第3話 なんなんだよアイツ!

「勇斗、この名前付けるの?」


「付けたら里親探すにしても別れんの辛くなりそうじゃね?」


 スニーカーの紐を結んでると前足を乗っけて見上げてきやがる。可愛い……。


 傷ついたところを舐めないようにって言ってたが……エリマキを付けられてあれだ……。


 ライオンだな……たてがみはプラスチック製だが。


 紐を結び終わり猫には玄関の足拭きマットの上へ移動してもらう。『行ってきます』と待っててくれた愛美に続いて玄関を出た。


「ねえ勇斗」


「んん~、どうした?」


「クズだけど、任せて大丈夫かな、警察」


 愛美……九頭をナチュラルにクズ呼ばわり。


「あー、煮え切らない感じだったしな」


「うん。『めんどくせえ』って心の声が聴こえてきそうだったもん」


「それな」


 なんだったんだあの態度。傷害事件にしたくないのか? まあ仕事が増えるってのは分かるが……。


「あっ、かのんちゃん!」


「あ、おい――はぁ。ま、なるようにしかならんよな」


 バス停に走り出した愛美を追いかけ足を早める。


 歌音かのんに飛び付き『だ、抱きつかないで暑いです!』とか言われてるがいつもの事だ。


「おはよう歌音。すまんな、うちの愛美がウザいとか思わんでくれな」


「勇斗くんおはよう。だから愛美、暑いんだから絡み付かないでください」


「勇斗~、かのんちゃんが意地悪する~」


「「いやいや」」


「嘘っ、二人が私をいじめる!?」


 ハモったが、朝と言っても三十度近い真夏日だってのに、くっつかれたら……なぁ。


 惚れてる俺でも……あー、それはそれで良いかも。ってか――


「「いじめてない」」


「またハモっ! ぬぬぬぬっ、こーなったら――えいっ!」


「なっ――」


 愛美の左手は歌音。右手は俺の左腕に。


「これなら文句無いでしょ?」


「「いやいやいやいや」」


「またっ! いつのまに二人はそんなに仲良くなったの! 付き合ってるの!? 私の事は遊びだったと言うの!?」


 朝からこのテンション。おとなしい歌音には悪いが我慢してもらおう。


 ちなみに付き合ってはないぞ。


 そこへバスが到着。エアコンの効いた社内へ乗り込むと、窓際歌音、通路側愛美、通路俺……。


 絡ませた腕は解放されたが手は握られてる。


 今日はってかいつも空いてるが立ったまま乗車してる俺……。


 座らせてくれよ。手も握ってたいがな! 嬉しいんだがな!


 歌音が『御愁傷様です』と声に出さず口パクで……はぁ。立っとくか。


 ぼーっと車窓から流れる景色を見ながら愛美が歌音にこの土日の事を離してるのを聞き流してる。


 はぁ、九頭。アイツ今日来んのかな。事情聴取とかで休んでてくんねえかな。






 開きっぱなしの扉を抜け、教室に入る。


 ヤツは……居ないな。乗って来たバスは結構時間ギリギリ。このまま来んなと窓際の席に。


 ホームルームまで後少しと、思わず来てない事に喜んだんだが……来やがった。


 こっちを見て『ニチャァ』と笑う。


 アイツ! なんで来てんだよ! 警察仕事しろや!


 にやけたヤツを睨み返し文句言おうとしたんたが、担任が来たせいでタイミングを逃してしまった。


 担任はなんか連絡事項を喋ってたみたいだが、ひとつも頭に入ってこなかった。


 出ていった担任にも気づかずヤツの背中を睨んでると、一限目が始まっていたようだ。







「勇斗、先生怒ってたよ? 当ててもクズを睨んでるだけで完全に無視してたし。ね、歌音。あなたからも言ってやって」


 前の席。歌音の机を愛美が回転させて俺の机とくっ付ける。


「はい。先生凄く怒ってました。その……例のあの人を睨んでましたよね?」


 ガガガ――と歌音は避けていた椅子を移動させてきて正面に座り、横には愛美。


 昼休みのいつもの体勢になりながら、そんなことを言ってきた。


「……マジか」


 午前中、何の授業を受けたのかまったく憶えてない。


 二人の表情は心配なのか少しかげっている。


「五里も休み時間に来てたけど無視だし、泣いてるんじゃない?」


「五里君の去ってくうしろ姿は、雨に濡れた捨て猫よりみじめな感じでした」


「あー、分かる。そんな感じだったよね」


「あ、五里来てたのか、悪いことしたな。後で謝っとくよ。それと二人にも心配かけたみたいだな。ごめん」


 頭を下げ謝った。


「さあ食べましょ。午後一はダンジョン実習でしょ」


「そうですね。食べてすぐ動くとお腹痛くなっちゃいますからね」


「だな。食うか」


 弁当を出して数時間ぶりに目を離したヤツはいつの間にか教室から居なくなっていた。






 五限目、六限目はレベルごとに別れ、順番にダンジョンの門をくぐっていく事になる。俺は最後。


 愛美と歌音は同じレベル3で俺のひとつ前のD班だ。羨まし……絶対追い付く!


「ではA班出発して」


「「「はいっ」」」


 早速A班が動き出した。


 ドンッ――


 ――っ! なっ! 九頭っ! わざとぶつかっていきやがった!


 ヤツは門を潜る寸前。朝のように『ニチャァ』と俺を見て、笑ったまま消えていった。


 なんだよあれ! なんなんだよアイツ!


 いつの間にか走っていた。ヤツの後を追って。


 呼び止める声も聞かず。ダンジョンの門を潜った。






 ―――――本日終了時のステータス―――――

【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)

【Lv】0

【状態】健康 興奮(怒り)

体力HP】10/10

魔力MP】0/0

【 力 】4

【耐久】6

【速さ】4

【器用】9

【知能】3

【精神】7

技能スキル

【装備】フライパン+


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 女の子と机を囲んでお弁当タイムだとっ!

 書いてて私は思った。


 勇斗の隠し【称号】に『リア充』があると思うのは私だけか? と。


 とりま、九頭くんがヘイト貯めていってますね……。



 A班 レベル9・10  九頭

 B班 レベル7・8   五里

 C班 レベル5・6

 D班 レベル3・4   愛美・歌音

 E班 レベル0・1・2 勇斗

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