第80話 融資
「なんの用事だろうな?」
四十五銀行の支店長室で景隆はソワソワとしていた。
景隆と柊は四十五銀行の支店長に呼び出されていた。
四十五銀行はエンプロビジョンのメインバンクであり、エンプロビジョンはこの銀行から融資を受けている。
翔動はネット銀行を使っているため、仕事で銀行の店舗に出向くことはほとんどない。
「まぁ、なんとなく察しは付いている」
柊は用件を予想しているようで、出発前に書類を印刷して持参していた。
景隆は物珍しそうに室内を見回した。
「支店長室ってすごいのを想像していたけど、普通の応接室だな」
「実際に応接室の目的で使われるみたいだぞ」
出されたお茶はかなり高そうだった。
玉露と煎茶の間をとったような旨味と甘味を合わせ持っていた。
柊は「かぶせ茶かな……」とこぼしていた。
「――お待たせいたしました。石動様、柊様。支店長の
二人は支店長の酒田と次長の
「本日は、エンプロビジョンさんの業績の件でお呼びいたしました」
年配の酒田に丁寧な口調で言われ、景隆は居心地が悪くなった。
反面、柊は泰然と振る舞っていた。
「こちらは直近のエンプロビジョンの月次決算です」
柊は持参した書類を酒田と砂越に渡した。
企業に月次決算をする義務はないが、柊は子会社の経営状況を逐次把握するため、エンプロビジョンの月次決算を翔動に開示することを指示していた。
「なんと、お見通しでしたか」
砂越は感心していた。
「どういうことだ?」
「エンプロビジョンの業績が急回復したから、その確認をしたいんだと思う」
「柊様の仰るとおりでございます」
酒田は書類を確認しながら言った。
隣の砂越も熱心に決算書を見つめている。
「なんで、業績が回復したことがわかるんだ? 本決算はまだだよな?」
「エンプロビジョンの口座残高が増えているだろ。これはキャッシュフローが良くなった証だ。
決算書で読み解けない情報はあるが、預金残高は嘘をつきにくい」
「なるほど、銀行は預金残高を確認できるからな」
四十五銀行は融資している立場であるため、エンプロビジョンの経営状況を確認しておく必要がある。
柊はそのために決算書を持参してきたようだ。
「ふむ、驚きです。どんな魔法を使ったらこんな短期間に業績を回復できるのでしょうか」
酒田は決算書の内容に余程感心したのか、真剣な表情だった。
柊は景隆に「お前が説明しろ」という視線を送ってきた。
「実は――」
酒田と砂越は、翔動が行ったエンプロビジョンの業務改革を熱心に聞いていた。
***
「はあ、驚きました」
「失礼とは存じますが、お若いのにかなりの手腕をお持ちで感服いたしました」
酒田と砂越の称賛に、柊は「調子に乗るなよ」と目線で訴えてきた。
景隆は「わかっている」と目線で返した。
「いくつかの幸運が重なっての結果です。同じことを再現できるかはわかりません」
景隆はできるだけ謙虚に言った。
上田のような優秀な営業が確保できていなければ、再建にはもう少し時間がかかっていたであろう。
「当行は、その再現性を期待しております」
「エンプロビジョンと同様な企業を弊社が買収して再生するということですね」
「仰るとおりでございます」
柊は酒田の意図がわかっていたようだ。
「つまり、御行から弊社に融資いただけるということでしょうか」
「石動様の仰るとおりでございます」
柊は予想していたようだが、景隆は急な展開に目を回しそうだった。
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