第17話 大事なものを守るために

 個有ダンジョンから装備を整えるため戻ったタイミングで着信があった。


 学校からだ。無断で早退したから仕方ないよな。


 で、まあ親にも連絡が行くことになるのも当然の流れってことだ。


 歌音も母親からの電話で帰宅を余儀なくされ、俺と愛美もまあ、定時上がりと言ってた父さんたちを待つことに。


 ただ待つだけはもったいない。だから愛美には待っててもらい、一人、個有ダンジョンに来てスライムを倒してる。


 今日は中々出ない。二百近く倒して収穫無しだ。


 パシッ――


 うん。また魔石だけ。焦りはあるけどコツコツ頑張るしかない。






 結局、愛美から連絡が来るまで五百匹は倒したと思う。


 途中、スライムの大量発生があり、焦ったが倒しきった。


 短時間で一度に沢山の同種魔物を倒した時、まれに有ると聞いてたけど……。


 初体験だな。


 そこでやっと青いSオーブが出たんだが、ウエストポーチもパンパンに膨れ上がってもうこぼれそうだ。


 ……それなのにSオーブは一個だけって。


 仕方ないな、いったん戻ってご飯食べた後も頑張るか。







 そして戻ってすぐに愛美とリビングの床に並んで正座の状態で怒られた。


 無断早退したことは流石に悪いと思ってる。


 だけど身の危険を感じた今日の出来事を話す。昼休みの件だ。


 ヤツの行動や物言いは完全に潰しに来てると分かった。


 その前の地下道にダンジョン研修も、一歩間違えば死んでたかもしれない


 いや、確実に殺す事も視野に入ってるだろうと話した。


 二人は最初、俺たちを怒るような雰囲気だったのに、話が進むと、怒りの矛先が変わっていった。


「はぁ。そう言うことか。事情は理解した。無断は駄目だったが早退した訳は理解した、が……思ったより深刻だな」


「そうね。でも二人の本業は勉強するとこよ。良い。ゆうくん、あみちゃん。学校はサボっちゃ駄目です」


「「……はいはい」」


「 しかし参ったな。そんなことになっているとはな……」


「大臣で理事長ですもんね~。あなた、いっそのこと引っ越ししちゃう?」


「そうだな、確か北海道に新しく支社ができる話が……あるがまだまだ先の話か」


 いやいや、ナチュラルに引っ越しとか……。


 それも有りか? 駄目だ。そんなことをしてもヤツを野放しにするだけだし、別の標的が出るだけだろう。


 もしかすると、いや、高い確率で歌音が標的になるかもしれないなと思う。


 無いな。引っ越しは絶対無い。


 今朝のクラスでも分かる。あからさま過ぎなほどだ。


 俺のまわりに近づくのは愛美と歌音だけになってしまってた。


 普段なら、俺はもちろん愛美、歌音に挨拶くらいはあったんだ。


 それが……二人は明るく振る舞ってたけど友達に話しかけても返事もなかった。


 相手は気まずそうな顔をしてたが……。


 そんな状態で引っ越しなんてしたら、今度は歌音だけが孤立しちまうだろう。


 そうなればいなくなった俺たちの次に九頭の目が行くのは歌音だと思う。


 それなのに……くそっ、一瞬でも『有りか』と考えてしまったじゃねえか……すまん。


 自分だけ安全圏に逃れて、歌音を身代わりにするのと一緒だ。


 九頭が、いや、兄の生徒会長だろうと、もっと強いヤツが来ても愛美、歌音、それと家族は守れるようにならないと駄目だ。


 逃げるわけには行かねえ。


「父さん、義母さん。それと愛美も。俺、やっぱり強くならないと駄目だ。それもあまり時間は残されてない」


「勇斗。それはどう言うことだい?」


「もし、俺たち家族が引っ越したとしても、九頭は誰にも裁かれない」


「その通りね勇斗。警察が言ってた通りなら……悔しいけど」


「うん。それに今、俺という標的がいなくなったらアイツが止まるのか? いや……絶対止まらない」


 床を見つめていた顔を上げる。


「だから引っ越しは無しがいい。それに学校は行くよ。そのかわり時間の許す限り個有ダンジョンに潜りたい」


「そうか、Sオーブを集めるんだな」


「うん。それで誰も文句も言えないくらい強くなる」


 じっと見つめてくる父さんの口が小さく動いた。


 ボソッと『逃げない道を選んだか、ならば――』と聞き取れないところもあったけど、そう聞こえたんだと思う。


「……勇斗。分かった。頑張りなさい。父さんも出きる限りのことをしよう」


「もー、カニ食べ放題だと思ったのに」


 おい、義母さん。カニさんを食べ放題て……。


「……勇斗、私は手伝うし応援だってするわ」


「わ、私も応援するわよ? カニは冗談ですからね! さー話は終わり! 今日は約束の勇斗の好きなの沢山作るからね!」


 思ったよりすんなり説教は終わった。


 義母さんはキッチンへ向かい、残された俺たち。


 父さんはテレビを付けた。が、考え事をしているようで、画面は見ずにスマホを手にした。


「ねえ、ご飯できるまで一時間ほどあるみたいだけど、ダンジョン行くの?」


「そうだな……、行くよ。ご飯できたらまた呼んでくれ」


「了解。結局一緒に潜るのはまた夜ね。歌音とは明日一緒に……怒られてるよね? 大丈夫かな? おばさん許してくれないと行けるかどうか……」


「そうだな。朝に聞いて駄目ならおばさんに許してもらえるよう話に行くよ」


「うん。そうね、私もその時はついていくわ。ほら、頑張って来なさい」


「おう。個有ダンジョン――移転!」


 ―――――現時点のステータス―――――

【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)

【Lv】0

【状態】打ち身 擦り傷 筋肉痛(微)

体力HP】10/10

魔力MP】0/0

【 力 】4

【耐久】6

【速さ】16→18

【器用】9

【知能】3

【精神】7

技能スキル

 ○個有ダンジョン

【装備】フライパンスライムクラッシャー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る