第11話 結婚式

「ああ、もうこんな時間!」

「リリー慌てても仕方がないわ。一つずつ確実に準備しなさい」

「はい、お母様」

 私は髪をまとめているメイドと、化粧をするメイドに身を任せたままじっとしていた。


「さあ、出来ました。お嬢様。いかがでしょうか?」

 鏡の中の私は輝くように美しい。


「馬車の用意もできています。リリー、これからも頑張るのよ」

「はい、お母様」

 私はお母様に手を引かれたまま、お父様の待つ馬車へと歩いて行った。

「リリー、なんて美しいんだ」

「……ありがとうございます、お父様」


 馬車は私たちを乗せると王宮に向かった。


***


「アーチャー伯爵家がお着きです」

「分かった」

 俺は立ち上がると礼服にしわがないか確認し、礼拝堂に向かった。


 父上と母上、兄上とレイシア妃はすでに礼拝堂に入っている。レイシア妃の悪行が明るみに出てからは、母上が自分の侍女を監視役としてレイシア妃に仕えさせている。もう、問題は起こらないはずだ。


「リリー、待っていろ」


礼拝堂のドアを開け、祭壇の前に進む。

前の席に座った父上と母上、兄上がにこやかに俺を見つめていた。

レイシア妃は冷たい目で俺を見ている。


 パイプオルガンが鳴り響いた。


 リリーが俺のところまで歩いてくるのを、じっと正面を見て待っていた。


***


 礼服を身にまとったロバート王子は、凛々しく、やはり見とれてしまう。

 お父様から離れロバート王子の腕に手を添える。

 緊張と幸福感と、非現実的な感覚で私はぼんやりしそうになっていた。


 祭壇の牧師がロバート王子に言った。


「ロバート、貴方は健やかなる時も、病める時もここにいるリリーを妻とし、尊重し愛しむことを誓いますか」

「誓います」


「リリー、貴方が健やかなる時も、病める時もここにいるロバートを夫とし、尊重し愛しむことを誓いますか」

「誓います」


「では、誓いの口づけを」


 ロバート王子が私のべールを持ち上げる。淡い青色の瞳はあたたかな光をたたえている。

 唇が重ねられた。


***


 結婚式が終わり、フラワーシャワーの中をロバート王子と一緒に歩く。


 教会を出ると、馬車が待っていた。


「さあ、これから王宮でパーティーだ」

 ロバート王子は私を抱きしめ耳元でささやいた。


 白いバラで飾られた四頭立て馬車の扉を従者が開いた。私が馬車に乗ると、ロバート王子も馬車に乗った。

 

 白い馬に乗った兵士たちが、私たちの馬車を先導する。

 王宮までの道沿いには民衆が集まっていた。


***


 王宮に着いた。

建物に入ると廊下から広間まで、たくさんの花がこぼれるように飾られている。

 大広間にしつらえられた新郎新婦の席は、美しい白い花で飾られている。

 その隣には王家の人々の席が用意されていた。


 国王夫妻とアレン王子、レイシア妃がやってきた。

 国王がロバート王子に言った。

「お前もこれで一人前だ。今までのような振る舞いは許されないぞ」

「はい、父上」

 ロバート王子が素直に頭を下げ、国王は目を丸くしてから、小さく頷いた。


「リリー嬢、これから王家の一員として恥ずかしくない振る舞いをするように」

「はい、国王様」

「義父とよんでくれてもかまわない」


「恐れ多いことです」

 恐縮する私に、ロバート王子が耳打ちした。

「気にするな、ただの老いぼれだ」

「ロバート!」

 国王とアレン王子が厳しい目でロバート王子を見た。ロバート王子は気にしない様子で微笑んでいる。


 国王たちも席に着くと、従者が国王に尋ねた。

「そろそろ来訪者を中に入れてもよろしいでしょうか?」

「いいだろう」


 従者が去り少しすると、大勢の貴族がやってきた。

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