　それに対して十二堕天使委員会の委員長の相馬重信（相馬重信は某私立大学の文学部哲学科卒のインテリで、小学校の校長をしていました。自らアンチ・キリストの堕天使を名乗って十二堕天使委員会を作ったのです）は、質問します。

「そんなら、俺らに一体どうしろと言うがや？」

「僕が、Ｘ大学医学部に入学して真実を暴いてみせます。だから今行動に出るのは待ってほしい」との、中村京太郎の言葉には確かに大変な説得力と理屈がありました。そこで、十二堕天使委員会は活動を中止。全てを中村京太郎に任せる事になったのです。

ここで、中村京太郎が何故、私の母の真理を守ってくれたかと言うと、あまりの美少女に育っていた母の真理に小さな恋心を抱いていたらしいのです。

　やがて、先程の宣言どおりＸ大学医学部に入学した中村京太郎は２０年も前の「藤崎病院事件」を徹底的に調査しはじめます。

　そして、年に最低年１回は、十二堕天使委員会に報告していたのです。その中で色々な事実が、中村京太郎によって暴露されていきます。決定的だったのが、アメリカ大使館からの要請で、

「遅くとも数年以内に「生体脳移植」の実験を行い、必ず成功して欲しい」との密約文書の存在を中村が嗅ぎ付けた事です。

　この話を、蛇谷村にいた十二堕天使委員会に報告したところ大きな動揺がおこります。

　つまり、藤崎医師をはじめ、あの得体の知れない約２０名近くの人間は実は全員Ｘ大学の学者や医学生及び看護婦達であったのではないのか？もしかしたら、これはＸ大学と日本国家、更にはアメリカ国家との密約があり、医学実験の為に、この蛇谷村の３人の子供達が生け贄になったのではないのか？と。

　このようにして、最初は藤崎家一家の殺害を目的としたカルト的グループであった存在が、徐々に、「藤崎病院事件」の真実を暴こうと言う態度へと変化していきました。かっての村の役員達は、最初から３人の子供を差し出す条件で、藤崎病院をここに誘致したのではないのか？

　と言って、その証拠は全くありません。

　更に、Ｘ大学在学中に、中村京太郎は不気味な真実を知ります。それは、なかなか生体脳移植の実験に踏み切ろうとしなかった藤崎純一助教授に決断させるために、彼の子供にアメリカで開発された筋肉萎縮剤を投与。人為的に「早発性筋萎縮症」なる病気を作り出し、彼の子供を助けるためにも、是非、生体脳移植の実験に踏み切らざるをえなくさせたのです。

　そのために選ばれた場所が無医村であったこの蛇谷村なのです。蛇谷村は、こうして当時日本一といわれた天才外科医の藤崎純一医師の病院の誘致に成功するのです。

　それでは、肝心の黒幕のアメリカ国家は何故そうまでして危険な実験を急いだのか？その理由は分かりませんが、中村京太郎によれば、その当時の大統領クラスの重要人物が重病になったとか？まあ諸説があるそうですが、未だはっきりしません。

　ただ、ともかく、こうして二ケ国とＸ大学医学部挙げての共謀共同実験がスタートしたのですが、その実験の最中に三人の犠牲者の親や親戚らによって地獄の生体実験が発見され、藤崎医師はそのまま服毒自殺。また、事件のどさくさにまぎれて約２０人のスタッフは蛇谷村を全員脱出に成功。そして、この話は国家権力によりねじ曲げてマスコミも巻き込んで、そのままうやむやに消されてしまったのです。そう……藤崎医師一人に全ての罪をなすり付けて。こうして、蛇谷谷村を襲った第一の大事件の真相がハッキリしました。

　しかし、十二堕天使委員会は、更なる疑惑の核心に迫ってきました。自分達の子供らは、もしかしたら蛇谷村の先代の村長や村の先代の役員達らによって、最初から人体実験される約束になっていたのではなかろうか？との大きな疑惑です。

　十二堕天使委員会の委員の一人で当時、蛇谷村役場に勤務していた人がいます。

　彼は、蛇谷村役場の極秘書庫のありかを知りますが、その極秘書庫のカギはその当時の先代村長の森末村長が握っており、どうしても開ける事ができませんでした。

　また、中村京太郎に、不思議な事件が周囲で徐々に起こり始めるのです。大学の帰りに道に急にスピードを上げてきた車に轢かれそうになったり、研究室で出されたお茶を飲んだら急に気分が悪くなったりした事等々です。これは、自分自身の命が狙われているものと感じ、中村京太郎は大学を卒業したあとＸ大学院への勤務を断り関西地方の公立病院に脳外科医として勤務します。

　あとは、村役場職員に潜り込んだ十二堕天使の一人が、何らかの密約書を発見してくれれば、全ての事実が暴かれる事になります。

　そして、遂にその日がやってきました。

　秘書総務課に勤務していた十二堕天使委員会の例のメンバーが、その極秘書類の存在を遂に突き止めたのです。その事実を察知したかっての村の有力者達やその仲間達は、今度は「藤崎病院事件」の真実の暴露を恐れ、十二堕天使委員会全員の抹殺を計画します。全くの逆の展開になったのです。その日こそが、あの秋祭りの日、お父様の知る「蛇谷村大虐殺事件」のあった日なのです。

　とはいえ今回の事件の発端となったのは４０年以上も前、自分の父が引き起した「藤崎病院事件」がきっかけとなっているのです。

　なので母は、お父様に迷惑を掛けぬよう、自分一人で十二堕天使委員会の抹殺に向かいます。……それも、自らの身体をかけて、いわば男性を色気で誘って油断させ一人づつ殺害していく方法をとったと言うのです。

　しかし、森末現村長の最終計画では、全ての事件の結果を母の恋人でもあるお父様の田崎真一にかぶせる予定だったのです。そう言う意味では、お父様もまた「選ばれた青年」であったと言えます。

　でも、母の真理も、結局あの捏造された予言に騙されていたのです。更に、用意周到な事に、森末村長側はＸ大学医学部から精神錯乱剤の提供を受けています。

　事件後、お父様に注射して全ての責任をお父様にかぶせる計画だったのです。

　また、母には、多分、自分の父親の精神的な傾向（パラノイア的傾向）が一部宿っていたのかもしれません。結局、何処か祖父の藤崎純一自身にも道徳的な歯止めが弱かった心の傾向があったのでしょう。そして秋祭りの日のあの「蛇谷村大虐殺事件」が勃発します。これが、蛇谷村を襲った第二の大事件の本当の真実だったのです。

　これまでの話自体、とても、お父様には信じられないでしょう。

　しかし、私の祖母の千里お婆さんは、実は十二堕天使委員会にではなく、村人側に殺されたのです。それを勘違いして母が最初に殺害した母の家の前にいた男性は、逆に母やお父様を守るために十二堕天使委員会が派遣してくれていた若者だったのです。でも、母は自らの肉体で誘惑して油断させ殺してしまった。最後に、母を救ってくれたのは、その時、森末村長や村人達からは、全くマークされていなかった中村京太郎でした。

　この頃、中村京太郎はＸ大学医学部を卒業し関西の公立病院に勤務している現役の医者でした。年齢はお父さんより３歳年下です。

　彼は、胸騒ぎを覚え秋祭りの日に帰郷しており、母に似せた粘土の泥人形を前もって作っており、母の着ていた着物に着せ替え母に大声で絶叫させその泥人形を蛇谷ケ湖に投げ込みました。

　深いカルデラ湖の中に沈んでいった人間は、二度と浮かび上がって来ないと言います。

　これはお父様をはじめ多くの村人達も目撃しています。そのお腹の中に私が宿っていた母を車に乗せ、中村京太郎は蛇谷村を脱出。その後は、和歌山県で自分が開業した中村脳外科病院で母の面倒を見ます。母は大阪府で浮浪者から戸籍を買い、また、中村京太郎の知り合いの形成外科の医師に頼んで顔を徐々に変えていきました。

　以上が、この４０年の間に、蛇谷村で起こった全ての事件の本当の真実の姿なのです。

　この手紙は水に解ける特殊な紙を使用しています。読み終わったら水洗トイレに流して下さい。また、私のプリクラ（小さな写真）を貼り付けてあります。若い頃の母とそっくりだと思います。

　そうして、私は母を蛇谷村から救いだしてくれた中村京太郎さんと、今年、結婚しました。夫とは相当に年齢も離れており私はまだ２０歳で年も若いのですが、私の母の真理の寿命がもう幾ばくもないからです。でも、お父様に母も会いたがっています。なるべく早く脱出する方法を、別添の手紙に私の夫の中村京太郎さんが書いております。

　それでは、お父様、もう少しの辛抱です。頑張って下さいね。一日でも早く会える事を願っています。

追伸

　この手紙が本物であると言う証拠に、私の母は生まれた時から右足の太物の付け根部分に、ピンク色の小さな蝶の痣がありました。この事を知っているのは、多分、自分の母親で死んでしまった千里お婆さまと、お父様だけだと……。あと、この私が小さい頃から母と一緒にお風呂に入っていて知っていますが……。

　これでどうですか？この手紙の内容が信じられたでしょうか？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　お父様の娘　中村梓より】　