第18話 不安な歌音とバレバレ歌音

 side 歌音


「――もうそんなことしちゃ駄目よ。歌音聞いてる?」


 ママのお説教は、帰ってからずっと続いています。


 もう耳タコです。分かってます。早退は駄目です。無断はもっと駄目。当たり前です。


「お説教なのに聞いてない悪い子は、怖ぁ~いお婆さんに叱ってもらおうかなぁー」


 まだママはなにか言ってますが今はそんなことより、これからの勇斗くんのことです。


 今日から学校はお休みにして、お手伝いしよと思っていたのにママは駄目だって。


 普通は駄目って言うのは分かるんだけど……。


 本当は学校行くのが怖いのです。だから勇斗くんについていきたかったのに。


 だって今日の学校は変でした。それもクラス中が。


 挨拶しても返事がなかったのです。


 聞こえなかったのかなと、いつもお話をしてる隣の席の子に話しかけても返事は返ってきませんでした。


 それは勇斗くんと愛美ちゃんも一緒でした。


 二人も分かってるみたいで『気にすんな』『そのうち飽きるわよ』と。


 話していて、もしかしたら学校中かもって話になりましたが勇斗くんが耳に口を近づけ――


『俺たちがいるだろ? 三人ならなんとでもなるさ』 


 ――って。


 ドキドキしたのは秘密なのです。特に愛美ちゃんには内緒なのです。


 それなのにお昼休み。あの人にまた絡まれちゃいました。


 数日前に勇斗くんが怪我をしてお休みだったことも、ダンジョン研修で崖から落とされたことも。そうあの人に。


 それを聞いた時は心臓がキューって潰れちゃうほど苦しくなった。


 机が蹴られ、愛美ちゃんと二人、しがみつきあって震えるしかなかったのに、盾になるよう私たちの前に勇斗くんが。


 その背中と、肩ごしに見えた顔はカッコ良くて思い出すだけでドキドキしちゃいました。


 その後すぐにあの人のお兄さんが……なんでしたっけ?


 あっ、そうそう政治資金パーティーがあるからとあの人を連れ出してその場は終わりかなと思ったのに……。


 勇斗くん、いきなり帰っちゃおうとするし、追いかけていったらダンジョン入っちゃうし。


 そして、横道に反れたから、急いで角を曲がったの。でも……見ている前で、まるで魔物さんが煙になって消えるように消えちゃうし。


 大事だったものをなくした喪失感で、凄く泣いちゃって、喚いてた。


 でも。でも勇斗くんは帰ってきてくれた。


 あっ、あれ? そ、そう言えば私…………。


 いっぱい抱きついちゃいました……。


 思っていたより筋肉ついてたのでビックリしました……。


 もう離れたくない。そう思った。


 きゅっ、て抱き締めてもらっちゃいましたし、頭も撫でてくれましたし。


 …………きゃー! よく考えたらおっぱい押し付けていました!


 ……どうしよう。気持ち悪かったかな……。こんなの迷惑だったかな……。


 愛美ちゃんは羨ましがるけど本当に邪魔なんです。


 こんなにいらないのに。はぁ、どんどん大きくなっちゃうし。


 大きいと可愛いデザインの中々無くて困っちゃう。


 愛美ちゃんがたまに『もいでやろうかしら』と言ってたので、わりと本気でやってもらおうかと思ったりもしてます。


 痛くないと良いのですけど。


 それに小さく出きるなら勇斗くんに見せるためにやっぱり可愛いのがいいよね。


 ……っ! きゃー!


「な、なに考えてるの歌音! 勇斗くんにそんなの! 私はそんなふしだらな子に育てた覚えはありませんよ!」


「……おーい、かのーんちゃーん。育てたのは私だぞー。聞いてるかー、説教中だよー」


「……はぁ。でも勇斗くんは愛美ちゃんのことすごく好き……だよね」


「聞いてないみたいね。駄目だわこの子。自分の世界に入っちゃってる。……それにしても歌音は愛美ちゃんを好きな勇斗くんをねぇ。アオハルしてるじゃんうちの子」


 愛美ちゃんも普段は友達みたいにしてますけど、時々凄く恋する乙女モードで見つめてたりしますし。


 はぁ……。ママに相談してみようかな。


 ……思い立ったが吉日って習ったし。よし!


「ねえママ。私ね。じゃなくて知り合いの女の子なんだけどね、好きな男の子がね、いるみたいなんだけど、その男の子はね、好きな子がいて、その好きな女の子もその男の子のことが好きなんだけど……私はどうしたら良いと思う?」


「…………歌音。ママは無断で早退したことを怒ってるの。それなのに、途中からぶつぶつ言い出すし何も聞いてないのかな~、とか心配になってたところだったんだけど……」


「え? あ!」


 そうでした! お説教中でした! あわわわど、ど、どうしましょう!


「はぁ……。歌音は勇斗くんが好きで、勇斗くんは愛美ちゃんが好き。それに愛美ちゃんも勇斗くんが好きなのね」


 あれ? わ、私、相手の名前言ってない……よね?


 と、どうしてママは私が勇斗くんが好きだって知ってるの!?


 そ、それに話の相手が勇斗くんと愛美ってわかったの!?


 知らないうちに話ちゃってたの!?


 駄目、どんどん顔が熱くなってきちゃいましたぁぁ!


「はぁ、真っ赤になっちゃってこの子は。バレバレよ。誰に似たのかしらまったく」


 パッと両手で顔を隠して誤魔化せば――


「ん~、あのね、まだ未発表だから詳しいことは内緒なんだけど、法改正されるから問題なくなるわよ歌音」


 ん?


「ママ、どこが問題ない? え? 何が?」


 ママはどう問題ないのかは、教えてくれませんでした。何度も聞き返したのに。ケチさんです。


「何よその『ケチ』って顔は。まったく。はぁ、とりあえず学校はちゃんと行きなさい。放課後と休みの日は大好きな勇斗くんのお手伝いでも何でもやれば良いわ」


「だ、大好きってぇぇ! え? 勇斗くんのお手伝いしても良いの?」


「良いわよ。どうせ駄目だって言ってもやるんでしょ?」


 ぐぬぬ。するどいママです。こっそりでも手伝うつもりだったから。


「うん。ありがとうママ」


「じゃあ、歌音の恋愛相談は終わり! 説教に戻るわよ!」


「へ?」


 ええー! もう終わりじゃなかったのぉ! 耳タコだよー!


(ホントに世話のかかる娘だわ。勇斗くん、ちょっと抜けてるけどよろしく頼むわね)


 お説教はパパが帰ってくるまで数時間続きました。


 もう、無断の早退はしないと心に決めました。

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