第14話 西日本最強
「二人とも、あの人、生徒会長さんです」
「「
こくりと頷く歌音。生徒会長で間違いないようだ。
というか九頭の兄ってことか……二つ上だろ? 見たことないはずないんだけどな……知らん顔だ。
「愛美。見たことあるか?」
「ん~、あるような~、ないような~」
「あはは……同じ小学校だったんですけどね~」
駄目だ。思い出せない。歌音の――
『小学校でも生徒会長してたから目立ってたと思うんですけど……』
――と、呟きが聞こえたけど……ごめん、生徒会長。全然記憶にないや。
「ふむ。龍也は不在のようですね。ああそこの君。龍也の行き先を知らないかな?」
入口付近で雑談してた子に、生徒会長がイケメンフェイスで微笑みながら話しかけた。
「え? 龍也、九頭君はたぶん学食に行ってると思います」
「学食ですか、ありがとう五山送り火。ところで……可愛いですね君。今度、時間を貰えたりしませんか?」
おいおい生徒会長がナンパし始めたぞ。
弟探しに来たんだろ、さっさと学食行くべきじゃないのか? 昼休み終わるぞ。
「ああ~、突然で驚かせてしまったようだね。今は時間もありませんから、今はここまで」
そんなことを言いながら手を取り、キザったらしく手の甲にキスしやがった。
固まってる子から手を離し、教室から出ていく生徒会長。……なんなんだアレ。
教室にいる皆が思っただろう。
『キモっ!』と。
言いすぎた。皆ではないかも知れない。
中にはこんなクサイ芝居じみた事が好きな人もいるだろうからな。
そして教室を出る一歩手前で投げキッスとウインクを放ち。出て――
「げっ、兄貴」
「おお、龍也。今迎えに行こうと思っていたところだ……が、龍也、お前忘れているでしょ」
「は? 何を忘れてるって……あっ! 政治資金パーティー!」
政治資金パーティー? なんだそれ。
「思い出しましたね、この後すぐに移動してお爺様と合流しますから、急いで帰る準備をね」
お? 帰るんか? それなら助かるが……。
「チッ、仕方ねえかぁ。分かったよ兄貴。あ、お前は呼ばれてないのか? うちの派閥だろ?」
「いえ。父は出席しますが今回僕は見送りだけですね。その後主要な者たちは外遊に向かうそうですから。九頭さんはその外遊に行くのですか?」
「あー、言ってたなぁ。確かロンドンとアメリカ、中国だったか――」
途中から聞き取りにくくなったが九頭は帰るみたいだな。
取り巻きのヤツは残るみたいだが、アイツらだけならヘタな事はしないだろ。
出ていった生徒会長。帰り支度を済ませた九頭。
ダンダンと足音をたてながら九頭が俺のところまでやって来た。
「御神ぃ~。運が良かったなぁ~、今日のところは見逃してやっからよ。命拾いしたじゃねえか。まっ、次はねえから首洗っとけ」
睨み付けてくるが無言で睨み返してやる。
「……」
絶対目はそらさねえ。そんな俺にしびれを切らした九頭。
「チッ――」
舌打ちして――
――ガンッ!
「
九頭は机を蹴りやがった。幸い二人とも無事だ――
が、食べ終わった後だが床に弁当箱が散らばり、二人は体を寄せあい、怯えてるように見える。
立ち上がり、二人と九頭との間に体を滑り込ませ――
「――九頭てめえ! 何しやがる!」
「呼び捨てにしてんじゃねえ! 『様』をつけろや万年レベル0の無能が!」
「うるせえ! 俺に突っかかるだけなら多少は我慢してやる! だがな、他人に迷惑かけてんじゃねえ!」
言ってやった。九頭はキツく言い返した俺に驚いてるようだ。
「無能が俺様になんて口の聞き方だ! よーし、もう御神、テメエ死んだぞ! ファイアー――」
「龍也! 何をしている! お爺様をお待たせしているのですよ! 早く来なさい!」
九頭の上を向けた手のひらに真っ赤な炎が浮かび上がり、撃つ寸前で声がかかった。
少し前に出ていった生徒会長だ。
「兄貴は黙ってろ! コイツだけはここでブチ殺してやる!」
「龍也! ……私は早く来なさいと言いましたよ」
ゾクリと背筋に悪寒が走った。
生徒会長の大声を張り上げてもいない普通に話す程度の音量なのに。
本能的にヤバいと分かった。
駄目だ……殺される。
抵抗も何もできずにだ。
頭にのぼった血が一気に冷えた。
いや、冷えるどころか凍った。
目の前の九頭も同じように青ざめ、小刻みに震えている。
そんな状態だ。浮かべていた炎の球は、端から形を維持することができず霧散した。
「わ、分かった兄貴。分かったから、すぐに行くから――」
その場で回れ右した九頭。
足早に能面の顔をした生徒会長の元に駆けつけ、二人そろって出て行く。
「なん……なんだよアレ」
「学校最強で、高校生のくくりで、ですが西日本最強の生徒会長です」
「怖い。化け物だよ……あんなの」
歌音と愛美がシャツを掴み、そっと脇から顔を覗かせそう言った。
「西日本、最強……」
扉をくぐり、廊下へ姿が消えた途端。
張り詰めていた教室の空気がゆるんだ。
あちこちから『はぁ』『ふぅ』と空気の漏れる音が聞こえた。
あんな二つ上の兄貴がいる九頭。ヤツもあの強さになる可能性があるってことだ。
駄目だ。こんなのんびり夏休み後までにとか言ってられない。
強くならなきゃ駄目だ。じゃなきゃ待ってるのは死だけだ。
愛美、家族、そうだな、歌音も守らねえと。
「愛美。歌音」
「う、うん、ど、どうしたの」
「は、はい」
「俺さ。今から帰るわ。しばらく学校も休んでダンジョン潜ってくる」
バックパックと魔石の詰まったウエストポーチを担ぎ上げ、歩き出す。
「待ちなさい勇斗!」
「勇斗くん、今からですか!」
俺は教室を出て、最寄りのダンジョンへ向かった。
やれるだけやってやる。
西日本最強……あの先輩に余裕で勝てるくらい強くなってやる!
―――――現時点のステータス―――――
【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)
【Lv】0
【状態】打ち身 擦り傷 筋肉痛 満腹
【
【
【 力 】4
【耐久】6
【速さ】14
【器用】9
【知能】3
【精神】7
【
○個有ダンジョン
【装備】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます