第1話 高嶺の花

家を後にした俺達は学校に足を進めていた。外は春色に染まっており、桜を見て気分が上がっている者がちらほら見受けられる。勿論俺の妹も例外ではなく

「お兄ちゃん桜だよ!綺麗〜」

「ま、確かにそうかもな」

桜は花期が短い花であるが故に風情があると言われたりするものだが

(俺は一日花いちにちばなである菖蒲あやめ朝顔あさがおの方が儚いと思うんだけど...)

と、ここまで考えて

「お兄ちゃん、また余計なこと考えてたでしょ」

「...別に」

妹に思考を少し読まれてしまったので考えるのを止めにする。

「それにしても時雨しぐれ、お前あっちの中学から来る友達いるのか?」

万花ばんか高校は、ここら辺でも偏差値の高い高校として有名である。それなのでそこら辺の中学生が受かるような高校ではないのだ。

「実はね、私以外にも二人受かってる友達がいるんだ」

「そうか...」

(こいつの友達、意外と頭良いんだな)

時雨は俺が勉強を教えていたこともあり、落ちる心配はまったく無かったが時雨の友達に関しては会ったことすら片手で数えるくらいしかないので俺の中で不明瞭なままだったのだが、要らぬ心配だったらしい。そうして歩き続けてちょっとした十字路まで来ると

「あ、お兄ちゃん私ここから友達と一緒に行く約束してるから先行ってて」

「そうか、気を付けろよ」

「うん!」

そう言って時雨は友達の家と思わしき場所に少し駆け足で向かっていった。そうして俺が歩き始めようとした瞬間、「あれ、桜花じゃん」と聞き慣れた声が聞こえてきたので足を止め、振り返って見るとそこには

「やっぱり桜花だ」

「桜花、久々だね」

見慣れた二人が手を振ってこちらに歩いてきていた。

「相変わらずだるそうな顔してんな〜」

「...」

この失礼な男は桜燐秋永おうりんしゅうと。中学からの付き合いで、訳あって俺への理解度が知り合いの中で群を高い。そして

「まぁまぁしゅうくん、桜花をからかってるとまた口聞いてもらえなくなっちゃうよ?」

秋永と一緒に来たこの女子は梗月こうずき桔埜きの。秋永の彼女であんな事を言っている彼女だが、からかってくる頻度で言えば秋永より桔埜の方が多いのだ。二人して俺をからかってくるので、たまにガン無視することがあるのだが奴らは「だからどうした?」と言わんばかりにからかってくるので結局最後に折れるのは俺の方なのでもうお手上げである。

「...お前ら、揃いも揃って俺を不愉快にするのが上手いよな」

「「それほどでもぉ」」

「褒めてねぇよバカ共!!」

(こいつ等、本当に懲りないな..)

内心でそんな事を愚痴りながら歩いていると、見慣れた校舎が目に入ってきた。

「ふぅ、久々だな」

「いや、別に俺達委員会の仕事で春休み中何回か学校に来てただろ」

「そうだけどさーなんか言いたくなっちゃったんだよね」

「ねぇねぇ!そんなことよりもさ、クラス発表みにいこうよ!」

桔埜にそう言われた俺達は、歩いていた足を早めて正面玄関の横にあるクラス表に向かって行った。

「み、見えない...」

「まぁ、予想はしてたがここまで人が多いとは思わなかったな」

クラス表の前には二クラス分くらいの人だかりができており、これだと無理やり入り込むことも不可能なのでどうするかと頭を抱えていると

「二人共、私達同じクラスだったよ!」

「は?」

いつの間にかいなくなっていた桔埜がどうやってか、俺達のクラスを見てきてくれたらしい。

「桔埜、でかしたぞ!」

「でしょ!」

そう言って秋永と桔埜がいちゃついているところを完全にスルーしてクラス分けの書いてある場所に目を向けると、確かに秋永や俺のような男子では無理だろうが女子である桔埜なら少し無理すれば入れそうな隙間があった。おそらくあの隙間から見に行ったのだろう。

「分かったんだったら早くクラス行くぞ。桔埜、何組だったんだ?」

「ん?四組だったよ」

「よし!なら早速行くか!」

そして俺達は四組へと向かった。

「なぁ桔埜、他に誰か知り合い居なかったのか?」

突然秋永がそんなことを言い始める。秋永は所謂陽キャと言われる立場で男女ともに知り合いが多い、なので新しいクラスになったとしても数十人くらいは話せるやつはいるだろう。逆に俺はあまり人と関わりを持持ちたくない、なのでこの学校で話すのは秋永と桔埜だけとなる。これを不自由だと感じたことは無く、どちらかといえばちょうど良いくらいである。

「あーどんな人がいたかは分かんないけど、明寧守あねもさんがいたのはみたよ」

明寧守あねも紅音あかね、学校でと呼ばれている存在で成績優秀、運動神経抜群な彼女はこの学校にいる彼女がいない男子は一度は恋心をもつ相手らしい。

(俺にとっては全くと言っていいほど関係のない話だがな)

「へぇ〜明寧守さんがいるのか、騒がしくなりそうだな」

「そうだねぇーでもそこに一人騒がしくならない男子がいるらしいよぉ〜」

ニヤニヤとしながらこっちを向いてくる桔埜、それと一緒に秋永までニヤニヤしながらこっちを見てくるので俄然がぜんイライラしてくる。

「お前ら、死にてぇのか?」

「べっつにー俺等は桜花おうかがそうだとは一言もいってないんだけどなぁー」

「だよねー」

「...」

俺は無言で秋永達の額にデコピンを放った。

「いって!悪かったって」

「桜花のデコピンって案外痛いんだよねぇ〜」

そう言いながら額を擦りながら歩く二人。

「でも桜花くらいじゃないかな、この学校で彼女いなくて明寧守さんに恋心がない人」

「確かにそうかもな。そもそも桜花自体、人と関わりを持たないやつだからな」

「別になんだって良いだろ、あんまり人と話したくないんだよ」

「そう言いながら俺達と話してくれる桜花くんやっさしぃー」

「あ?」

「すみませんでした」

調子に乗るからこうなるのだ。まったく。

「あはは..あ、四組見えてきたよ」

俺達のクラスの四組は校舎の一番端にあるので少し時間がかかると思っていたが、どうやら話している間についたらしい。

「誰かいんのかな?」

「知らね、別に話すわけでもないからな」

「相変わらずだねぇ、まぁとりあえず入ろうよ」

そう言って桔埜はクラスの扉を開けて入って行ったので続いて秋永が入っていく。そうして二人が入っていったときクラスの中から「「あ...」」という二人の声が聞こえたので気になり、入っていくとそこには

「おはようございます、皆さん」

高嶺の花と言われていた明寧守紅音がこちらを向いて微笑んでいた。





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