第20話 蠢く陰謀

 side 九頭 龍也たつや


「お待たせしましたお爺様」


「うむ。お前はもう一台の方に乗りなさい」


「はい。父さんの車ですね」


 げっ、兄貴は向こうかよ、爺様の相手は疲れんだよな。


「そうだ。龍也はワシの横だ。……少し話がある」


「……ああ。じゃなくて、はい。失礼します」


 ったく、睨むんじゃねえぞクソ爺ぃが!


 はぁ、爺様の相手は喋んの気を遣うからやなんだよ。


「よし。出せ」


 体が沈み込む、高級ソファーのような後部座席。


 爺様がいなきゃもっと良いのにな。


 爺様の横へ座った途端に車は滑るように動き出した。


「……龍也よ。またくだらん事をしおったな」


 何の事だ?


 爺様は前を向いたまま話し始めた。


「昨日の夜の事だ。身に覚えがあるだろう」


「……」


 御神を蹴り落とそうとしたことか? だがアレくらいのことを聞いてくるハズないな。


 怪我どころか死んでもねえしなぁ~。


 そういやアイツ俺の事を探しまわってたのは傑作だったぜ。


「いや、昨夜は特に何もしてないぞ、じゃなくてしてませんが」


 後は半グレ共とドラッグ乱交パーティーしたことか? ねえな。それこそいつもの事だ。


 薬物反応が出ない新作のブツを遣ってるからタレ込まれても大丈夫だしな。


 もしかしてヤった女の中にヤバいのが混ざってたか。それならあり得る。


 まさか販売ルートに乗せるの横からパクったのバレた? それだとヤバい。マジでヤバい。


「あっ、あの――」


「先日から何度も襲い、しくじっているヤツの事だ」


「え? それ? でもアイツ死んでないし怪我も」


「ああ。そうだな。だが、お前が蹴った足跡がベッタリと付いたシャツを警察に届け出た者がおる」


「なんだそのくらいなら握りつぶせる、じゃなくて、何もなかったようにできますよね? 足跡程度の証拠なんて」


「龍也が履いてる物が普通の品ならな」


 俺の靴? 確かSSS級ダンジョン産の装備品だ。爺様にねだったヤツだな。


 滅多に出ない速さを上げる魔法の効果が付いた世界で一つしかないレア物。


 オークションで十億以上の値が付いたそうだが、爺様が落札してくれたものだ


「それは普通ではない。ソールの模様も独特だと言うことは分かるか?」


「えっと」


「発見された当時からその靴に関してのデータは出回っている。材質はもちろん、装備時の効果。……そして外観だ」


 何難しいこと言ってんだよこの爺様は。もっと簡単に説明しろや。


「足跡はどこの誰でも出回っている画像を見れば分かるものだ。そんな足跡が、届けられたシャツついていたわけだ。それがどう言うことか分かるか?」


「……その程度の事。それがどうしたのですか?」


「はぁ。九頭家が競り落とし、現在も所有していると誰もが知る装備品が、傷害事件の証拠になっておると言えば分かるだろう」


 証拠なんかいつも通りもみ消せば終わりだろ? 何を言ってんだよこの爺様は。


「これを見なさい」


 爺様が前のモニターを操作するおと、SNSの掲示板が映った。


 なんだ?


『傷害事件の犯人を見つけた方には賞金が! 出るかも(੭ ᐕ))?』


 ってスレタイトルがあって、『証拠の品!』と、名打たれた白いシャツにくっきりと付いた足跡の画像貼り付けられてある。


 俺様の靴の物に間違いない。


「分かるだろう。警察どもだけなら簡単だ。が、ウェブ上にアップされたものは完璧に消すことはほぼできん」


 マジかよ。


「でも消せ、ますよね?」


「クラウドストレージはあらかた消せたと連絡は来た。今も消して回ってもらっておる。が、個々に保存されたパソコンやタブレット、スマートフォンの部分はこれからだ」


「なら大丈夫――」


「いったいどれだけの時間と金が消えると思っておる! さらにこの投稿した者は龍也がちょっかいかけておる父親は、足跡をプリントアウトしておる! 尾行させておる者からはまだ配り歩いたりはしておらんそうだが、時間の問題だ!」


「えっと、それを奪えば」


「当然だ! ……だが奪うだけでは安心はできん。あの家族には消えてもらう。それに妙なこともある。あの凡庸な者がどうやって早く、ここまでのことをやれたのかは謎だ」


「え?」


 消えてもらう? 殺すってことか?


 御神の野郎は俺様がイビり倒して『許してください九頭様』と言わせた後、愛美を目の前で犯しながら殺るつもりだったが、まあしかたねえか。


 ん? あれ? ちょっと待てよ……家族には? え? じゃあ俺様の女にする愛美も殺すのか?


「パーティーが始まる時間に合わせて実行する」


 は? アイツは俺様の女にしてやろうとして断った女だ!


 アイツは絶対ヒィーヒィー言わせるって決めてんだぞ!


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! じゃなくて待ってください! 女! 愛美って女は俺の物にしたいからソイツだけは残して――」


「バカ者! 不安要素は全て消さねばならん! 女など、いくらでも用意してやるわ! 後、外遊は龍也。お前は無しだ。後少しで夏休みであろう。ワシが戻るまで本宅で謹慎しておれ! 分かったな!」


「――っ!」


 クソ爺の威圧で俺は何もできず、ペコペコと縦に頭を振り、黙るしかできなかった。


 クソクソクソクソ! 上手く行かねえじゃねえか!


 偉そうにしやがってよ! 見てろ! そのうちボコボコにしてやんよっ!


 だがまあ目障りだった御神ともお別れか。


 しゃーねぇー、また遊び道具を見つけりゃ良いだけの事だ。



 くくっ、くははははは! あばよ~、御神ぃ~。

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