第2話 もみもみもみもみ

 ――痛っ。


 なんだ? 寝てたみたいだけど……白が視界の大半をめる部屋。


「どこ……だ?」


 鼻に何か、ガーゼか? 張り付いてて邪魔だな。


 それに脇腹痛いんですけど。……あっ、九頭のヤツに……マジでなんなんだよアイツ!


勇斗ゆうと! 気がついた! ここは病院よ! 私が分かる!?」


「あれ? 愛美あみ、夜這いか? じゃなくて病院? おまえのことはちゃんと分かってるぞ」


 愛美がいたようで、目の周りを赤くして俺を心配そうに覗き込んできた。


「おい、泣いてたのか? あ、そっか病院……心配かけたか。ごめん愛美」


「うん。凄く心配したんだからね!」


 そう言って両手で手を握ってきた。


 少し見つめあった後、『愛美だけ?』と聞くと、手はそのままで、父さん義母かあさんも今は席を外してるだけで病院にいると教えてくれた。


「――で、怪我だけど回復魔法の先生はもうすぐ来るそうだから安心してね」


「それは助かる。息するだけで鈍いけど痛みがな」


「昨日は夜遅かったし、先生は帰った後だったの」


「ま、後少しの辛抱か」


 そんなところへ父さんが部屋に入ってきて、すぐに後ろにいた義母さんが飛んできた。


「ゆうくん!」


 ――ボスッ


「うぐっ――い、痛っ、ちょっ」


「ママ! 勇斗怪我っ!」


「こ、こらおまえ――」


 なんとか二人は義母さんを引き剥がしてくれた。


 心配かけたのは悪かったけど、追い討ちはかんべんして欲しいよ……。


「もう、ママ気をつけないと、勇斗は怪我してるんだからね」


 しゅんとする義母さん。激しく愛美に同意だ。まったく。


 まあ心配かけたのは本意じゃないにしても悪かったとは思う。


 先生が来るまでの時間。事情聴取に来ていた警察とダンジョン協会と話をしていた父さん。


 治療について病院とも話をしてた義母さん。


 二人が事のあらまし話し始めた――






 治療は後一時間足らずで先生が来てくれるそう。もーちょい時間があるな。


 でも協会と警察の話はムカつく話だ。


 事件性は無い?


 確かに打ち身と骨折だから事故って考えもできなくはない。


 だが俺が勝手に猫と絡まり階段から落ちただ?


 地下道は途中まで進んでたぞ!


 ……ふう。落ち着け。


「――違う。事故とかそんなんじゃない、襲われたんだ」


 怒りをみんなにぶつけないよう静に否定。


 驚く二人と、何か察したのか眉間にシワを寄せる愛美。


「誰なの……襲ったのは」


九頭くずだ。間違いない」


「――クズ……アイツね。分かった。その事警察と協会に言わないと。お義父さんお母さん」


「ああ、すぐに行ってくる」


「私も事故だと思ってたのに――いいわ、しっかり伝えてくるから」


 と、走り出ていくところを止め、何があったのか思い出せるだけ説明した。


「え? あの猫、勇斗と一緒で被害?」


「それはちょっと急がないと不味いな。すぐに連絡を――」


「あなた、早く電話しなきゃ殺処分――」


 それからは一段と、バタバタ激しくなったが間に合ったようだ。良かった。


 猫は一応保健所と併設してる動物病院で簡単な治療はされてたようだ。


 ひと安心した後、父さんだけだけじゃなく、俺も警察と協会から来てた人たちと事情聴取を受けることになった。


 警察は時間をかけて説明しても事故と事件の両面から捜査を続けるにとどまった。


 被害者の証言だけでは立証は難しいとか……。現場検証はしてるんだろ? してないの?


