第14話 脳内で回転するコールタール

 最近、また新しく友達ができて嬉しい。「いつでも連絡してきてください」って言われた。でも俺は人との距離感を取るのが苦手だから、近づき過ぎたり逆に遠のき過ぎたりする。対人関係が下手クソなのは俺が持ってるASDという発達障害における典型的な症状だ。こればっかりは治したくても治らねえんだな、これが。俺も困ってる。


 あと敬語を使うのが苦手で、歳上相手でもタメ口を使ってしまう事がある。


 俺が孤独な状態である事が1番周りに迷惑をかけないんだが、ずっとひとりぼっちだとちょっと寂しい。


 俺がASDと正式に診断されたのは20歳の時だ。その前に鬱病にも罹患したが、今思えばASDの二次障害による鬱だった。俺の場合、両親からの遺伝ではなく、母方の祖父母からの隔世遺伝の線が濃厚だ。俺の両親そのものはむしろ明るい性格で、2人で同窓会の幹事もやるくらいだった。


 ASDに生まれるのが俺の運命だったので、別に誰かを責めたりする気は全く無い。ニーチェの言う「超人」を俺は目指す。


 ちなみに、健常者に生まれても幼少期に虐待されて育つと愛着障害になってASDに似た症状が出るケースも多い。


 やっぱり親の愛は大切だと思う。俺の母は両親から虐待されて育った。未だに母から親の愚痴を聞かされるが、しょうがないと思って聞いている。


 昔に比べると俺はLINEやDMを人に送る頻度が減った。昔は好きな人と1日中ラインや通話をしてるような感じだったが、たまに連絡取るくらいが丁度いいと思うようになった。


 1人の時間を取るのも大事だ。


 俺の場合、人混みにしばらくいると、そのあとしばらく1人で居たくなる。だから同棲は向いてない。1人暮らしで亀と生活してる今が1番いいかもしれん。ずっと他人がそばにいるとあまり落ち着かない。


 ◆


 真夜中の3時、希死念慮が俺の脳の中でグルグルしている。希死念慮というのは精神医学用語で、簡単に言えば「死にたい」って気持ちの事だ。希死念慮は、ほぼ全ての精神疾患にまとわりついてくる症状である。


 俺はもう、病気が俺を死にたくさせてるのか、俺自身が本心で死にたいと思ってるのか区別がつかない。障害や病気に人格を支配されてる気もする。


 精神科医の言葉にどれほどの信憑性があるのか分からないが俺は医者を信じている。


 真っ黒のコールタールが頭の中でゆっくり回転してるみたいで、気分が悪い。納豆みたいに粘り気のあるドロドロのコールタール。それが希死念慮の感覚に1番近い。納豆を極限まで混ぜたような真っ黒い液体が俺の脳を支配している。


 他人に迷惑をかけない死に方が無くて悩んでる。俺はアパートに住んでるから、アパートで死ぬと家族に賠償金の請求が行くし、不動産会社やアパートのオーナーにも迷惑をかける。


 あと電車は論外だ。電車を止めたら家族に賠償金が請求される。それに電車の運転手や、俺の遺体を片付ける人に精神的苦痛を与える。実際それで複雑性PTSDを発症した人の記事を読んだ事がある。その人は電車の運転手を退職していた。


 いろいろ悩んだ結果、飛び降りが一番いいなと思った。首吊りは過去に試したんだけど、強い苦しみがじわじわ続く感覚が嫌だった。だから、一瞬で死ねる方法を模索した結果、飛び降りがいいのかなって感じた。


 隣の市に心霊スポットになってる高い橋がある。そこがいい気がする。人里離れた、暗くて寂しい雰囲気のする田舎にある橋である。


 効果の強い抗うつ剤を処方されている。それで俺の希死念慮は一時期よりも改善されたけど、代わりにすごく忘れっぽくなった。


 一時期はパキシルを飲んでたけど、パキシルの欠点は離脱症状がやばいのと、性機能が弱くなる所だ。個人的にそれが嫌でパキシルは変えてもらった。まあ今後俺に彼女なんて出来ないだろうから性機能そのものが要らないが。


