第74話 総仕上げ

 不正にかかわっていた魔法兵団幹部のひとりは、俺がジノンを説得して押収した証拠品を手に入れ、他の幹部を脅し、さらなる地位と権力を手中に収めようとしていたのだろうな。


 結果的にその浅はかさをグラムスキー兵団長に見抜かれた挙句に先手を打たれ、ただ墓穴を掘っただけになったが。


 とりあえず、事件の黒幕はなんとか無事に捕まり、あとは王都へ攻め込んできたドラゴンを倒すだけ――なのだが、どうもそれに関して俺の出番はなさそうだ。


「決着はついたようだな……」


 シャーリー。

 ユマ。

 メイジー。

 マリーナ。


 かつてコリン村で魔法を教えていた四人の弟子たちが、見事それぞれの属性魔法を生かし、ドラゴンを撃破。直前に最強格である闇色をしたドラゴンを倒していたことで自信もついていたようだし、当然の結果か。

 

 あっちには本物のグラムスキー兵団長もいるだろうし、合流して事態を報告しないとな。

 俺は周りの魔法使いたちに城の警備へ参加するよう呼び掛けてから、勝鬨が轟く王都中心部へと向かった。



 戦いは終わった。

 探知魔法で周辺を確認してみるが、増援の気配はない。

 もっとも、黒幕であるジノン・バークハートは捕らえられたのでこれ以上はさすがにないとは思うが……それでも、魔法兵団幹部という身内にも気をつけた方がいい存在がいるため、油断はできないな。


 さて、たどり着いた王都の中心部では騎士や魔法使いが互いの健闘をたたえ合っていた。

 あの姑息な手を使って自分たちの不正を抹消しようとしていた幹部にも、この光景を見せてやりたいところだ。


 人々を守るために戦った彼らの血と汗と涙を目の当たりにしてなお反省して自首できないようなら、もう救いようはないけど。


「おお! ゼルク殿が戻られたぞ!」

「大魔導士殿だ!」


 ひとりが俺の存在に気づくと、あとはもうされるがままに輪の中心へと引っ張り出されていく。


 そこにはシャーリーたち四人の弟子に加え、グラムスキー兵団長の姿もあった。


「先生!」

「私たち、やりましたよ!」

「王都の平和を乱す悪しき竜を蹴散らしてやりましたわ!」

「凄いでしょ!」

「ああ。みんなよくやってくれた」

 

 まずは弟子たちの労をねぎらい、それからグラムスキー兵団長へ城内での出来事を告げた。


「そうか……そんなことが……」


 最初はどこか悲しげな顔つきをしていたグラムスキー兵団長だったが、すぐに気持ちを切り替えていつもの調子に戻る。ただ、その瞳は何か強い決心をにじませているように思えた。


「これでひとつ前進だな」

「はい」


 力強くそう語るグラムスキー兵団長。


 あの偽物が口にした言葉は、普段から本物が口にしていることを適当につなぎ合わせたものだったのだろうが……これからはそれが実現に向けて一気に動き出す。


 俺はその手伝いがしたいと、心からそう思えた。

 ジノンやハインリックの無念を晴らし、魔法兵団を正しい姿へと導く。


 ……ようやく、再就職先で本当にやりたいと思えることが見つかったな。


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