第63話 息つく間もなく

 最大級の氷魔法を使用し、一度に四体のドラゴンを倒すことに成功した。

 半信半疑だった者も多かったようだが、事前に宣言した通りにすべてのドラゴンを一回の魔法で行動不能にさせたという事実は魔法兵団だけでなく騎士団にも広く伝わった。


 というわけで、広場近くまでやってきた騎士や魔法使いたちにもみくちゃとされる俺。


 まだ歓喜の瞬間を迎えるには早いのだが、大量の魔力を消費して疲弊していた俺にはツッコミを入れる気力すらなかった。


「おまえら! まだ気を緩めるんじゃねぇぞ! ほれ、さっさと持ち場に戻れ!」


 そう言って周りの騎士や魔法使いをはねのけてくれたのはウィンタース分団長だった。


「またしてもデカい仕事をやってのけてくれたな、ゼルク」

「今回は割と賭けでしたけどね」

「まあ、俺はおまえが提案するなら絶対成功するとは思っていたけどな」


 そこまで告げると、今度は一気に表情を引き締めるウィンタース分団長。

 彼も先ほど自身が口にしたように、まだ終わりではないと感じているみたいだ。


「黒幕は王都内に侵入していると睨んでいるんだが、それらしいヤツはいねぇようだ。避難を誘導している者たちからも同じような報告があがっている」

「俺も極力早い段階で特定をしようと探知魔法を使いながら調べてはいたのですが……結果は同じでしたね」

「なら、黒幕はこの場に来ていないと?」

「それは考えられませんね……」

「だよなぁ」


 ポリポリと困ったように頭をかくウィンタース分団長。

 ここまで手の込んだ策を用意してきたヤツだ。

 遠巻きから眺めるだけで満足できるとは思えない。


 それに、今回の件にはどことなく私怨を感じる。


 背景にあるのがハインリックの研究に関することだとするなら、彼を慕っていたジノン・バークハートが黒幕である可能性が高い。


 彼がどういう人間だったか、学園時代のジノンを知るシャーリーたちに性格などを聞いてみたのだが、全員が一様に「よく分からない」と答えた。


 どうやらかなり内向的な性格だったようで、クラスではいつもひとりでいる時が多かったという。周りから声をかけられても壁を作っている感じで、誰かと親しくようとはしていなかったらしい。


 両親とも死別しており、天外の孤独の身――だとすると、ジノン・バークハートにとってハインリックはたったひとりの理解者ってことになるな。


 そんな恩師が学園関係者のせいで亡くなったかもしれないとなったら、復讐に出てもおかしくはない。


 ハッキリとした事情は不明のままだが、とにかく誰が犯人であってもこのまま好き放題やらせるわけにはいかない。


 一難去って少し気の抜けた空気が漂い始めていたが、ウィンタース分団長の一喝で気を引き締めた騎士と魔法使い。


 そんな彼らのもとに、すぐさま次なる刺客が現れた。


「大変だ! さらに追加のドラゴンが三体現れたぞ!」


 見張り役をしていた騎士からすぐさま連絡が入る。


「やはり来たか」

「でも、今回は三体だけなんですね……」

「その分、実力は一体でさっきの連中の三倍以上に匹敵するかもしれん」


 俺もウィンタース分団長とまったく同じことを思っていた。

 つまりこっちが本命というわけか。


 ヤツらも迎え撃たなくてはいけないのだが……なんとしても黒幕の足取りを早いうちに掴まなければならない。

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