第95話 盗っ人猛々しい
「実はパーソナルメディア事業部では、ユーザー投稿型の動画配信事業の企画が動いている」
パーソナルメディア事業部はサイバーフュージョンに新設された事業部だ。
柊が始めたブログサービスを源流としている。
「そこに
「あぁ、そうだ」
「そんなでかい企業に入る余地があるのか?……あ、技術か!」
「そうだ、動画の圧縮技術は世界トップと言ってもいい」
「ジミーの後押しもあるし、そうだろうな」
景隆が調べたところ、ジミーは世界でも有数のエンジニアであったことが判明している。
「そもそも新田の貢献が大きい技術なんだけどな」
「CFから新田を奪って、その新田が作ったものを売るのか……盗っ人猛々しいな!」
「新田を奪ったのはお前だろうが……」
柊は呆れていたが、景隆は柊こそが新田を欲しがっていたと思っている
「あとは、俺が知っている未来の技術を小出しに提供してもいいし、レコメンドエンジンを提供してもいい」
「レコメンドエンジン……機械学習を使うのか」
「あぁ、そうだ。この時代の機械学習の技術は未来からみると、かなり原始的だ」
レコメンドエンジンはすでにユニケーションに導入されており、チューニングを施せばほかのシステムでも使える状態だ。
「それらを売るってことか?」
「それも悪くないが、業務提携してもいいと思う」
「どういうことだってばよ」
「CFはデータセンターを始め、強いインフラ基盤を持っている。それを間借りしたい」
「なるほど! インフラの初期投資は膨大だから、悪くない……いや、かなりいいな!」
「うーん……」
柊は解けなくなった知恵の輪を目の前にしたような表情になった。
「なんだ?」
「俺の時代では、CFにパーソナルメディア事業部は存在しないんだよ」
「柊がきっかけになったってことだな」
「大分先の未来だが、CFはインターネットTVを始めるんだよ」
「テレビのインターネット版?」
「そうだ。最初はペイパービュー――都度課金方式だったんだが、広告を付けた無料配信になった。
コンテンツはオリジナル番組を配信している」
「どんな番組なんだ?」
「アニメ、ニュース、バラエティ、スポーツなどがある」
「まさにテレビだな」
「CFとテレビ局が共同出資した事業なんだよ」
「ということは、テレビ局の番組も配信されるのか?」
「そうなるな」
景隆は「あれ、ちょっと待てよ?」と首を傾げた。
「パーソナルメディア事業部はユーザーが主体の事業だろ? そのテレビ事業とは真逆じゃないか?」
「そうなんだよな……俺が介入したことでCFの歴史が明らかに変わってしまった」
「じゃあ、そのテレビ事業はどうなるんだ?」
「どうなるんだろうな?」
「そこに関しては柊の未来の知識は当てにならないってことか」
「そうなるな」
「マジかぁ……」
この時、サイバーフュージョンのインターネットテレビ事業が世間を騒がすほどの大事件になることを、二人は知る由もなかった。
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