第30話 人間の執念
巻き上がる水蒸気の中から、不気味なうめき声が漏れ聞こえてくる。ぼやけるた視界が徐々に鮮明となり、呻く大怪異の姿がはっきりと見え始めた。
「あぁ......ぁ......」
「ほう?生きておるか。腐っても公爵級じゃな?」
「ぬぁ.......」
これだけ激しい戦闘が続いているのに、なぜ他の怪異が反応を示さぬ?あまりにも不気味じゃ.......
どちらにせよ好都合じゃな、流石のワシでも一斉に来られては勝算が薄い。
「死んで居らんのならもう一撃叩き込むだけのことよ!!」
「ぁ……じかん、ぎれ。」
「なに?」
「ぁ……ギャュァァァァァァ。」
最後のトドメを刺そうとしたその瞬間、突如......目の前の怪異がネジ切れて潰れた。
しかしネジ切れて潰れたのは目の前にいる怪異だけでは無い。
海上に佇んでいた怪異たちも次々と歪み、恐ろしい音を立てて崩壊していく。
耳をつんざくような響きが広がり、世界そのものにひび割れが生じた。
天空に広がる亀裂は、まるでガラスが割れるように砕け散る。亀裂の中には、圧倒的な混沌が広がっている。
「何が起こっておる。」
「ぁぁ。神、ちに、く。」
怪異達の肉片が亀裂の中に飲み込まれていく。そして……
おぞましい形をした8本の指を持つ異形が腕が、亀裂の中から姿を現したのだ。
未だ腕だけしか姿を現していないにも関わらず、圧倒的な圧がそこにはあった。
「これが……大怪異王。」
圧倒的な力がのしかかる.......絶望が肌に染み込むようだった。
回避不可能な絶対の死がそこにはあるのだ。その全貌を表した怪異の神はまさに別格。他の怪異とは強さの桁が違う......
まるで己の愛娘を初めて見つけた時のような威圧感。
「ここが潮時……と言うとでも思ったか!!殺してやるわい……人間、いやワシの怒りを思い知れぇ!!」
「……慣らしの銀。」
次の瞬間……老兵の腕は付け根から消し飛ばされていた。
動きさえ捉えることのできない不可避の光線。しかしそれは何か特別な仕掛けが施されている訳では無い。
ただ指先から打つ出された弾速のみが引き起こした、必定の結果であったのだ。
「ヌゥゥ……見えん!じゃが腕の一つくらいはくれてやろう!『異能共振・超人』」
「……異能者よ。必滅とはなんたるか、我が授けよう。」
闘志今だ衰えを知らず、それどころか以前よりも激しく燃え上がる。
例え、宇宙を統べる神が立ちはだかろうとも……『不屈のゼルス』が折れる日は来ない。
彼の原動力は今も尚憎しみだ......
しかしいつしかその願いだけは、怪異の撃滅ではなくなっていた......
「月乃よ......お前がただの女子高生になれる世界を!わしが作る!! ハァァァァ!異能共振・最終解放術!!!心神闘法!!」
「……矮小なる人間の子よ。弱きとは何たるか承知はしているか?」
「弱さなら知っておる。誰よりもこのワシがな!!」
「......残念だが、人で誰よりも弱さを知るのは枯れた桜の一本木よ。まぁよい、慣らしの銀……」
「ヌォォォォォォ!!」
先程、不屈のゼルスが視認することさえ叶わなかった不可避の閃光……
それを『超人』の反射神経と長年の経験だけで回避して見せたのだ。
「ほう?避けるか......」
「同じ手を食うと思うとるのか!!その慢心がワシら人類に勝利をもたらす!!」
「……『不屈』の二つ名は伊達ではないな、始まりの異端者よ。」
しかし、その刹那の間に既にゼルスは間合いを詰めていた。
「終わりじゃ!!異能共振・終式奥義!!
「見事なり。矮小なる生命よ。」
次の刹那、ゼルスの剣が振り下ろされ、強烈な一撃が怪異の神を襲う
――それこそがゼルスの渾身の力だった。
しかし、その刃は怪異の神のたった二本の指によって静止される。
「ぬぉぉぉぉぉぉぁあああ!!動かぬじゃと!!!」
「……これが『人間』という種の限界ぞ。」
「何のこの程度で......」
「人間に『怪神権能』を使うこともあるまいて......必滅の金。」
「!?」
『不屈』とまで言われた男の全身が震え、体中の細胞が何か恐ろしい事態を悟った。
それは到底、信じられないほどの莫大なエネルギー放射......
圧倒的なエネルギーの放射が、空間そのものを焼き尽くさんばかりに広がっていく。
人類がただの一度も辿り着いたことのない、超破壊の一閃であった。
【核兵器】や【神の杖】でさえも、霞んで見えるほどの破壊力を持つそれは......
ペーリング海を横断しその先の大陸を蒸発させる。
挙句の果てには.......熱線は北極にまで影響を及ぼし、重力圏さえ抜け宇宙空間へと放出された。
「バ、バカな......貴様は地球で放し飼いしていい存在ではない!!」
しかし......既に『大怪異王』の関心は不屈のゼルスにはなかった。
「何故......神々は沈黙を貫く?オリジナル軸に時間制約が無きことを忘れたか?」
「何を言っておる!こちらを見よ!!」
「ルシア・ゼルトルス......何故介入して来ぬ?それとも神々の世に何か異変が?どちらにせよ好都合......」
先ほどの熱波にあてられ、『不屈のゼルス』はその全身に重大な火傷を負っていた。
発汗器官は皮膚火傷により完全に壊れ、専用装備さえ融解してしまった。
それでも、『不屈のゼルス』に負ける気などない。
しかし、今回の相手は.......
「貴様は!ここで止めてみせる!人類の未来に栄光あれ!!」
「うむ?未だ生きながらえていようとは。良かろう、いざ刮目せよ怪異の頂点を。」
『怪神権能・必中の青』
「な......に?」
圧縮された時間の中で......『不屈のゼルス』は見た......
自身の肉体が引き裂かれるその瞬間を......
それは高速斬撃などというチャチなものではない......
それには過程がないのだ......ただ胴体が乖離したという事実だけが残る。
因果の無視、地球法則の外にある超常の力......
ドローンを通じて全人類が見た......
人類抵抗の歴史......その象徴たる『不屈のゼルス』が無残にも潰える瞬間を......
胴が泣き別れし、遥かなる大海に落下していく凄惨な光景を......
「矮小なる人間よ。これが必滅者の結末である......」
「黙れ。」
「!?!?」
次の瞬間、数千を超える超破壊兵器が豪雨のように襲い掛かる。
「この程度!小賢しい人類が!!殲滅の赤!!」
次の瞬間、無数の超破壊兵器が怪異の神に襲いかかる。
球状の赤い衝撃波が全ての兵器を弾き飛ばし、瞬時に蒸発させた。
しかし、怪異の神は気づいた。そこにいるはずのなかった何者かが、空中に立っている。
「今日滅ぶのは人類じゃない......『怪異』だから。」
「......貴様が特異点、『朔月のムーノ』か。」
「絶対に......あんただけは許さない。」
「貴様を屠れば、残るは殲滅は全て児戯であろう。」
「その言葉......そのまま返す。」
『人類最強』と『最強怪異』の激戦が遂に幕を開く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
胴体を両断し、太平洋に落下していく『不屈のゼルス』
そして怪異の神から語られるルシア・ゼルトルスの名前?
遂に始まる『人類最強』VS『最強怪異』その勝敗はいかに?
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!
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