第94話 広告収入型ビジネス

「最大手は検索エンジンの企業だ」

「あの会社が動画配信サービスもやるんだな」

「ちなみにインターネット検索の九割をこの企業が占めることになる」

「マジか!? 独禁法で問題になるんじゃないのか?」

「実際に問題になっているが、それは後回しにしよう」


柊はこの企業に対して何やら思うところがあるようだ。


「元々は別なベンチャー企業が始めたサービスだったんだ」

「それを買収したってことか」

「あぁ、そうだ。石動が言った三大要素のどれも満たしていなかったが、ベンチャーキャピタルから巨額の出資を受けている」

「 収益はどこから来ているんだ?」

「そこが問題だ。動画再生数が急激に伸びて、回線コストだけで月当たり百万ドルになると言われていたと思う」

「うげっ!」


景隆は怯んだ。このビジネスに本格的に参入するなら、相当な覚悟が必要だと感じた。


「そこで件の検索エンジンの企業がこの買収をしたんだ。十数億ドルくらいの規模だったと思う」

「すんごい金額だなおい」

「俺も当時はそう思ったが、今となっては……今思うと安い買い物だった」

「そんなに伸びたのか!」


「順を追って話そう。この動画配信サービスのコンテンツはユーザーが投稿するスタイルだ」

「ユニケーションと同じ感じだな。コンテンツはサブスクリプション型とは逆なんだな」

「たしかにそうだな。そして、このスタイルは広告アルゴリズムとの相性が良かった」

「コンテンツの内容によって適切な広告が表示されるってことか」

「あぁ、さらにユーザーが興味を示すような動画がレコメンドで表示される」

「ECサイトのおすすめ商品みたいなやつだな」

「商品を買うには金が必要だが、動画は無料だ」

「うげっ……ユーザーは気に入った動画を延々と観続けることができるのか……」

「広告収入型と相性がいいだろ?」

「たしかに……それなら買収金額は安いだろうな」


「映画やスポーツなどと比べて、ユーザーが投稿するコンテンツは、数は多いものの内容や品質は動画を投稿するユーザーの力量に依存する」

「普通に考えたら金をかけたコンテンツのほうが強そうだな」

「あぁ、だから動画投稿者が広告収入を得られるような仕組みにしたんだ」

「なるほど! それなら視聴者にとって魅力的な動画を作るモチベーションになるな」


「これにはいくつかの問題がある」

「たとえば?」

「著作権侵害だな。これについては権利者側の申告があれば削除される対策が施された」

「インフラ以外にも運営コストがかかるんだな……」

「再生数を稼ぐために、デマや有名人を誹謗中傷したりする動画が出回ったりするんだ」

「うげっ……やっかいだな」


「とまぁ、色々問題もあるわけだが、このサービスの影響力は既存メディアを脅かすほどに成長している」

「新聞やテレビよりも強くなるってことか?」

「具体的には大統領選挙にも影響を与えるほどだ」

「うそん」


景隆は驚いた。

今の時代と、柊が体験している未来の時代では相当な違いがあるのだろうと推察できる。


「このサービスを維持できるのは広告収入があるからだ」

「だから検索エンジンの企業が買収したのか……」

「広告アルゴリズムや広告主とのコネクションなどがあるからできるビジネスモデルだな」


景隆は「うーん……」と考えながら言った。


「話を聞いてみて、広告収入型のほうが難しそうだな。広告収入を安定させるのはかなり大変そうだ」

「その認識で合っていると思う」

「サブスクリプション型なら、小規模でも機能しそうだしな……

そうだ! ユニケーションをサブスクにするのはどうだ?」

「いいんじゃないか? ……いやいいと思う」

「なぜ二回言った」

「大事なことなので二回……このミームはまだだったな」


柊の発言は未来で使われる言い回しだった。


「サブスクリプションにすることで、安定して長期的な収益が見込める。

ビジネスをするうえで、この型に落とし込める利点は大きいんだ」

「ビジネス全般にってことだな」

「そうだ。小売などの業態もできなくはないが、ハードルが高い」

「インターネットサービスなら課金方法を変えるだけだから、検討の価値は十分にあるな」

「そうだな。料金体系をどうするかは上田を交えて議論しよう」


(そういえば、霧島カレッジもある意味サブスク型のビジネスだな)

霧島カレッジはeラーニング『グロウ』の導入により、地方に在住している候補生を増やしている。

これは大河原の成功事例も後押ししていた。

霧島カレッジから入ってくるグロウの運営費用は翔動の収益の柱の一つだ。


「うーん……柊の話を聞いて大変なのは話を聞いてよくわかったけど、本格的な動画配信事業をいずれはやりたいな」

「やけにこだわるな」

「うまくいけば、メディアを牛耳れるかもしれないだろ?」

「あぁ、そういうことか……とりあえず、サイバーフュージョンと組んでやってみるか?」

「ええっ!?」


景隆は柊の前向きな提案に驚いた。

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