第24話 イマジナリーファミリー

 仕事中に妻から連絡が来た。妻のお腹の中にいる赤ちゃんの性別が分かったらしい。女の子だ。LINEでエコー写真も送られてきた。謎の直感で男の子かなと思っていたので、少し意外だった。母子共に健康に出産まで辿り着けることを願っている。出産を前にすれば、妻が精神的に不安定になる事も当然あると思う。そんな時は夫である俺が献身的に支えたいと思う。病める時も健やかなる時も互いに支え合いたい。俺がいよいよ父になるのだという実感が少しずつ湧いてきて、正直言って今日は仕事があまり手につかず、ぼーっとしていた。当然かもしれないが、親は子供がいて初めて親になれる。親にとって子供の存在は人生の全てだ。子供と一緒に親は成長していくのだろう。俺の人生の主人公が、これからは俺ではなく娘になるはずだ。


 仕事中、俺はどこか上の空になりながら、まだ会ったことのない娘の名前をいくつか考えていた。


 ・くるみ

 ・未来(みく)

 ・奏(かなで)


 の三つが浮かんできた。


 くるみの由来と未来の由来については、ほぼ同じだ。娘の未来が明るいものであってほしいという願いを込めた。


 くるみ=来る未来


「くるみ」っていう響きが可愛いと思う。「みく」も可愛い。「かなで」も響きが良い。


 奏に関しては、さっきなんとなく浮かんだ。俺が個人的に音楽(ロック)が大好きなので、素敵な音楽を奏でるように楽しく豊かな人生を歩んでほしいという由来がある。


 職場の昼休みの時、俺はメシを食った後、なんとなく最近の赤ちゃんの名前ランキングを調べてみた。最近は女も男もどちらかというと中性的な名前が増えてきているように感じる。


 いわゆるキラキラネームは、本人が苦労したり悩んだりするだろうから、あまり奇抜な名前は付けようと思わない。


 最終的には妻と深く相談しながら娘の名前を決めると思う。


 ちなみに俺の名前は母がつけてくれた。さすがにネットに自分の本名は出さないが、割と奇抜な名前で、リアルでは俺と同じ名前の人を今まで1人しか見た事がない。


 ちなみに俺の姉と妹の名前は父がつけた。


 そういえば俺の名前の候補の一つに「大河」があったらしい。俺は大河でも全然良かったが、最終的に母がつけてくれた名前の方が気に入っている。


 俺の母は一度流産を経験している。一番はじめに女の子を妊娠したが、子宮外妊娠だった為にこの世に生まれてくることはなかった。


 そして俺と姉に関しては不妊治療の末に生まれてきた。妹は自然妊娠だったそうだ。


 俺は自分から詳しく詮索した事はないが、母は相当不妊治療で苦労して、毎日泣いてたそうだ。


 年間の人工妊娠中絶件数は12万件を超えているらしいけど、俺の母みたいに子供を産みたかったのに産めなかった人の中絶も多いんじゃないかと思う。


「望まぬ妊娠」ってフレーズがあるけど、パートナーが妊娠して困るんだったら最初からちゃんとコンドームつけろよ。馬鹿野郎が。俺は経験は全く多い方では無いが俺なりにちゃんと避妊はしてたぞ。男は妊娠しないから楽でいいよな。でも相手の心と体を大事に思うならちゃんとしろ。命より重くて尊いものはこの世に存在しない。猿じゃないんだから考えろ。


 あと俺はASDという発達障害の特性上、短期的な恋愛はした事あるけど長期的に付き合うのは絶対無理だと思った。もう、する気もない。


 ◆


 ちなみに俺は独身で彼女もいないし現在は無職だ。イマジナリー妻と、イマジナリー娘と、イマジナリー職場の話を書いてしまった。読んでる方は分かってると思うが、一応全て俺の考えた妄言だと明記しておく。


 ◆


 俺が赤ちゃんの時、母は俺を見て「この子は将来サッカーをやるんだろうな」と直感したらしいが、実際に俺がやったのは野球だった。


 きっと俺は母親が思い描いていた息子には成れなかった。俺が少しでも幸せになる事が親孝行だと思うが、幸せになる方法が分からない。


 そういえば俺は生まれてきた時に奇形があった。右足に6本目の指が生えていたのだ。幸い、6本目の指には骨が無かったから、俺がめっちゃ赤ちゃんの頃に形成外科に入院して手術を受けた。だから俺の右足の小指は太くて歪な形をしている。でも全く生活には影響がない。プールの授業の時に同級生に馬鹿にされて笑われたくらいだ。馬鹿にされるのは慣れているから、俺もヘラヘラしていた。


 太宰治ほど深く考えてなかったが、俺は子供の頃から太宰みたいに道化を演じていた面はあった。


 今は全くそんな事はない。へりくだって自虐しても相手には俺の卑怯な魂胆は簡単に見透かされると気付いたからだ。俺が人を騙せるほどみんな馬鹿じゃない。むしろめっちゃ頭がいい人が俺の周りには多いので、人生への向き合い方や方法論が勉強になる。


