第15話 個有ダンジョン

 ダンジョンへ駆け込み人気のない場所へ向かう。


 昨日、個有ダンジョンで採取した魔石を引き渡すためだ。


 今日は特に聞くこともなかったから、さっさと渡してしまうことにした。


 知っててやってるのかと問いただしたい。


 今回もまた持ってかれそうになったウエストポーチを通常に戻される寸前で返してもらった。


 マジで確信犯じゃね? 欲しいの鞄とか? 持ってこようか?


 で、通常のダンジョンに戻ってきた。んだが……。


「なんでいるん?」


「なんでいるん? じゃないわよバカっ!」


「ぞうでず! 消えぢゃっだがら心配じだのでずがらね!」


 歌音は泣きじゃくりながら俺の胸に抱きついてきた。


 ふにゅん――


 凶悪な胸部装甲が歪み潰れ、俺の胸に押し付けられてる。


 そんな極楽、じゃなくてさらに背中に腕を回して放してくれない。


 愛美は愛美で肩をすぼめ、『はぁ』といきをはき、アメリカンな仕草で両手のひらを天井に向けていた。


 学校を抜け出した俺を追いかけてきたそうだ。なんかすまん。


 消えてる間に愛美が歌音を落ち着かせるために簡単には話したそうだ。


「えっとだな」


 どうする……。


 愛美は固有ダンジョンのことはぼやかして、九頭がやった事と、魔石をダンジョンへ運んでることは話したらしい……。


 そしてすぐに帰ってくる事も。それでも目の前で消えたからなのか歌音はこの状態だ。


 後、【速さ】が上がるSオーブの事も伏せてあるみたい。


 ぐずぐずと鼻をすすり、俺のシャツを涙で濡らす歌音。


 少し落ち着いてきたのか、回された腕の力はほんの少し緩まった気がする。


「……そうだな、歌音には全部話すか」


「だよね。まさかかのんちゃんがここまで取り乱しちゃうなんてね」


「うん。ごめんな歌音。あまり言いふらしたくない事があってな」


 話すならここじゃない方が良いだろう。放してくれないから動けないけどな。


 頭に手を乗せ、優しく撫でてやる。


 空いてる手も背中に回してさすっておく。


「だから、ここじゃいつ聞かれるかもわかんねえし……そうだな、うちにするか」


「そうね、学校もサボっちゃったし、かのんちゃんちはおばさんいるから、うちが良いでしょうね」


 どっちにしても学校からは連絡は行くだろうから、サボったのはすぐバレるんだけどな。


「勇斗、かのんちゃん引っ付けたままで良いからダンジョンから出ちゃいましょ」


「だな。行くか」






 他の探索者や敵に会うこともなく。会ってもスライムだけどな。


 ダンジョンを出てバスに乗り込んだ。が、歌音はまだ離れないから久しぶりに座席に座った。


 いつの間にか筋肉痛も薄れたから、立ってても良かったんだけど愛美に引っ張られ、一番後ろの席へ座らされた。


 窓際から愛美、俺、歌音の順番だ。


 普通は歌音を真ん中にするんじゃね? と疑問もあるが、両手に花だな。


 本命は愛美だ。でも歌音のこの様子。


 いくら鈍い俺でもそうなんだと分かる。勘違いじゃなけりゃ歌音が俺を好きなんだってことが。


 揺れる車内。そんな事を考えながら歌音のつむじを眺めてしまってる。


 可愛いし好きは好きなんだけどな。


「勇斗、かのんちゃん降りるわよ」


 その声で、もう家の近くまで帰ってきてることに気づいた。


 バスが止まり、下車した後家に向かう。まだ歌音は安定して俺に抱きついたままだ。


 ちょい歩きにくいが仕方ない。が、愛美。お前までやったら歩けねえだろ。嬉しいがっ!


 到着するまでに近所の爺さんやおばちゃんたちに――


『あらあらまあまあ――』

『勇斗君ハーレムね――』

『最近の若いもんは――』

『リア充タヒんじまえっ!』


 と、冷やかされたり、説教されたりと。


 一人は何か言いながら走り去ったが……まあ良いか。




 家の中は蒸し風呂だった。


 速攻で部屋のエアコンの電源を最強で入れ、愛美には飲み物を頼んだ。


 まだ離れない歌音とベッドの端に座る。


「お待たせ。麦茶でいいでしょ?」


「うん。ありがとな。ほら歌音も飲め」


 ふう。生き返る。


「歌音。あのな――」


 歌音は知ってる。レベルが上がらず、ステータスも年齢と共に微増だけしてる状態を。


 そんな俺が九頭を追いかけて入ったA級ダンジョンで崖から落とされた後、ダンジョンに助けられたってことを。


「ここまでは愛美に聞いたよな?」


「うん。聞いた」


「そうね、そこまでと、依頼が魔石の運搬搬入って所までね」


「そうだ。そのダンジョンがな、なんか魔石の魔力が必要なんだと」


「勇斗くんの命の見返りなら私も手伝いたい! ううん、手伝わせて!」


「そうね、できるんなら私も手伝うわ。……できるの?」


「個有だからなぁ」


「え? できないのです? 他のダンジョンから魔石を持ってくれば良いのです……よね?」


 勘違いするよね~。個有ダンジョンなんてスキル、聞いたことないもんな。


 探索者についてはステータスが発現してからめちゃくちゃ調べたけど個有ダンジョンってスキルは無かったし。


「あー、歌音。実はな、スキル生えたんだ俺にも」


「…………っ! 嘘っ! 良かった! 勇斗君ずっと頑張ってきたんだもん! おめでとうです!」


 緩まってた腕の力は強まった。


 ふにゅにゅにゅん。……うん。極楽じゃ。


 ――あだっ! 愛美つねるな!


 リスみたいにほっぺたを膨らませ、脇腹を捻りあげてくる。


「――っ、そ、それでな、そのスキルが個有ダンジョンてやつで」


 痛みの声を上げそうだったけど、なんとか我慢できた。


「そこの魔石しか駄目なんだよ」


「だったらそのダ――あっ、個有。勇斗くんしか入れない」


「入れないわよね?」


「入れない……入れないのか? 試してなかったけど、個有、だし……なぁ」


 ん? 個有ダンジョン……


 個人所有のダンジョン……


 個人ってことはプライベートなダンジョン?


 もしかして――


 ―――――現時点のステータス―――――

【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)

【Lv】0

【状態】打ち身 擦り傷 筋肉痛(微)

体力HP】10/10

魔力MP】0/0

【 力 】4

【耐久】6

【速さ】14

【器用】9

【知能】3

【精神】7

技能スキル

 ○個有ダンジョン

【装備】フライパンスライムクラッシャー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る