第69話 集結
かつてコリン村で俺が魔法を教えていた四人。
あの時はまだ本当に小さな子どもで、指先からちょっとだけ火が出たり水が出たりするだけで大騒ぎだった。
それが今では魔法兵団に欠かせない存在にまでなっているのだから驚かされる。
そして――彼女たちに魔法を教えた俺でさえ怯んでしまうような強敵を前に、四人は協力して挑もうとしている。
四人が揃い踏みとなったことで、周囲の魔法兵団の目の色も変わった。
正直、まだ入団して間もない俺は組織内における彼女たちの評価について、あまり詳しいことは分からない。
だが、周りが活気づいているのを見ると、やはりかなりの実力があって信頼されているというのはうかがえる。
「みんな、こういう時のために練習してきた《とっておき》で仕留めましょう」
シャーリーがそう呼びかけると、即座に「うん!」と返事をするメイジー、マリーナ、ユマの三人。
きっと、魔法兵団に入ってからはそれぞれ配属場所が違い、ろくに顔を合わせることすらできなかっただろう。
それでも、一生懸命に魔法を覚えようとしたあの頃の感覚は残っているようで、四人の魔力は一部の乱れもなく見事な交わりを見せていた。
「す、凄い……」
「四人の魔力が同時に……」
「こんな現象は初めて見るぞ……」
歴戦の猛者たちでさえ経験のない事態。
これがシャーリーの言う《とっておき》というヤツか。
正直、どんな攻撃が繰りだされるのかまったく想像ができない。
あれはきっと、魔法兵団に入ってから身につけたものなのだろう。
やがて、彼女たちの属性を表す四つの色が魔力に浮かび上がる。
それはグラデーションのように美しい層となり、ひとつの強大な魔力となった。
こんな魔法はこれまでに見たことがない。
――いや、これは彼女たちが世界で初めて生み出した魔法に違いない。
異なる属性の力が見事なまでに融合し、強大な魔力を生み出す……過去に思いついた者はいたかもしれないが、実現にまでこぎつけられなかっただろう。
それほどまでに完成されている。
「「「「はあああああああああっ!」」」」
シャーリー、ユマ、メイジー、マリーナ――四人の魔力が込められた渾身の一撃が闇色をしたドラゴンへと放たれる。
それを受けて、ドラゴンは回避せずにあの緑色の炎で相殺するつもりのようだ。
仮に避けたとしても、魔力操作で追尾が可能となっているのだろうが……もしかしたらヤツはそれを読み、あえて正面から打ち消す方を選んだのか?
いずれにせよ、この一撃で決着はつく。
加勢するべきとも考えたが、下手に手を加えたところで彼女たちの放った合体魔法の邪魔にしかならないので手を引っ込める。
他の魔法使いもそれを理解したから、静観に徹しているのだ。
空中でぶつかり合う緑色の炎と四人の合体魔法。
通常の炎とは段違いの威力を誇るだけに、そう簡単にねじ伏せることはできない――と、考えていたのだが、彼女たちの力はそんな俺の予想を軽々と上回った。
彼女たちの魔法は闇色をしたドラゴンの炎を圧倒した。
あっという間に炎は打ち消され、四色の魔力に全身を包み込まれる。
「ガッ、ガアアアッ!」
抵抗しようと暴れるが、徐々に魔力によって闇色をしたドラゴンの体は押し潰されていく。
魔力によってその体は圧縮されていき、ついに十メートルを超える巨体は手乗りサイズまで縮小し――「バァン!」という破裂音とともに完全消滅した。
「「「「イエーイ!」」」」
勝利を確信した四人は歓喜のハイタッチ。
一方、なかなかえぐい効果のある魔法だったこともあって別の魔法使いたちは若干引き気味であったが、何はともあれ強敵を倒したという事実に少しずつ喜びの感情が湧き立ち、互いに喜び合った。
俺も彼らともうしばらくは勝利の余韻に浸っていたかった――が、残念ながらまだ諸手をあげて喜べる段階じゃない。
――そう。
黒幕であるジノン・バークハートは現在逃走中。
……だが、逃走先には大体の見当がついている。
正確に言えば、ヤツは逃げたわけじゃない。
恐らく――決着をつけに行ったのだろう。
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