 ◆


 昨日、大谷翔平の家のワンちゃん(デコピン)が始球式をしていた。マウンドからボールを口に咥えてキャッチャーの位置にいる大谷のところまで走って、ハイタッチをしていた。あれだけの大観衆のスタジアムでも動揺せずに立派な始球式だった。とても可愛い上に賢い犬だといつも感心する。YouTubeとかXに動画も上がってるので、興味ある方は見てみて下さい。デコピン超可愛い。


 大谷のデコピン愛が半端ない。今年のオールスターゲームでレッドカーペットを奥さんと歩いた時、大谷は内側にデコピンの刺繍が入ったジャケットを着ていた。インスタではデコピンの写真ばかり投稿している。


 興味が湧いて、デコピンの犬種について色々調べた。元々はオランダ出身の犬で、銃が開発されるまではカモ猟で活躍していた猟犬であるそうだ。一時期は絶滅危惧種とされていて、全世界で5匹しかいなかったそうだ。今も数は少ない。猟犬になるくらいだから、とても賢い犬なのだろう。


 そういえば俺の祖父はドーベルマンを飼っていた。ドイツ生まれの警察犬・護衛犬で、すらっとしてて超かっこいい犬だ。警察犬にもなるくらい知性が高い。端正な怖い顔つきで誤解されやすいが、ドーベルマンの性格は家族に忠誠心があって無邪気で優しい。でも縄張り意識が強くて警戒心が強いから、知らない人には攻撃的になる事もある。あんまりドーベルマンを飼ってる家は多くないと思う。パワーが半端ないし、スピードもやばいから、しっかりした檻のような家じゃないとドーベルマンは家をあっさり破壊する。ちなみに名前は「ゼロ」だった。


 ゼロは俺には優しかった。散歩に連れて行くと、リードを引っ張るパワーとスピードが半端なくて、俺はダッシュせざるを得なかった。


 そういえばダルビッシュ有ってピットブル飼ってたんだっけ。殺処分されそうになってたピットブルの里親になったのだが、里親になってから2年で亡くなってしまった。ガンが全身に転移していたらしい。


 健康に生きてくれるに越した事は無いけど、どんな生命体もいつか絶対に死んでしまうし、手の施しようが無くなれば後は死を受け入れるしかない。


 元々、ピットブルは闘犬としてブリーディングされた犬種だから、国によっては飼うことが禁止されているし、人を殺してしまう事件も調べたら沢山出てくる。


 ピットブルもドーベルマンに結構性格が似ていて、無邪気で忠誠心が強くて優しい面もある。でも体格がめちゃくちゃ良くて筋骨隆々なので、パワーはめっちゃある。


 ドーベルマンはシュッとしてるスピード系って感じだが、ピットブルはパワーに特化してる感じだと思います。


 ◆


 警察犬になるワンちゃんは、とても限られている。トレーニングも高度だし、トレーニングする側も激務だと思う。


「待て」って言われて何時間もずっと待つし、特定の匂いや足跡を感知して追いかける事もできる。犬は嗅覚がすごい。


 ◆


 犬は本当にいろんな場面で活躍して、世の中の為になっている。盲導犬とか介護犬もいるし。


 ちなみに盲導犬はラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーが多い。


 災害救助犬や、検閲探知犬もいる。


 人の為、というか世の中の為に頑張ってる犬が沢山いるので、俺は犬たちを尊敬する。


 ◆


 俺が子供の頃、家でゴールデンレトリバーを飼っていた。良い思い出しかない。死が俺らにもたらすショック以上に、幸せな思い出ばかりをくれたので、ありがとうという言葉しかない。でも死んだ時はめちゃくちゃ泣いたし、今もたまに夢に出てくると、泣きそうになる。というか泣きながら目が覚める。大切な愛する存在との死別は一生乗り越えられないものなのかもしれない。


 今、実家には猫がいる。今8歳だ。


 俺がアパートにずっといるから、猫に会う事はかなり減った。今年はまだ数回しか実家に帰ってない。猫は完全に野生を忘れており、暑い時期は腹を丸出しにして仰向けで寝ている。


 死ぬ時を想定して動物を飼う人なんて多分1人もいない。死の悲しみ以上に沢山の思い出や喜びをくれるから飼うんだろう。


 俺はペット不可のアパートでカメを飼っている。現在5歳。今思えば、俺がここ数年苦しい時はずっとカメが俺のそばにいてくれた。寿命は30から40歳なので、カメを看取るまで俺がしっかり生き延びるのが人生の目標だ。


 ホームセンターに併設されてるペットショップでカメと運命の出会いを果たした。当時は赤ちゃんで500円玉くらいの大きさで、一目惚れした。


 ハムスターとか金魚や熱帯魚も色んな種類がいて可愛かったんだが、カメが一番可愛く見えた。


 今はめっちゃでかくなったが、今でもお前は可愛い。


 カメ、お前がナンバーワンだ。俺の心の友よ。


 ちなみにカメの名前は小太郎だ。めっちゃでかいけど小太郎だ。おぼろげながら浮かんできたんです。小太郎という名前が──。




 次回に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る