第21話 フラッシュバック

『父さん義母さん!』


『きゃぁぁあっ!』


『愛美っ!』


 ――っ!


 うつ伏せに寝ていた。体を起こすため、手を伸ばすと激痛が走った


「あっっくぅ、がっ――」


「御神さん! 先生御神さんが目を覚ましました! 御神さん! 御神さん! 動かないで!」


 くっ、なんだこの痛み――身体中が焼けるみたいだぞ……。


 頭をつけ、体を抱えながら痛みに耐えて目を開けてみる。


 布団……だ。まわりがうるさい。それに……ここどこだ?


 首を横に向けると……どっかで見た。……それも最近。……ああ、こないだの病院だ。


 ……病院? なんでまた俺は病院にいるんだ?


「御神さん! 御神 勇斗さん! 私が分かりますか! 聞こえてますか!」


 呼ぶ声に顔を向けると、看護師さんだ。この前の。その横は知らない先生かな。


「うん。分かるし聞こえるんだけど、なんでまた病院にいるんだ? じゃなくているのですか?」


 止めようとする看護師さんの手を制し、そっと痛みに耐えながら体を起す。


「くうっ、痛たたた」


 すっげえ身体中が痛いがなんとか布団の上にあぐらで座ることができた。


「はぁ、めちゃ痛いっすね」


「もう。動かないでといいましたよ。でも良かった。ここは病院なのは分かるわね。……あなたと愛美さんが火傷で救急搬送されたの」


 救急搬送?


「君、変わって。次は前の処置を続けるから」


 愛美と二人、火傷で? 


 先生は、赤くなり、水ぶくれだらけの肩の当たりにガーゼを添えて、そこに消毒液と思うものをポンポンと――


「痛っ!」


 ――んーっっっ、し、しみるっ!


「ああ、すまない。少し痛むが消毒を続けたい。君はⅡ度の火傷だ。それも全身の30%近い範囲をね」


「くうっ、そ、うなんですか? あ、そ、そうだ! 愛美は! くっ、愛美が一緒にって――」


「はいはい、勇斗さん落ち着いて。あまり動くともっと酷く痛むからね」


「愛美さんも大丈夫よ。隣のベッドで処置も終わり寝ていますからね。それに明日の朝にはまた回復魔法の先生が来てくれますから」


「はいっ、で、でも火傷なんですよね、傷とか残りませんか? 愛美は俺と違って女の子なんですよ?」


「心配なのは分かりますが愛美さんのことも安心してね。少し火傷していますが傷も残ない程度の軽傷ですよ」


「良かった」


 結局、背中は中ほどから上と、前は肩から胸にかけて、それと腕が酷い。他はそれ程でもなかった。


 でもなんで火傷したんだ?


 ズキッ――


 痛っっ。頭まで痛いぞ。はぁ、でも愛美は軽傷……二人とも火傷?




 ――っ!!!!!!




 めまいがした。


 忘れていた記憶が流れ込んでくる。


 そうだ。


 火事だ。


 ダンジョンからも度ったら家が燃えてた。


 もうもうと煙が立ち込めていた。


 そこで見たんだ。


 そこは――


 壁や天井、床も火が這いまわってた。


 庭へ逃げようとしたんだ。


 窓も割った。


 愛美を外へ出したんだ。


 でもその後――


 ズキッ――


『御神さん。御神さん! 先生!』


『これはいけない! ベッドに寝かせ鎮静剤の準備を!』


 ズキッ――


 振り向いたんだ。


 大きな音がして。


 燃える天井の下に――――


 ――父さんの頭が見えた。


 義母さんは父さんを引っ張ってたけど駄目だった。


 そうだ。


 父さんのズボンに木が刺さってたのをナイフで。


 その後……その後は――


「あ゙ぁ゙あ゙あ゙ああ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ー」


 落ちてきた炎の塊が父さん義母さんを――




 のみ込んだ。





『暴れて怪我をしまいます! 君はナースコールを押して下半身を布団で押さえて!』


『はい! 呼びました! 押さえます!』


 ぁ゙…………ぁ゙。


「どゔざん゙があ゙ざん゙…………どゔざん゙があ゙ざん゙も゙び゙ょ゙ゔい゙ん゙に゙い゙ま゙ずよ゙ね゙」


 いると――


「い゙る゙どい゙え゙!」


「くうっ、お、押さえきれません! 先生早く鎮静剤っ!」


「御神くん少し痛いからねっ!」


 痛い? そんなのどうでもいい!


 何か首に――


「い゙る゙ど……い゙…………え゙」














『勇斗』


『ゆうくん』


「父さん! 義母さんも! 良かった無事だったんだね!」


 二人ともダンジョンに行った時の格好だ。


『勇斗。ごめんな。手伝うと言ったのに』


『ごめんねゆうくん。一緒に頑張ろうって思ってたのに』


「な、何言ってんだよ。父さんは仕事忙しいし、義母さんだってそうだろ?」


 二人とも答えない。困ったような顔をしてるだけだ。


「ほら、父さんはほとんど毎日残業で遅くなるしさ。義母さんだって仕事から帰ってきてからご飯とかやることいっぱいあるじゃん」


 涙が溢れてきた。


「そうだ! これからはさ、俺、風呂掃除とトイレ掃除日課にするよ! それから父さんの日曜大工DIYも手伝うからさ!」


 父さんが泣いてる。口はピクピクしてるけど笑ってる。


 義母さんも泣いてる。父さんと同じように笑って。


 どんどん涙がこぼれてしまう。


「ねえ! 頑張るからさ! 泣かなくてもいいからさ!」


 父さんと義母さんがぼやけていく。


 涙だ。


 涙でにじんでるんだ。


 拭っても拭っても勝手に溢れてくる涙。


「っ! どこっ! どこ行くの! 待って! 待ってったら!」


 立ち上がった勢いのまま追いかける。


 近づかない。


 どんどん離れていく。


『……』


『……』


 口はたぶん動いてるのに聞こえない。


「何! 聞こえないよ! 行かないでよ! どうして行っちゃうんだよ!」


『お別れだ勇斗。愛美と仲良くな』


『あみちゃんをよろしくね、さようなら……ゆうくん』


「嘘だろ! 何言ってんだよ! どこ行くつもりだよ! 戻ってこいよ!」


 ぼやける二人。


 涙を拭いながら走り続ける。


「お願いだよ! 行かないで! こんなの無いよ!」


 分かってる。


 分かってるけど。


 父さん、義母さんは――






 死んだんだね。


「うあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「勇斗!」

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