 ネットでもパキシルは比較的有名な薬だと思う。ゆるゆりって漫画のあかりちゃんが「わーいパキシル、あかりパキシル大好き!」って言ってる画像が昔2ちゃんねるで流行ってた。今は全く見かけない。


 というか今の5ちゃんねるとかエッヂは病んでる人がめちゃくちゃ多い。発達障害や精神疾患や自殺に関するスレッドが頻繁に立っている。まあ、そういう人と匿名掲示板の相性がいいんだろうな。俺も匿名掲示板大好きだし。逆にXみたいに名前が出るSNSは苦手だ。ちなみにインスタとフェイスブックはそもそもインストールした事がない。


 LINEは昔で言うメールみたいなもんで、スマホ持ってる人はほぼ全員インストールしてるはず。


 知らない人もいるかもしれないが、LINEが生まれたきっかけは東日本大震災だ。震災が起きて電話やメールが全く繋がらずに多くの人が困った。それがきっかけでLINEが作られた。


 LINEは便利だし生活に欠かせない。でも俺は携帯のメールも好きだった。当時好きだった女の子とやり取りをして、Re:が増えていくのが好きだった。


 LINEでおしゃべりするのが俺は大好き。通話するのも好き。その気になれば無限に話せる。


 話がちょっと逸れたが、パキシルなどの抗うつ剤によって俺の希死念慮は薄れた。でも完全に消えたわけではない。現に今、俺は死ぬ事ばかり頭の中で考えている。夜の薬はちゃんと飲んだが、勝手に頭に浮かぶから対処法が無い。


 死にたい時「死にたい」と連絡を送っても、ただ困惑させるだけだから、こうしてスマホのメモ欄にポチポチ文章を書く事で発散する。


 こういう時、誰かに抱きしめられたい。


 でも部屋に誰もいないから、代替案として俺は羽毛布団を抱きしめている。毎日エアコンかけながら布団を抱きしめて寝ている。


 とりあえず冷えたウーロン茶でも飲んで、ベッドで横になって落ち着く。さっき夜の薬を1錠多く飲んだ。


 タバコがうめえ。


 ◆


 鬱になったりすると、風呂に毎日入るのが苦痛で仕方ない。気力と体力が持たない。


 そもそも風呂はステップが多すぎる。まず湯船にお湯を溜めて、服を脱いで裸になり、体を洗い、体を拭いて、髪を乾かし、服を着て、洗濯機を回す。こんだけ沢山の儀式をするのはダルすぎる。ダルビッシュ有。


 俺も今は毎日風呂やシャワーをしてるけど、どん底だった時は3ヶ月くらい風呂に入れなかった。


 風呂に入るコツとしては、入浴剤を買う事だな。あとは防水のスマホなら、風呂の中でスマホをいじる習慣をつけるといい。


 猫は肉球にしか汗をかかないから、風呂に入らなくても常にいい香りがする。猫が羨ましい。


 エヴァンゲリオンのミサトが「風呂は命の洗濯よ」とよく言うが、エヴァの監督の庵野秀明はめちゃくちゃ風呂が嫌いだった事で有名だ。庵野秀明も鬱の経験がある。あとガンダムの富野由悠季も。俺は富野の作品だとブレンパワードってアニメが1番好き。親子愛がテーマのアニメだ。


 散歩やランニングの習慣をつけると、汗を流したくなって風呂に入りたいと自動的に思えるからおすすめ。でも病気の症状が重い時期は外に出る事さえ困難なので、ある程度回復した人しか出来ない。


