第62話 ゼルクの本気

 王都の混乱はドラゴン襲撃当初より収まってきたとはいえ、まだまだ予断を許さない状況が続いていた。


 騎士団と魔法兵団は戦力二分させており、一部は王都に暮らす人々を避難させる役を担っている。戦闘面に数を割いているとはいえ、やはりこの事態での戦力分散は痛手と言わざるを得なかった。


 しかし、そこは歴戦の猛者が集まる騎士団と魔法兵団。

 足りない戦力を知恵と勇気で補い、劣勢だった戦況は徐々に傾きを見せ始めていた。


 そしてついに六体目のドラゴンが倒され、残りは四体となる。


「これで半分以上は倒したが……先は長そうだ」


 休憩をしている暇もない。

 まだ四体のドラゴンは王都内で暴れ回っているし、何より増援の可能性もある。魔力の消耗は避けたいところではあるが、出し惜しみをして被害を拡大させるわけにもいかなかった。


 それより問題なのは、未だに黒幕の行方をキャッチできていないという点。

 戦いながら探すというのはさすがに無茶だろうが、せめてその影でもいいから掴みたいところだ。


 この場にいるのかいないのか。


 せめてそれだけでも分かれば策を練ることができるのに。


「……あまり時間をかけてはいられないな」


 そう判断した俺はシャーリーとユマに伝言を依頼する。


「ふたりとも、悪いが今戦っている魔法使いや騎士たちに伝えてもらいたい言葉がある」

「「えっ?」」


 突然の提案に戸惑うふたりだったが、伝えてほしいという言葉を耳にした瞬間さらに動揺が激しくなった。


「そ、そんなのいくら先生でも無茶ですよ!」

「早まるのはよくありませんわ!」

「大丈夫だ。それより急いでくれ。もう時間がない」

「「っ!」」


 こちらが本気だと分かると、ふたりは静かに頷いてそれぞれの役割を果たすために散っていった。


 さて、これで下準備はできた。

 あとは騎士や魔法使いたちがうまくやってくれるのを願おう。


 ――それから数分後。

 

 俺のいる王都中央広場が騒がしくなってきた。

 それもそのはず。

 シャーリーとユマのふたりが俺からの願いをきちんと聞き入れてくれたおかげで、王都内に残っている残り四体すべてのドラゴンがこの広場へと誘導されてきているからだ。


 騎士や魔法使いたちがすんなり従ってくれるかどうかは賭けだったが、アドナス山脈での実績を知る者が多くいてくれたようだ。


「感謝するよ……」


 小さく呟いてから、俺は魔力を高め始める。

 集結しつつある四体のドラゴン。

 その周辺にいる騎士や魔法使いたちが次々と撤退していく様子を探知魔法で確認し、いよいよここからが本番だ。


「久しぶりに全力を出させてもらうか」


 これほど大規模な魔法を使うのはかなり久しぶりだな……嵐が直撃して土砂崩れが発生した時に村全体を防御魔法で守った時以来か。

あの時もそうだったが……今回も失敗は許されない。


 恐らく、この後に本命が控えているのだろうが、そいつと戦うための余力を残している暇はない。

 今は少しでも早くヤツらを倒し、黒幕を追うことと王都に暮らす人たちの安全を確保するのが先決だ。


 やがて標的とする四体のドラゴンが攻撃範囲へと侵入。

 それを確認し終えてから、俺はため込んでいた魔力を一気に解放した。


「氷の風よ! すべてを凍らせろ! 絶対零度アブソリュート・ゼロ!」


 俺が放てる最大威力の氷魔法。

 周囲のすべてを凍らせる強力な魔法なので、効果対象範囲内に人がいないことを確認してから使用する。


 おかげで、ドラゴンたちは一斉に凍りついて動かなくなった。

 とりあえず、これで王都に現れた十体のドラゴンすべてを撃退できたわけだが……まだこれで終わりじゃないんだろうなぁ。

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