第73話 偽りの兵団長

 俺は拘束魔法でグラムスキー兵団長の動きを封じた。

 この行動はその場にいた魔法使いたちに多大な衝撃を与えたようだ。


「ゼ、ゼルクさん!?」

「何をするんですか!?」

「相手はグラムスキー兵団長ですよ!?」


 事情を知らない周りからすれば、俺が突然裏切ったような行動に映るだろう。

 だが、こうでもしなければ……せっかくの大切な証拠が闇に葬られるから仕方がない。


 騒然とする魔法使いたちに、俺はある言葉を投げかけた。


「ここにいる人は――本当にグラムスキー兵団長なのか?」


 それを耳にした瞬間、辺りは一瞬にして静まり返った。


「何をバカなことを……私はグラムスキー本人だ! さっさとこの拘束魔法を解け!」

「この程度の拘束魔法なら、ご自分で解けるでしょう?」

「な、なんだと?」


 俺の放ったひと言を耳にして一気に青ざめる偽グラムスキー兵団長。

 目の前にいる人物が本物だというなら、そもそも俺にそんな命令をするよりも先にさっさと自分で解除魔法を使い、拘束を解いているはず。


 だが、ヤツはそれをしようとしない。

 当然だ。

 ――できないのだから。


「猿芝居はそこまでにしてもらいましょうか」


 そう言って、俺は偽グラムスキー兵団長へと近づくと今度は別の魔法を発動させる。

 これもまた解除魔法だが、解くのは拘束魔法ではなく……ヤツの偽装魔法を無効化するために使うのだ。


「や、やめ――」


 どうやら俺の狙いに気づいたようだが、もう遅い。

 解除魔法によって偽グラムスキー兵団長は真の顔をさらけ出した。


「っ!? ザルガン様!?」


 一番近くにいた魔法使いは、さっきまでグラムスキー兵団長だと思っていた人物の本当の名前を口にする。


 ロドニー・ザルガン。


 俺が魔法兵団への入団試験を突破した際に「いずれ正体を暴いてやる!」と息巻いていた幹部のひとりだ。

 まさか逆に俺が正体を暴く立場になるとはな。


「バカな……貴様ごときにワシの偽装魔法が見破られるなどあり得ん……」

「自信を持つことはよいですが、きちんとした実力を伴ってからにしていただきたい。あの程度では、騙される者の方が少ないでしょうな。ヤキが回ったというヤツです」

「なっ!?」


 まあ、タイミング的にもちょっと不自然だったしな。

 王都ではまだ大型のドラゴンが三体も暴れ回っているというのに、現場で指揮を執っていなくちゃいけない兵団長がなんで城の廊下にいるんだって話になる。


 ……あと、これはあえて黙っていたのだが、実は数日前、グラムスキー兵団長に呼び出されて「黒幕との決着が近づけば、偽装魔法を得意とする幹部が私に姿を変えて証拠を奪いに来る可能性もある」と告げられており、まさに今のような状況を危惧されていたのだ。



 そこで、いざという時は互いが本物であるかどうかを確認するために簡単なハンドサインを考えていたのだ。


 これは兵団長が信頼するアマンダさんやウィンタース分団長など一部の魔法兵団幹部の間にのみ告げられていた話だったので、ヤツは知らなかったのだろう。

 まんまと兵団長の罠にハマったというわけだ。


「それより……先ほどこの水晶にはあなたの姿も映されていましたね」

「ぐっ!?」


 俺が追及すると、ザルガンの顔色はさらに悪化した。


「わざわざグラムスキー兵団長に変装してまでこいつを手に入れようとしていたあなたなら、これからご自分がどういう立場になるのかお分かりですね?」

「き、貴様ぁ……」

「ご安心ください。そう遠くないうちにお仲間も全員仲良く監獄送りになるでしょう」


 そう告げてから、近くの魔法使いに目配せをする。

 気づいた者たちはすぐさまザルガンを城の地下牢へと連れていった。


「やめろ! 放せ! ワシを誰だと思っている!」


 城の廊下にはザルガンの虚しい叫び声だけがいつまでも響いていた。

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