第66話 対面
アドナス山脈近郊で起きた一連の事件。
マダム・カトリーヌやチェスター家を裏から操ってさまざまな悪事を働いてきた黒幕をついに追い詰めた。
「君が……今回の事件の黒幕か」
周囲を警戒しつつ、相手との距離を詰めていく。
何か手を打ってくるのかと思っていたが、まったくそんな素振りを見せない。
一体何を企んでいるのか。
相手の一挙手一投足に細心の注意を払いつつ進むと、ついに沈黙を守っていた男から声が発せられる。
「あんたか……いろいろと僕の邪魔をしてくれたのは」
「邪魔?」
「アドナス山脈での一件から始まり、ことごとく計画を狂わせてくれた。事前に想定していた魔法兵団の戦力であればここまで苦戦することもなかったのに。一体何者なんだ?」
そう告げた後、男はこちらへと振り返る。
短く切り揃えられた黒髪に刃物のように鋭利な目。
年齢はマリーナたちと同じくらい。
となると、やはり彼は――
「ジノン・バークハート……なのか?」
その名を口にすると、彼は一瞬驚いたように目を丸くした。
「僕の名前まで調べ上げているなんてね」
あっさりと認めたな。
というか、ここまでの読みは合っていたのか。
「そこまで優秀な魔法使いがいるなんて情報はどこにもなかったのに……本当に何者なんだい?」
「ただの元農家さ」
「元農家? 冗談にしては面白くないね」
やっぱり信じてはもらえないか。
しかし、ここで静観していたメイジーとマリーナが参戦する。
「先生の言っていることは本当です」
「そうだよ! 先生はついこの前までコリン村で暮らしていた農家さんなんだから!」
ふたりの熱弁ぶりに、ジノン。
ここで初めて彼はようやく俺が元農家であると認めたようだ。
「だとしたらますます不可解だね。それほどの実力を持った者を今まで放置し続けていたなんて。本来なら大金を払ってでも囲っておきたい逸材じゃないのか?」
「一部の人間が頑なに認めようとしませんでしたからね……」
「本当に信じらんない……」
頑なに認めなかったのって魔法兵団の幹部だよな。
たかが農家ごときに高度な魔法を使えるものかって偏見があったって話だ。
まあ、俺としても専門家から学んだわけじゃないし、ほとんど独学だったから強くは否定できなかったんだよなぁ……まあ、今となってはいろんな人の協力もあって少し自信が出てきたところではあるけど。
「君が腕の立つ魔法使いというのは分かったけど、それならノーザムではなくてもっと別の国で活躍できる場所を探すべきだね」
「……ハインリック先生の件が関係しているのか?」
「っ!?」
その人物の名前が、彼の導火線に火をつけたようだ。
「……軽々しく先生の名を口にしないでもらえるかい?」
「過去に何があったかは知らないが、王都で暮らす人たちが危機に晒されているとなったら放っておくわけにはいかない」
「正義の味方面をしたところであんたも所詮は連中の仲間だ。邪魔をしようというなら――容赦はしない」
彼がそう言い放った後、上空からとてつもない気配が迫っているのを感じた。
「まさか……」
夜空に浮かぶ黒い巨大な影。
やはり、まだドラゴンは残っていた。
それも、あいつは――
「せ、先生! あれは私たちを追い詰めたドラゴンです!」
叫んだのはメイジーだった。
夜空に同化する闇色の鱗。
以前、バークス分団を壊滅寸前にまで追いやったというドラゴンか。
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