第7話 初仕事

 そっと目を開けてみた。


「ここ、こないだの」


【魔石の搬入ありがとうございます。1032個の魔石を確認しました】


 肩から重さがなくなり、手にあった持ち手の感覚が無くなってた。


 あっ! ……無くなってるじゃんエコバッグ。返してくれるか、な?


「あの~、エコバッグはお願いだから返してほしいんだけど」


 義母さんの借りてるから、失くすとマズいかも。


【承知いたしました】


 ――おお! 返してくれるんだ!


 ストンとエコバッグが何もない空間に現れ落ちてきた。が! キャッチ!


 ん? なんか残って――


【では通常空間に戻――】


「あっ! 待って待って! ちょっと聞きたいことがあって!」


【何かありましたか?】


「あ、良かった。ちょっと、できたらなんだけどお願いしたいことがあって。あのさ、レベルって上がるようにとかできない?」


【特異点のレベルアップは現状不可です。では通常空間に戻します】


「駄目かぁ~、レベル上がって二階層とか行ければもっと魔力の強――」







「い魔石……って、戻っとるがな……最後まで聞いてよ」


「勇斗! どこ行ってたの! 心配したんだからね!」


「ごめんごめん、叩くな、痛いって」


 リスのように頬を膨らませて飛び込んできた愛美。胸を叩く睨む目には涙がにじんでる。


 そっと抱きしめ、頭に手を乗せ撫でてやる。心配、またさせちゃったな。


「ごめんな愛美。依頼はこんな感じみたいだ。初回はちゃんと終わったよ」


「っ! だったらアレは! レ、レベルはどうだったの! 上がるの!」


 埋めてた胸から顔をガバッと上げる……ち、近い。ちゅーしちゃえるほど近い……。


「だ、駄目だった。現状不可だってさ。まあ前にスライムだけでも文句は無いって言ってたし」


「そっかぁ。現状不可……現状? 勇斗! 現状不可ってことは!」


 ん? 現状不可。現状ではレベルアップは不可。現状じゃなくなれば上がる? 上がる!?


「マジか……希望が見えてきたぞ。愛美、愛美のおかげだ!」


 俺だけなら気づかなかったな。その指摘が無かったら沈んだままだったかも知れん。


 流石だ愛美。さすあみだ。


「やったね勇斗」


「ありがとう愛してる!」


 抱きしめていた腕をさらにぎゅっと。髪の匂いが良き。


「ほら勇斗。これで依頼は終わりなんでしょ? 学校……たぶん想像以上に居づらくなってるけど行こっか」


「はぁ、だよな。しゃーない。行くか」


 入って十数分しか経ってないのに出口に戻る俺たち。


 不思議に思われてるのか、みんなが見てくる。


 徹夜組の探索者……居ない訳じゃない。


 俺たちは……まあ無いわな、学生服だし、まず無い。


 不思議そうな顔をする探索者たちとすれ違いながらダンジョンから出た。







「あー、かのんちゃん! おーいおはよーかのーんーちゃーん!」


 横からロケットダッシュを決めた愛美。またか。


 校門をくぐろうとしてる歌音に向けて走ってく。


 あっ、捕まった。すまん歌音。




 追い付くまで待っててくれた二人と一緒に正門を潜る。


 三日ぶりの学校か……変わらないな。三日じゃそんなもんか。


「おはよう歌音。いつもすまないな」


「勇斗くんおはよう。って愛美、そんなところ握らないでください! あん――」


「ぐぬぬぬ。このっ! こいつかこいつが悪か。マウントカノンめ、何を食べたらこんな」


「ひゃっ、だ、駄目っ、そ、そんなっ――と、こ――」


「おいやめろ愛美っ! ほら見ろ、歌音が嫌がってるぞ、嫌われたら嫌だろ? ほら離せって――」


 ふにゅん――あっ……柔け、じゃなくて不可抗力です! 許してくださいませ歌音様!


 大きい目をさらに見開き、数秒見つめあってしまった後、赤くした顔がそらされた。


 やってしまったかも。そっとマウントカノンから手を離す。


 謝り倒そう。


「ご、ごめん歌音。そんなつもりじゃ――」


「ああっ、勇斗! あなたなんてことしてくれちゃってるのよ! このおっ○いは私のなんだから触らないで!」


「「歌音のだから!」」


「あー、まただっ! またハモってる!」


 校門前でそんなことをしてたら遅刻ギリギリに。なるわな。朝当番の先生も止めてよ……。


 朝当番だった担任とほぼ同時に教室に流れ込み、遅刻は免れたようだ。


 が、いつもなら誰かしら挨拶くらいはあったんだけど……これか。


 席で息を整え、なるようにしかならないと諦め、朝の連絡事項を聞いてる。


 目は九頭の背中をとらえて離れないがな。


 目からビームでも出ないもんかね……マジで。


 話しも何も聞いてなかったが、ほどなくしてホームルームが終わり、一限目が始まった。


 その時は知らなかった。地獄は休み時間からだったんだ。







「よ~御神ぃ~、休みは楽しめたかぁ~」


 二限目が終わった時、九頭が席までやって来た。


 はぁ、まーたなんか言って来やがった。ニヤニヤ顔がイライラを加速させる。


「あん? なわけねえだろ。逆の立場なら楽しめんのか?」


 手が出せないと思って煽ってきやがるのはコイツの常套手段だろう。


 少しその作戦に乗ってしまった気はする。


「おい! 九頭さんにまだそんな言葉遣いを! 九頭さん、御神のクセに全然反省してませんよ!」


 御神のクセにって、何言ってんだよ……あれ? コイツ、あっ、落とされた時、崖の上で九頭と一緒に居たヤツじゃん。


 ってか取り巻きくん、同級生に『さん』付けてるのってさ、おかしくねえか?


「反省? 反省はしてるぞ、入れるダンジョンのルールを破ったからな」


 そこは確かにルールから外れてた。


「だがな、約束ってか、脅迫じみた交換条件があるからよ。世間に公表はしないががヤられたのは事実だ。それでなんで俺が九頭に『さん』付けたり、へりくだる喋り方しなきゃなんねえんだ?」


「っ! てめえ! 九頭さん、ヤっちゃいましょう!」


「ふぅ~ん。まっいっか。そうそう御神ぃ~、夏休み明けたら闘技大会あるだろ~」


「……ああ、みたいだな。それがどうした」


「今年はさぁ~、俺がいるだろ~? なんと! 生配信されるんだよなぁ~」


 生配信? 学校行事を? なんだそれ。


「お前さぁ~…………出ろ。それで俺たちと戦えってことだぁ~な」


 顔近付けてくんな! ニチャァ笑いながらはキツいぞマジで!


「おお! 流石です九頭さん! 生配信中にボコボコにしちゃいましょう!」


 あー、やっと離れてくれたが……、なんか分かっちゃったわ。


 くそっ、やり返してえ!


 いや、なんか手はあるはずだ……ヤってやる。


「返り討ちにしてやんぜ」


 ―――――現時点のステータス―――――

【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)

【Lv】0

【状態】健康

体力HP】10/10

魔力MP】0/0

【 力 】4

【耐久】6

【速さ】4

【器用】9

【知能】3

【精神】7

技能スキル

 ○個有ダンジョン

【装備】フライパン+


 初の依頼を完了させた勇斗くん。

 微かだけどレベルアップの希望の光が(///ω///)♪


 それにしても九頭はクズだな。下っぱも。


 だが勇斗! 歌音ちゃんの歌音ちゃんをむにゅむにゅしたのはギルティ(`□´)ノ

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