第67話 強敵出現
黒幕ジノン・バークハートにとっての切り札が俺たちの前に現れた。
ノーザム王国の中でも指折りの魔法使いたちで構成されたバークス分団を相手にしながらも圧倒的な力でねじ伏せた闇色のドラゴン。
まさかここでこいつの相手をすることになるとは……
「まあ、せいぜい頑張ってくれ」
ジノンはそう告げると屋上から飛び降りる。
まさかここへ来て自殺を――と思いきや、校舎搭の下に小型ドラゴンが待機していて、それに飛び移って逃亡を図ったのだ。
すべての後始末をこの闇色のドラゴンにすべて任せるつもりらしい。
「ガアアアアアアアアアアッ!!」
ヤツの逃げた方向を目で追っていると、凄まじい咆哮が轟いた。
次の瞬間、闇色をしたドラゴンの鋭い爪が振り下ろされ、校舎搭の屋上は一瞬にして崩壊してしまう。
「くそっ!」
俺は咄嗟にメイジーとマリーナを抱きかかえ、無重力魔法を発動させる。
ガラガラと激しい音を立てて崩れていく校舎搭の瓦礫を眺めながら、ゆっくりと地上へと着地。なんとか怪我なく生還できた。
――って、そんなまったりしていられる状況じゃない。
すでに背後からあの闇色のドラゴンが物凄い勢いで迫ってきているのだ。
「こいつ!」
「あの時のようにはいきませんよ!」
マリーナとメイジーはそれぞれが得意とする水魔法と雷魔法で応戦するが、闇色をしたドラゴンは意に介さず突っ込んでくる。
「ふたりとも避けろ!」
俺がそう叫んだ直後、マリーナとメイジーは闇色をしたドラゴンがすぐ近くまで迫っていると察して緊急回避。攻撃に夢中となるあまり敵との距離感を見誤っていたようだ。
「す、すいません、先生」
「あんなに速いなんて……」
「今までのドラゴンとは何もかもレベルが段違いだ。気をつけてくれ」
気をつけろ、か。
自分で言っておいてなんだが、そんな味気ないアドバイスでどうにかできる相手じゃない。
それはふたりも重々承知しているようで、表情がさっきまでとは変わってきた。
恐怖。
そんな感情がチラついている。
もしかしたら勝てないかもしれない。
マイナスの感情が出てくると動きや判断も鈍ってくるからな。
特にメイジーは一度ヤツと戦っている。
さっきは気力でなんとか過去の嫌なイメージを払しょくできていたようだが、攻撃を食らいそうになって仲間たちが敗れていったシーンが思い返されてしまったみたいだ。
……このままではまずいな。
打開策を考えていると、背後から声がした。
「いたぞ!」
「なんだ、あのドラゴンは!?」
「黒幕が用意していた四体目か!?」
使い魔からの連絡を受けた援軍が到着。
これで少しは状況が好転する――かに思えたが、ヤツが大きな口を開けた瞬間、メイジーが叫んだ。
「逃げてください! あの炎はただの炎じゃありません!」
その言葉にハッとなって、俺や増援できた魔法使いたちはすぐさま回避行動に移る。少なくとも防御魔法のシールドを展開している俺はそれほどダメージを受けないはずだが、それを知っているはずのメイジーがあれほど慌てた様子だったのが気がかりで思わず避けたのだ。
――だが、その判断は正しかったとすぐに証明される。
闇色のドラゴンが放った炎はこれまでに見たことがない緑色をしており、それを浴びた物は燃えるというよりも消し炭になってしまうという表現の方が正しかった。
そう。
燃えずに浴びただけで灰となってしまう炎なのだ。
「あれだけの威力……防御魔法のシールドだけでは防ぎきれないか」
恐らく、バークス分団が壊滅寸前まで追い込まれた原因があの炎にあるのだろう。
ドラゴンが吐く炎であれば防げるが、あの特殊な緑色の炎は普通の炎とまるで違う。
実際にヤツと戦った経験のあるメイジーだからこそ判断できたのだ。
「助かったよ、メイジー」
「い、いえ……それより、これからどうしますか?」
「どうするって――倒すしかないだろう?」
「た、倒すって、あのドラゴンを!? か、勝てるかなぁ……」
いつも強気だったマリーナとは思えない弱気な発言だな。
「ここで引き下がってしまったら、誰が王都を守るんだ? 魔法兵団の存在意義が失われてしまうぞ」
「「っ!?」」
俺の言葉を受けたふたりは、ピクッと体を強張らせた。
彼女たちだけでなく、応援に駆けつけてくれた仲間たちにもしっかり届いたようだ。
「あんたの言う通りだぜ、ゼルクさん!」
「さすがは大魔導士!」
「英雄になれる器と評されるだけのことはある!」
誰がそんな評価をしているのか分からないが、とりあえず士気は上がっているようで何よりだ。
「さあ、ここから反撃開始といこう」
「「はい!」」
復活したふたりとともに、俺たちは最強のドラゴンと対峙する。
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