第60話 雷のドラゴン
王都を襲撃した十体のドラゴン。
そのうちの一体は難なく討伐することができたのだが、新たに現れた雷撃を使うドラゴンはそう簡単に倒せそうになかった。
強力な雷撃は王都の中心を流れる運河にかかった橋を一撃で落としてしまい、その凄まじい破壊力を前にして騎士も魔法使いも思わずたじろぐ。
俺としてもできれば戦いたくはない相手だが、だからといってこのまま引っ込むわけにもいかない。
すると、そこへ聞き慣れた声が。
「ゼルク先生! ユマ!」
「っ! シャーリーか!」
同じく警備任務にあたっているシャーリーが駆けつけた。
「大丈夫でしたか、ふたりとも」
「俺たちは大丈夫だ。それより君の方は?」
「なんとか今のところは……しかし、あいつを止めない限り、安心はできません」
「その通りだな」
シャーリーはあの雷撃を使うドラゴンを追ってここまできたらしい。
ドラゴンを倒すことに意識を集中させているが、俺としてはバックにいる存在に関しても気になり出していた。
明らかにアドナス山脈近郊で起きた事件と深くかかわっているのだろうが、結果としてあれも真相にはたどりついていないままなんだよな。マダム・カトリーヌだったり、チェスター家だったり、捕らえてきた連中はみんなただの駒だった。
――だが、今回は違う。
攻撃の規模からして、すべての元凶と言える存在が絡んでいる可能性が高かった。
そしてもうひとつ……恐らくその元凶は近くにいる。
事前に王都へ潜り込んでいたのか、はたまたドラゴンと一緒に侵入してきたのかは分からないが、これほど大規模な作戦を実行しようというくらいだからより成功率をあげるため、何より自身の欲を満たすため、近くで眺めようと考えるはずだ。
できればそいつを捕らえたいところではあるが、今はそれよりもドラゴンをなんとかすることに専念しなくてはいけない。
こちらの方はハッキリと目に見えている分、まだ対処のしようがあるからな。
とはいえ、この雷撃を放つドラゴンはそう簡単に片づけられそうにない。
何せ攻撃の軌道が不規則で捉えにくく、完璧にはかわしきれないのだ。
どう足掻いても、防御魔法によって生み出したシールドの助けが必要になる。
俺の魔力でこの防御魔法をキープできるのは五人が限界。
とりあえず攻撃の要となるシャーリーとユマにはかけてあるが、このふたりもかなり苦戦しているようだ。
このままではこちらが押され始めてしまう。
そう思った直後、シャーリーが勝負に出た。
「あまりチマチマと行動していては状況を打開できません。ここは一気に仕掛けます」
【炎麗】の異名を持つシャーリーはもっとも得意とする炎魔法でドラゴンへと挑む。
全身から溢れ出る魔力を炎に変えると、それを一点に集め始めた。
それに気づいたドラゴンはシャーリーの攻撃を防ぐために雷撃で応戦しようとするが、そこですかさず俺とユマが援護に回る。
「こっちだ!」
「ほらほら、わたくしたちを捕まえてごらんなさい!」
言葉が通じているかどうかは置いておくとして、とにかく挑発してドラゴンの気を引く。その成果もあってか、ヤツの注意がこちらへと向いた。
「今だ! シャーリー!」
「はい!」
生じた隙を逃さぬよう、シャーリーは全力を込めた炎魔法をドラゴンへと叩き込んだ。
「ガアアアアアアアアアアッ!?」
あまりの熱さに悶え苦しむドラゴン。
体を内側からじっくり焼かれているようなものだからな……なかなかにえぐい攻撃方法だ。
しかしその効果は抜群で、しばらく苦しんでからドラゴンは完全に動きを止めた。
これで二体目。
残るドラゴンは――八体だ。
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