第70話 逃走先

 最大の敵だった闇色をしたドラゴンは、ノーザム王国魔法兵団の誇る四人のヒロインによって倒された。


 仲間たちから祝福され、明るい笑顔を見せるシャーリー、ユマ、メイジー、マリーナの四人……あの子たちがこれからも魔法兵団にいてくれたら、この国は安泰だろう。


 とはいえ、今回の事件がすべて片付いたわけじゃない。

 闇色をしたドラゴンをけしかけた黒幕ことジノン・バークハートは現在逃走中。

 その行方を追おうとしたが、あのドラゴンに阻まれたんだよな。


 それと、一番厄介なヤツを倒したとはいえ、ドラゴンはまだ三体残っている。


 シャーリーたちには残り三体の撃破を任せ、俺や一部の魔法使いたちはジノン・バークハートが向かうと思われる場所を目指す。


 そこは――


「ヤツはきっと……城へ向かったはずだ」

「城、ですか? どうしてまたもっとも警戒が厳重な場所を? やはり王族狙いなのでしょうか?」


 同行する魔法使いの青年が不思議そうに尋ねてきた。


「ジノン・バークハートは尊敬していた恩師ハインリックを学園幹部によって殺されたと思っている節がある」

「殺されたって……ハインリック先生は私も存じ上げていますが、確か病が原因で亡くなったと……」

「それがどうにも胡散臭いだよ」


 実は舞踏会の警備任務が始まるまでの間、俺はハインリックに関する資料を可能な限り集めてチェックしたのだが……詳細な死因が記載されていなかったのだ。


 随分と曖昧な処置がされているなと疑問に感じると同時に、ならばなぜ病で死んだという話が広まったのだろうという新たな謎にぶち当たった。


「な、なぜそのような事態に……」

「すべては彼に聞けば分かるはずだ――ジノン・バークハートにね」


 古代魔法を駆使し、さらには人工的にドラゴンを生み出すというとんでもない離れ業までやってのけたジノン・バークハート。


 そこまでしてこの王都へと乗り込んできた彼の目的は一体何なのか。

 真相を知るため、城までやってくるとひとりの魔法使いが叫んだ。


「ゼルクさん! あそこに人が!」


 指さす先は城壁。

 そこに、何もかが立っている。


「バカな!? どうやって結界を打ち破ったんだ!?」

「……内通者がいたのかもしれないな」

「っ!? では、ドラゴンを暴れさせているのは……」

「城内の警備を手薄にさせるための罠だったか」

「す、すぐに取り押さえにいきま――うわっ!?」


 講堂を開始しようとした俺たちを襲ったのは、小型の翼竜だった。

 小さいとはいえドラゴンの仲間が、しかも五体同時に襲ってくるとなると厄介だぞ。


「くそっ!」

「ゼルクさんは先に城内へ行ってください!」

「ここは我らがなんとかします!」

「し、しかし!」

「いいから! 行ってください!」

「ヤツを止められるのはあなただけです!」

「っ! わ、分かった!」


 仲間の言葉を受け、俺は城内へと駆けていく。


 ヤツがいたのは……三階。


 念のため、城内の構造を頭に入れておいてよかった。

 最短距離で目的地へと向かうと、そこにはすでにジノン・バークハートが悠然と赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていた。


「またあなたですか……本当に、僕の計画をめちゃくちゃにしてくれますね」

「君の過去に何があったかは知らないが、こういう事態を食い止めるのが今の俺の仕事なんでね」


 ついに黒幕との対峙を迎えたわけだが、果たして彼は何を語るのか。

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