第58話 舞踏会の夜

 ハインリックには弟子とも呼べる生徒が存在していたという新たな事実が判明した。


 ジノンという名の元学園生徒だが、今のところ彼がアドナス山脈近郊で起きた一連の事件に関与していたと証明する物は何ひとつない。


 だが、俺はどうにも彼の存在が気になっていた。

 何らかの形で事件にかかわっている可能性があるため、舞踏会が終わり次第、彼のことを詳しく調べてみようと思う。


 さて、その舞踏会だが、怪しい者がうろついているという話が出ているにもかかわらず強行開催となった。

 ノーザム王国としてはどこの誰とも分からんヤツの脅しに屈しないという強い意志を示した形になったわけだが、護衛役を務める魔法兵団や騎士団の双肩にかかるプレッシャーはハンパではない。


「本当に敵はここを狙ってくるのでしょうか……」


 一緒に城の南側を警備することになったユマが訝しげに呟いた。


「先生のおっしゃる通り、これほど警戒が厳重な中で何かを仕掛けてくるというのは考えにくいですわ。やはりただのイタズラ?」

「或いは、自分の力を誇示したいという目的があるのかもしれない」

「誇示?」

「かつて王立学園の関係者に否定された古代魔法の偉大さ……それを知らしめるために、この大舞台を選んだのかもしれない」

「で、では、犯人は教え子のジノン・バークハートだと?」

「何も確証はないけどね」

 

 あくまでも俺の憶測にすぎない。

 つながりのある情報もないから、正直言って外れる可能性の方が圧倒的に高いんだけど……妙な胸騒ぎがするんだよな。

 

「誰が来るにしても、俺たちは俺たちの仕事をきちんとこなせばいいだけさ」

「そ、そうですね」

「緊張しているのか?」

「す、少しだけ」


 自信家のユマが珍しいな。

 まあ、あの頃と比較したらいろいろと成長して考え方にも変化が出てきているだろうし、むしろそうやって慎重に物事を運べるようになってくれた方がいい。


 昔の彼女はとにかくなんにでもすぐに突っ込んでいくタイプだったからなぁ。

 お嬢様と言いつつ、性格は活発なシャーリー寄りだった。

 あのふたりが組むと村の人もハラハラしていたっけ。


「先生? なんだか嬉しそうですけど……」

「いや、昔の君を思い出してね」

「っ! あ、あの頃はまだ幼かったですから!」


 どうやら身に覚えはあるらしい。

 任務中とはいえ昔話で盛り上がっていた俺たちだが、そんな楽しい時間は一瞬で消え去る。


「っ!? 来たか……」


 異様な気配を感じ、俺は視線を空へ向ける。

 すると、夜の闇に同化する小さな影が。


 それは徐々に近づいてきて、やがて輪郭がハッキリと確認できるようになった。

 

「おいおい……これはシャレにならないぞ……」


 影の正体を確認した俺は顔が引きつる。

 現れたのは――少なくとも十以上はいるドラゴンの群れだった。

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