第79話 近況2

「そんで、鷹山さんや、石動くんの会社はどう?」

「はい、新しい技術がばんばんと使われていて、とても刺激的です!」

「いいなぁ」


白鳥は羨ましそうに言った。彼がこのような表情をすることは珍しい。


(良家のご子息を迎い入れるにはまだ早いのか……?)

以前、白鳥は翔動に入りたいようなことを言っていたが、どこまで本気で言っているかは不明だ。


「デルタイノベーションで発表した技術は、柊と新田からのアドバイスだったんですよ」

「なるほどねー……新田って誰よ?」

「すごい人なんです! プログラミングだけなら鷺沼さんよりすごいかも」

「ほほぅ」


鷺沼は興味津々だ。


「動画のエンコーダーをアセンブリ言語で書くくらいの変態ですよ」

「マジで!」「本当に!?」


さすがに鷺沼と白鳥も驚いていた。


「それってすごいんですか?」

「うーん……デルタファイブうちで言えば、本社でOSを開発している連中くらいかな」

「めちゃくちゃすごいじゃないですか!」


デルタファイブはハードウェアであるサーバーと、そのサーバーで動作するOSやミドルウェアを自社開発している。

OSの開発にはアーキテクチャに対する深い理解やカーネルを熟知している必要がある。


「なんで、そんなすごい人が石動の会社に?」

白鳥の疑問はもっともだ。


「ダメ元で誘ったら、入ってくれた」

「んな、天下一武闘会でプロポーズするみたいなノリで……」

白鳥は呆れていた。


「私は柊さんもすごいと睨んでいるけどねー」

「鷺沼さんが言うなら、よっぽどですね。確かに、CPUの問題はわかってみたいですし……」


白鳥は勘違いをしていた。

柊がCPUの問題を知っていたのは、一度同じ問題を経験しているためだった。


「実際に戦ってみて、彼がすごいのがわかったよ」

「ええっ!? 戦ったって?」


またも景隆が知らない情報が入ってきた。


「ふっふっふーん、内緒だよ」

「けちー」


関係ない鷹山が反応した。大分酔っているようだ。


「その時に石動くんみたいな行動をしてたんだよねぇ」

(ギクッ……そういえば、やたらと勘がいい人だった……)


柊には、「鷺沼さんが色々と感付いているから気をつけろ」と言われていたが、景隆はどう気をつければいいのかさっぱりだった。


「ほへー、やはり同一人物でしたかぁ」

鷹山は後日、自分がなにを言ったのが覚えていないであろう。


「そういえば、柊さんに聞く時間がなかったんだけど、イベントのスポンサーって何でやるの?」

鷺沼が食べようとしているちくわは辛子蓮根のようになっている。


「自社サービスの宣伝です」

「あー、eラーニングね。なっちゃんの声いいよね!」

「ありがとうございます」


鷺沼はユニケーションのベータテストに参加してくれているようだ。

(後で中身の感想を聞いておこう)


「例の映画とコラボレーションするので、そのアピールもするつもりです」

「くまりーの映画?! マジで!?」


鷺沼はみるからに辛そうなちくわを平気で食べていた。


「柊がキリプロとつながっているみたいなんです」


白鳥は思い当たる節があるのか、日本酒を飲みながら首を傾げていた。


「石動くんは無関係なの?」

「俺はどちらかというと、子会社の霧島カレッジ側の仕事をしています」

「石動さん、声優と仕事していますよね?」


鷹山の顔は上気したように赤くなっている。


「まぁ、声優というか卵というか……」

「なにそれ詳しく!」

「あのなっちゃんはですね。実は――」

「おぃ、鷹山――」


景隆は鷹山が喋りすぎないように必死で止めていた。


「柊さんと言えば、石動、アストラルテレコムなんだが」

「なんだ?」


大河原の話題で盛り上がってる女性陣を尻目に、白鳥は真面目な表情で言った。


「運用部門がばたばたしているようだな」

「アクシススタッフから優秀な人材が三人抜けているからな」

「なるほどな……」


景隆は下山の退職が柊の手引であることは伏せた。


デルタファイブうちにいる、アクシススタッフの人たちも騒がしくなっているな」


デルタファイブにはいくつかの協力会社から派遣されている人材がおり、アクシススタッフもその一つだ。


「そうなると、アレが効いてくるな……」

景隆は柊に内緒で、ある仕掛けをしていた。

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