねえ。それじゃ、一応周辺の街を確認してからマスターのところへ戻ろうか」


「こういう時は確認を怠るなっていうしな。念のため、魔法で風を起こして二酸化炭素の濃度を下げながら行こうぜ。俺たちにも影響があると嫌だからな」


 機械人形たちは、上空を飛びながら風の魔法を使い、自分たちの周囲の二酸化炭素を吹き飛ばしながら街へと向かった。


 そして、機械人形たちは街に降り立った。


「おかしい。街に人が見当たらないぞ」


「どうなってるんだ? まさか、こいつら、事前に避難していたのか?」


「そんな、ありえない。僕たちが行動を起こすことを事前に知っていたとでもいうのか?」


「とりあえず、魔法で周辺に人間がいないか感知してみようぜ」


 この時、機械人形たちは、感知に気を取られて風の魔法を使うのをやめてしまっていた。


 しかし、それは致命的なミスだった。


 生物と機械のハイブリッドで出来ていた新型の機械人形たちは、高濃度の二酸化炭素の影響を受けたのだ。


「しまった!!!」


 その言葉と同時に、機械人形は活動を停止した。


◇◇◇


 この日、ローゼンブルグの各地で、大規模な災害が同時に発生した。


 しかし、ミリエラが事前にアンナにダウジングで危険な場所を察知してもらい、あらかじめその場所の住民をシェルターに避難させていたので、住民への被害を軽減することができた。


 それでも、かなりの数の犠牲者が出た。


 特に、機械人形と直接交戦した組織のメンバーは、ほとんどが命を落としてしまった。


 また、住民を説得することができず、シェルターへの避難が遅れてしまった結果、犠牲者が発生してしまった場所もあった。


 だが、それらの災害は全てマスターの陽動だった。


 彼女の真の狙いは別にあったのだ。


◇◇◇


 ミリエラは組織のメンバーを招集して、緊急の集会を開いた。


 集会の冒頭で、宇魅那がメンバーに語りかける。


「まずは、ここにいる皆様に感謝の言葉を送ります。皆様は、この国の未来のために立ち上がってくれました。それだけで、私は皆様に感謝をしきれません。本当に、ありがとうございます」


「お恥ずかしいのですが、私は、一度この国から逃げ出そうとしてしまいました。しかし、皆様は、そんな私を信じて、今一度チャンスをくださり、この国を守ろうと行動していただいています。今の私にとって、こんなにうれしいことは、他にはありません。特に、私をここに立たせてくれたミリエラさん。あなたには、この組織を一から作り上げていただきました。この場で御礼を申し上げます」


「ですが皆様、どうか、まずはご自身の命を第一に考えてください。ご自身の命より大切なものはありません。今回の作戦を遂行する上で、少なくない人数の犠牲者が発生してしまいました。この国を思い、命をかけてくださった方々に、今ここで哀悼の意を表します。その上で、皆様にお願いしたいのは、この国を守るために、ご自身の命を第一にしながら、一人一人ができることを、確実に遂行していただきたいのです」


「残念ながら、今、この国を破壊しようとする一人の女性がいます。彼女はかつてこの国が生み出してしまった悪魔ともいうべき存在です。そんな彼女から、この国を守り、新しい世界を作る。そのために、もう少しだけ、皆様のお力をお借りしたいのです。私は、そのために命をかけて、全力で皆様を支援することをここに誓います。どうか、この国を守るために、もう少しだけ皆様のお力を貸してください。お願いします」


 自身の言葉で覚悟を込めて語りかける宇魅那の姿に、組織のメンバーたちは心を打たれた。


 そして、各メンバーがより強い意志を持って、マスターの次の行動に備えることができた。

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