 あんなの調べれば鼻血も出てただろうし……ゲロも。それも警察に話したが調査はするとの事で話をにごされた。


 ダンジョン協会は、警察に協力はするが九頭へ対応は捜査の結果しだいだと。


 そう言って事情聴取は終わり、病室は家族だけが残された。


「もう! なんて頭の固さなのかしら!」


「おまえ、病院だからあまり大きな声は控えて。……しかしあの対応は無いな」


「でしょっ!」


 だから声デカいって……。ヤられた当事者だ、叫んで怒鳴り散らしたかったが代わりに義母さんがヒートアップ。


 テンション上がりまくりな人を近くで見てると冷静になってくる。っての本当だったんだな。


 プリプリと怒る義母さんをなだめる父さん。


 ベッドに腰掛け横にいる愛美の眉間にはまだ深くシワが刻まれている。


 その眉間に狙いを定め左手を伸ばし、指先でくにくにと揉みほぐしてやった。


「…………」


「ほら、機嫌直せ。あれだけ警察と協会に説明しただろ? なら後は警察の捜査が進むの待てば良いじゃん」


「だけど――」


「まーたシワができたじゃねえか。もみもみもみもみ」


「ぶー」


 眉間を揉みほぐしてる手の手首を握られたがどけようとはしない。


 空いてる右手を今度は背中側から伸ばして頭に乗せる。


「ほら落ち着け」


「うん」


 トン、と。今度は眉間を揉んでた手をどけたかと思ったら、俺の胸に頭を置いた。


 ……てかさ、今日は良いとして、明日の学校で九頭と顔合わすよな。


 クラス一緒だし……。面倒にならなきゃ良いが――


「失礼します。回復魔法の先生をお連れしました」


 警察たちが出ていったまま開いてた、扉の向こうに若い看護師さん。


 その後ろから父さんたちくらいかな、探索者がよく着てる服装の小太りなおじさんがいた。


「……? えっと、怪我人は……チッ、そちらの男の子リア充かな? 治さなきゃ駄目?」


 舌打ちした? いや、頼むから治してくれよ。


「駄目です。そういう契約ですから」


「チッ――」


 また舌打ち! それも今度はみんなも聞こえてたよな!? それに睨まれてるぞ俺っ!


「では御神さん、お待たせしました。こちらの先生が回復魔法をかけてくれますので」


 看護師さんスルー!?


 てかさ……なんか、攻撃的な感じがにじみ出てんだけど大丈夫……だよな?


 ほらっ、と看護師さんに背中を押された先生は、観念したのか部屋に入ってきた。


 しぶしぶといった感じで『はぁ~』『辞めようかなこの仕事』とかブツブツと。


 本当に大丈夫かこの先生……。


 なんか微妙な雰囲気だが、中々離れない愛美をそっとひっぺがえして探索者風の先生と向かい合う。


 なんか『ぐぬぬ、不本意だが――』とか睨んできながら三十センチくらいの杖を取り出し、立ったままやる気なさそうに呪文を唱えた。


 杖の先が光り、その光が頭の上から降り注ぐ。


 おお~、脇腹の鈍い痛みが引いてくぞ! 心配だったけどやっぱり魔法スゲー! 使ってみてー! できたら攻撃魔法使ってみてー!


 骨折はハイヒール一発で治った。治ったんだがヤバい――


「ふあっ――ふあっ――ふあっっっっしょいっ!」


 なんか鼻の骨が治ったからか、ムズムズして変なくしゃみが出た。


 先生すまん。結構ツバ飛んじゃったよ。

 

 ―――――本日終了時のステータス―――――

【名前】ユート ミカミ(御神 勇斗)

【Lv】0

【状態】健康

体力HP】10/10

魔力MP】0/0

【 力 】4

【耐久】6

【速さ】4

【器用】9

【知能】3

【精神】7

技能スキル

【装備】


 二話目読んでくれてありがとうございます。


 勇斗くん、何とか無事だったようです。

 猫ちゃんも( 〃▽〃)ヨカッタヨー


 父ちゃん義母ちゃん義妹ちゃん登場です。

 あっ、看護師さんと回復魔法の先生はたぶんもう出番は無いはず……うん、無いはず。

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