第71話 対峙
ノーザム城の廊下で黒幕のジノン・バークハートと再会。
すでに彼の切り札である闇色をしたドラゴンは俺の弟子たちによって倒された。
彼女たちがいる以上、残った三体のドラゴンが倒されるのも時間の問題だろう。
だが、ジノン・バークハートの狙いはドラゴンによる王都破壊ではない。
それはあくまでも時間稼ぎ。
本命は――
「君の本命はこの城で行われる舞踏会の出席者だろう?」
「っ! そこまで読めていたなんて……ノーザムは今までとんでもない逸材を眠らせていたようだね」
「そう言ってもらえて光栄だよ」
「おまけにその有能な魔法使いさんが、よりもよって僕の計画実行直前に魔法兵団へと加わるなんて……ついていないな」
あきらめとも取れる弱気な発言。
――だが、彼の目は死んじゃいない。
まだ何かを狙っているようだ。
「もうやめるんだ。これ以上やったところで何も――」
「あなたに何が分かるんだ!」
強い口調と眼差しで言葉を塞がれた。
「魔法兵団に入って間もないあなたは知らないんだ……この国を支配している連中がどれだけ腐っているかを」
「ジノン……」
確かに、俺は人生の大半を政治とは無縁の田舎町で過ごしてきた。
手に入れられる情報といえば、ガッツリと検閲の入った新聞くらいなもので、リアルな実情とか、そういうのとはまったく絡みがなかった。その必要がなかったからな。
ただ、入団試験を受けた後からずっと違和感を持っていた。
上流階級と呼ばれる者たちが何を企んでいるのか……王家の人間さえ知らない暗躍がそこには確実に存在している。
彼は――いや、恐らくハインリックはそんな暗躍する者たちの手によって非業の死を遂げたのではないか。
彼の急変した態度から、俺はそう予測する。
そして、まるで答え合わせをするかのように、ジノンは語り始めた。
「知らないのなら教えてあげるよ。この国を蝕む害虫どもの姿を」
彼はそう言うと、懐から小さな水晶玉を取り出した。
「これはとある離島で暮らす魔道具技師によって作られた魔道具の一種でね。過去に起きた出来事を音声付きで記録しておくことができるんだ」
「そ、そんな物が……」
魔道具もそこまで進化しているとは。
驚く俺を尻目に、ジノンは水晶へ魔力を込める。
すると、何やら文字が浮かび上がってきた。
それはどうも数年前の日付のようだ。
水晶に映し出されているのは魔法兵団の幹部数人。俺が入団試験を受けて合格した際にクレームを言ってきた連中だから顔をよく覚えている。その隣にいるのは王立学園幹部らしい。
そして、彼らに囲まれるようにして立っている人物は――
「これが……ハインリック……」
何やら詰め寄られているようだ。
「ヤツらは先生に禁忌魔法の研究をするよう迫ったのさ」
「き、禁忌魔法!?」
それは世界中で使用が禁止されている魔法だ。
詳しくは資料がないので何とも言えないが、たとえば死者蘇生とか生体操作とか、使用者にも大きなリスクが伴う危険な魔法である。
「そんな危険な魔法を……」
「先生は脅される形で研究を続けていたけど、ついにそれを完成させてしまい、このままでは大規模な世界戦争が起きると懸念してすべての資料を燃やそうとしたんだ」
「なるほど。それが連中にバレて……」
「病で死んだと偽装させているが、実際はヤツら殺したのさ。それで今ものうのうと舞踏会なんて華やかな場で偉そうにふんぞり返っている……許してはおけないよ」
それが犯行の動機というわけか。
「その研究の成果というのが、人工的にドラゴンを生み出す力だったのか」
「そうさ。先生は自分が殺されるかもしれないからと、研究してきた資料をすべて僕に託されたんだ。きっと連中は肝を冷やしただろうね。自分たちが世界を支配しようと研究させていた魔法で逆に支配されるかもしれないと」
「だが、その決定的な証拠があれば連中を今の地位から引きずり下ろすことができる。そうすれば余計な犠牲を払わなくて済むんだ」
「ふん。この証拠がそちらに渡れば間違いなく抹消される。そんな分かりきった結果を前に大人しく渡すと思うかい?」
「そこをなんとか信用してもらうしかないな」
俺とジノンとは違った、第三の声が会話に入ってくる。
「グ、グラムスキー兵団長!?」
現れたのは魔法兵団のトップであるグラムスキー兵団長だった。
「話はすべて聞かせてもらった。……俺の知らないところでそのような動きがあったとはな」
「知らないところ? 白々しいな。あんたも一員なんだろう? 魔法兵団のトップなんだからな」
「神に誓って言おう。私はこの件に一切かかわっていない」
「誰がその話を信じると――」
「ハインリックは私の親友だったのだ!」
グラムスキー兵団長が放った心からの叫び。
それを耳にしたジノンは言葉を失った。
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