第28話 人類抵抗の象徴
――ニュース報道、11分前――
地図にも載らないような小島で、一人の老人が怪異たちの動向を探っていた。
「うーむ。何じゃ?あんな何もない海上で何をしておる?」
これまで多くの怪異と対峙してきたが……このような行動は初めて目にする。
あまりにも奇怪で不気味だ。怪異たちはそれぞれが『怪能』を発動させている。
しかし、この事態は本来ありえない。
「怪能か?……いや、『怪装』ではない。だが、子爵級の怪異が怪能を操れるはずもない」
ゼルスの心に不安がよぎる。
あそこに集まっている怪異は伯爵級ではなく、公爵級以上である可能性が高い。
「これはまずい……すぐに本部に連絡を。世界的な避難が必要かもしれん」
情報の共有を瞬時に終わらせた老兵は見た......
遠く彼方の海上に浮かぶ怪異の一匹が......ゆっくりとこちらに向き直す瞬間を。
「あ、ありえん……この距離で気づかれたというのか?」
次の瞬間、怪異は地鳴りのような轟音とともに、小島に向かって猛然と攻撃を繰り出した。
大地が揺れ動く中、圧倒的な破壊力が一気に解放され、周囲はその衝撃に飲み込まれた。
老兵は宙に浮かび、それを回避したが、島は粉々に砕け散ってしまった......
「やむをえん……戦うしかないか」
「お、まえ……知ってる。ゼルス、不屈のゼルス」
「随分と有名になったものじゃな……」
「悲しい……人類抵抗、ここで終わる」
「フフハハハハ!! 老兵だからと侮るなかれ!」
「『怪能・赤色光線』」
目にも止まらぬ速さで赤色の光線がゼルスに向かって放たれた。
『不屈のゼルス』は軽やかに宙へ浮き上がり、難なくその攻撃を回避して見せた。
敵の攻撃が激しさを増す中、彼は冷静に戦場の全てを見渡しながら、次の一手を探っていた。
「『異能・浮遊』、重ねて『異能・強化』」
「……ぁ? それ、だけ?」
「そうじゃ。神さんからは、この二つしか授からんかったわい。」
「……おま、え。よわい? つよくない?」
「強いぞ? ワシは……『人間』じゃからな。」
「いみ、わからん……しぬ」
怪異は、巨大な赤いレーザーを一斉に放った。
それは瞬時に無数の小さな光弾へと変わり、雨のようにゼルスの頭上から降り注ぐ。
空が一面、赤い光の嵐に包まれる中......『不屈のゼルス』はその激しい猛攻を見据えていた。
「……これは面倒な仕掛けじゃな。ならば......専用異装解放『不折振動刃』」
「なんだ、それ? なんだ?」
「知らぬか? やはり怪異よのう。これは、怪異の亡骸から作られた人類の叡智。全ての怪異を滅ぼさんと夢見る、技術の結晶よ!」
「ざこ怪異の力……無駄、むだ。」
専用異装......それは人類が怪異に対抗するために開発した、異能者専用の装備である。
怪異の亡骸から細胞核を抽出し、その怪装・怪能を武器や装備に転化する超生体兵器だ。
ただし、強力すぎる伯爵級以上の怪異では、未だ開発に成功していない。
装備を身につけることで、怪異の細胞が体内に入り込み、使用者の身体を強化し再生力を向上させる。
ゼルスの専用異装は、五感の強化と肉体強度の大幅な上昇である。
「無駄かどうかはワシを殺した後にせい!朔月流剣式!双月龍!!」
「その剣……似てる……たゆたう、月に。」
「誰がこの剣技の原型を作ったと思っとる! もっとも、すぐに教えられる側になったがの!」
「……こざいく、むだ。」
赤い光線が触手に収束した直後......それは次々に増殖し、凝縮されていく。
どんどんと増える触手は、その全てに赤い光線を握りしめており、圧倒的な力を蓄えながら輝きを放つ。
......空間全体に緊張感が走った。
「……模倣でもする気か?」
「よわい技……マネしない。物量、切り刻む。」
「……なんじゃと?」
怪異の触手は際限なく増え、その数は瞬く間に百を超えた。
すべての触手が圧縮された光線の束をまとい、それはすぐに一点へと照射される。
「焼けろ。」
「ワシを……誰だと思っておる!」
光線の雨を巧みにかわしながら、ゼルスは驚異的な速度で怪異との距離を縮めていく。
その動きは一瞬の無駄もなく、長年の戦場で培った鍛え上げられた技が織りなす熟練の動き。
圧倒的な攻撃の中で、一切の動揺を見せず......老兵は経験のみでその場を支配して見せた。
「……異能、二つ、嘘?」
「違うぞ。お主が押されておるのは、ただ知見が狭いからじゃ!」
「?」
勝利への道が開けたぞ! のう?大怪異よ.......
若い退怪術士とは違うぞ?踏んできた場数が!超えてきた死線の数が.......丸二つは違うのじゃ!!
数十秒の短い間に、ゼルスは怪異の間合いまで入り込んだ。
「どうした大怪異......今わの際じゃぞ?」
「ば……かな?」
憎しみの剣が天に掲げられる......それは何度も人類の心を支えた伝説の一撃。
弱き異能を授かりながら人類のため、最前線に立ち続けた始まりの男。
彼は諦めることなく戦い続けた――人類の戦意として。
「退怪剣……『不屈上段斬り!!』」
「!?」
憎悪に燃える剣が大怪異を包み込む。人類の滅亡に抗い続けた男の一撃は.......
半世紀が過ぎようとも、変わらず怪異の命を断たんとする。
それが人類抵抗の象徴......『不屈のゼルス』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
あれ?と思っているかもしれませんが、ラナとムーノは専用装備がありません。
ラナは異能の戦装の効果を邪魔するから、ムーノはそもそも強すぎて不要です。
もし面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をしてくれると.....超嬉しいです!!
何かあればお気軽にコメントを!
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