 ◆


 つくづく今の時代に生まれてよかったなと思う。パソコンやスマホがあって無限に暇つぶしができるし、人とも繋がれる。


 大昔の引きこもりは何をやって過ごしていたんだろうか。引きこもりという概念が生まれたのは70年代らしいが、当時の引きこもりはめちゃくちゃ辛かっただろうな。


 2ちゃんねるが生まれた2000年辺りから、家に引きこもっていても他人と繋がれるツールが増え始めた。


 昔は外に出ないと楽しい事が無かったのに、今は引きこもってても楽しい。そりゃ結婚する人も減るわ。少子化問題は時代やテクノロジーの発達も多分に影響している。


 ◆


 今までこういう発想はあまり無かったが、もし俺が死を選ぶとしたら、その前に全財産を下ろして遊びまくってから死ぬ。


 とりあえず東京とかに行って、クッソ高い風俗でも行きたい。東京で1番高い風俗店ってどこだろう。あと超高級な寿司が食いたい。あと超高級な酒が飲みたい。あと死ぬ前には温泉に行って体を清めておきたい。あとロサンゼルスに行って大谷を生で見てから死にたい。アメリカの西海岸は日本人だらけらしい。


 冥途に金は持っていけないから、死ぬ前に全財産使っておかなきゃもったいない。欲望の全てを満たして抜け殻の状態で死にたい。全財産を使い果たせば、覚悟も決まるだろう。


 俺は死ぬ事は全く怖くないが、死に至るまでの痛みだけは怖い。


 ◆


 寝て起きたら、普通に元気になりました。深夜はガチで暗い事を考えがち。ガチで。


 ◆


 LINEとかDMで、たまに変なことを言ってしまう。俺は何を言ってるんだ? と後から思う。


 あんまり気にしないで。嫌いだったらそもそも連絡送ろうとさえ思わない。


 ◆


 こないだ妹が、かぼちゃのお菓子をくれた。俺もよく料理をするが、妹に比べると俺は素人に毛が生えたレベルだ。


 俺は今日、ホットックっていう韓国のお菓子を作った。おやつというか、もち米で作る肉まんに近い。皮がさくさく、中がもちもちしてて美味い。主食にもなるパワー系おやつ。中に挽肉とか蜂蜜とかハム・ネギ、ピーナツバター、色んな調味料を入れるとうまい。アレンジの幅が広い。ぎょーざのタネや納豆やチーズを入れても美味いと思う。


 ホットックはおやつなのに酒が進むぜ。


 ホットックの素をスーパーで買えば簡単に作れるから、暇な人は作ってみてください。


 麻婆豆腐とかジャージャー麺みたいな中華料理はよく自分で作るんだが、最近は韓国料理も作る。チーズタッカルビとかスンドゥブやサムギョプサルとか。あと焼肉屋に行くとよく石焼ビビンバを頼む。ガキの頃から大好き。石焼ビビンバに付いてくるクッパっていう韓国のスープも美味い。


 あと韓国屋台の豪快な動画を見るのが好き。


 高校の授業でキムチを作った事がある。発酵食品で匂いが強いから、家で手作りするのは少しきついと思う。キムチも好きでよく買う。たまご料理にキムチ入れたらなんでも美味い。キムチ鍋も好き。


 俺は布団ちゃんっていうおっさんの配信者が好きで料理本も買った。実用性の高い、1人暮らしの男向けのメシが多くて超参考になる。YouTubeで「魔神の食卓」と調べると、色んな料理動画が出る。佐々木蔵之介に似てて顔がかっこいい。あとトークがうまくて面白い。歌も上手い。彼はオープンレックってサイトでよくゲーム配信をしてる面白くて愉快なおっさんである。鬱がひどい時、唯一笑えたのは布団ちゃんのゲーム配信だった。


 なんでもいいけど、様々なコンテンツに触れて笑ったり泣いたりするのは大切な事だ。


 俺の存在が少しでも誰かの暇潰しになったら幸いである。俺の承認欲求も満たされるし、Win-Winだ。




 次回に続く

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