第32話 流神ダムの攻防
イバラ姫がいた研究所には、限られた人物しか入れない空間があった。
その場所の入口は生体認証でロックされていて、マスターはイバラ姫の身体を手に入れたことで初めてその空間にアクセスすることが出来た。
その空間には多数の機械人形が保管されていた。
この機械人形は、機械がベースのガーネットとは違って、人間や魔物の細胞と機械のハイブリッドで作られていた。
そのため、彼らには人間や魔物から魔力を奪って吸収する機能がついていた。
他の生物から魔力を奪って体内に蓄えることで、彼らは魔道炉が無くても活動が可能となったのだ。
マスターは、この機械人形たちの思考データを書き換えて、自らの兵士とした。
そして、この機械人形たちに、この国の各地で破壊活動をするように命じた。
◇◇◇
二人の機械人形は、この国最大のダムである流神ダムを破壊して、ダムの下流に洪水を発生させる任務を命じられていた。
流神ダムについた二人は、これから破壊する予定のダムの壁を確認する。
「さあて、あとは時間になったらこいつを壊せばミッション完了だ」
だが、そこにはレオニードとヨナが待ち構えていた。
「やあ、君たち。このダムを壊しに来たんだろう? ここを壊すと洪水が発生して甚大な被害が出るからね。そんなことをさせるわけにはいかないから、ここで倒させてもらうよ」
「ちぇっ。待ち伏せされているなんて、聞いてないよ」
「残念だったね。非常時には、ダムみたいに壊されて困るものは、真っ先に警戒するものなんだよ」
「まあ、倒してしまえばいいだけのことだよ。もう少しで予定の時間になっちゃうし、さっさと片付けよう」
「オーケー。すぐに消しちゃおう。ボクたちを待ち伏せしたことを後悔させてやる」
そういうと、機械人形たちは閃光魔法を連続でレオニードたちに放った。
レオニードとヨナは、ガーネットとの戦闘経験をもとに、機械人形たちの攻撃を回避していく。
「前に戦った機械人形と同じような攻撃魔法です。彼らも機械人形なのかもしれません」
「ああ、だが、決めつけるのはまだ早いかもしれない。何か嫌な感じがするんだ」
「なるほど。君たちはガーネットと戦ったことがあるのか。ま、半分正解ってとこかな。ボクたちはあいつとは違って新型なんだよ。一緒だと思っていると痛い目見るよ」
新型の機械人形は二人の予想よりも行動速度が速かったため、二人は攻撃を回避しながら様子を伺っていた。
「くすくす、かわしているだけじゃ、ボクたちには勝てないよ」
(なるほど、確かに同じではないようだ。この二人の行動速度は速いが、肝心の閃光魔法が前の機械人形より大分遅い。アンナの話では、あの機械人形は研究所の魔道炉から魔力を供給されていて、無限に魔法を使えたみたいだ。でも、君たちはあの子とは違って、魔力を無限には使えないはずだ。だから、無意識に魔法の威力をセーブするように調整されているのかもしれないな)
閃光魔法をかわしたあと、素早く機械人形に接近して攻撃するレオニード。
レオニードは持っていた剣で、ローブの上から機械人形の身体を突き刺した。
(おかしい、こいつ、俺の攻撃を避けなかったぞ? まあいい、致命傷だ。これでもうこいつは終わりだ)
「今のは迷いがなくていい攻撃だったよ。だけど、残念だったねえ」
身体を突き刺された機械人形は、ローブで隠していた尻尾でレオニードを攻撃した。
「ちぃっ!!!」
反撃されたレオニードはとっさに反応したが、腹を貫かれて深傷をおってしまう。
「レオニード様!!!」
「ぐぅっ!!! ヨナ、君は自分の敵に集中しろ!!!」
(かわしきれなかった。たぶん内臓をやられたな……)
「とっさに身体を捻って急所を外すとは、さすがだね。まあでも、身体を貫通しているから、長くは持たないよ。即死した方が苦しまずにすんだのに、かわいそう。くすくす」
「ふふ、君たちと違ってボクたちには再生能力があるんだ。だから、身体を貫かれても平気なのさ。さて、ヨナとかいったかな? このままボクが閃光魔法でダムを狙えば、君は攻撃を回避できないねえ。さあ、どうする?」
「くっ!!!」
「そうはさせないよ」
二人を助けるために、気配を消して近づいていたスクネが、機械人形を背後から剣で突き刺した。
「ぐっ!!! 不意打ちとは卑怯だね。でも、この程度なら、いくらでも再生出来るんだよ。残念でしたー」
スクネは剣を突き刺すと同時に機械人形の尻尾を掴んで、反撃を防いでいた。
「あれ、なんで? この感覚は、ボクの魔力が吸われているの? おい、お前、何してるんだよ。ふざけんな。こんなの反則だろ!!!」
スクネの剣は機械人形の魔力を奪っていた。
「ちっ、今助けてやる!!! そんなふざけたこと、させてたまるか!!!!!」
「あなたの相手はこの私よ!!!」
もう一体の機械人形を、ヨナが足止めする。
「邪魔するな!!! どけ、クソアマ!!!!!」
「死んでもお断りよ、バケモノ!!!」
機械人形が尻尾でヨナを攻撃するが、ヨナに剣で受け止められる。
スクネは、魔法剣で、一体の機械人形の魔力を全て吸い取り機能停止に追い込んだ。
この剣は、アロウラがスクネのために作った魔法剣である。
剣自体に魔力が溜められる魔道具が埋め込まれているため、攻撃時に相手の魔力を奪って、剣に埋め込まれたに魔道具に補充するだけでなく、持ち主が魔法が使えなくても、剣に魔力を付与して攻撃することが出来るアイテムだった。
(この剣は、敵の魔力を吸収することが出来る。そして……吸収した魔力を放出して、攻撃にも使えるんだ。魔法を使えない僕でもね)
「ヨナさんありがとう。これで終わりだ!!!」
スクネは、機械人形から吸い取った魔力をヨナと小競り合いをしていたもう一体の機械人形に斬撃として飛ばして、機械人形の首を切り落とした。
「クソっ!!! 間に合わな……」
首を飛ばされた機械人形は動かなくなった。
「はあ……。はあ……。クロウド君……。ありがとう……。助かったよ」
「喋らないで、レオニードさん。すぐに回復してもらうから」
「いや……いいんだ……。俺はもう……」
「大丈夫、アンナなら治せるはずだから……」
その時、首を飛ばされたはずの機械人形の身体が動いた。
機械人形は最後に全ての魔力を使って閃光魔法を放ち、ダムの壁を破壊した。
「しまった!!! まだ動けたのか!!!!!」
「ばーか、ボクは首を飛ばされても魔力が残っていれば身体が動くんだよ。機械人形だからね。はは……残った魔力で……ダムを破壊して……やった……。ざまあ……みろ……」
そこまで話すと、機械人形の首と身体は完全に機能を停止した。
機械人形に破壊されたダムの壁から、水が濁流となって外に流れ込む。
「そんな!!! こんなことになるなんて!!!!!」
「大丈夫、私が止めるわ」
壊れた壁から流れ込む水を、アロウラが魔法で凍らせて止めた。
「爪が甘いわよ、クロウド。最後まで気を抜かないで」
「ごめんね、アロウラ。フォローしてくれてありがとう」
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