第56話 相談
朝の鍛錬が終わってメイジーと別れた後、俺はウィンタース分団長の執務室へと向かう。
本日は近々開催される舞踏会の警備について、メンバー全員に当日の動きをウィンタース分団長から説明を受ける――はずだったが、それよりも先にまさかの新メンバー加入が伝えられる。
「舞踏会が終わるまでの期間限定ではあるが、うちで預かることになったユマだ」
「よろしくお願い致しますわ」
おまけにそのメンバーがユマだというから驚きだ。
【水聖】と呼ばれたマリーナに加えて【風慧】の異名を持つユマまで加わるとは。
こうなってくると、やはりただの警備係ってだけでは済みそうにないな。
「まあ、みんなも薄々気づいているとは思うが……今回の舞踏会に関してはただ城の周りをウロウロしていればいいお気楽なものじゃない」
「でしょうね」
「話が来た段階でそうだろうって思っていたっすよ」
レイラニもダンハムも、俺と同じように最初から疑っていたようだな。
「えっ? そうなの?」
一方、マリーナは予想外だったらしく驚いていた。
……勘は鋭いんだが、それが働かない時はちょっと抜けているところがあるよなぁ。
まあ、それは一旦置いておくとして。
わざわざ他の分団に所属しているユマを招集してまで当たる警備任務。
その全容について、ウィンタース分団長が説明を始めた。
「今回の舞踏会は国王陛下の生誕祭って意味合いもある。これは城だけでなく王都全体が盛り上がる一大イベントだ」
つまり国王の誕生日というわけか。
それで最近やたらとあちこちで賑わいがあったのか。
「毎年各国の要人を招いて盛大に祝うのだが……今年はどうもよからぬ企みを持ったヤツが何かを仕掛けようとしているらしい」
「まさか、国王の暗殺ですか?」
エリック副分団長がそう口にした瞬間、メンバー内に緊張が走る。
一国の王を生誕祭の日に暗殺しようなんて、そんな大それたことを計画したヤツがいるなんてにわかには信じられないな。何せ、普段の数倍は警戒が厳重になっているのだし、狙うにしてもこの日だけは絶対に避けようって思うはずだが。
だが、わざわざこの日を指定してきたということは――
「ひょっとして、犯人の狙いは国王だけじゃない?」
「さすがに鋭いな、ゼルク」
やっぱりそうか。
でなきゃ、わざわざこの日に絞り込む必要もないわけだし。
「でもさあ、それなら舞踏会を中止にしちゃえばいいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかん」
マリーナの指摘はもっともなのだが……それができない政治的な事情っていうのがあるんだろうな。
舞踏会を予定通りに開催できない事態となったら非難されるだろうし、事情を説明したところで「防衛力に自信がないのか」と絡まれそうだ。
まあ、そんな国ばかりじゃないとは思うけど、今回の件もお祝いと言いつつ中身は社交辞令的なものだし、相手国を蹴落とそうとたくらんでいる連中が仕組んだという可能性もある。
――ただ、タイミング的に王国内部が神経質になるのも頷ける。
彼らの頭にチラついているのは、アドナス山脈近郊で起きた事件を発端すると一連の人工ドラゴン事件だろう。
おまけに関与していたのが自国の有力貴族……ここを突かれるかもしれないからな。
「当日はふたり一組で配置についてもらう。場所はこの地図に書き込んであるから、各自チェックしておいてくれ」
そう言って、ウィンタース分団長はテーブルの上に一枚の紙を置く。
これによると、俺と組むのはユマのようだ。
「よろしくお願いしますわ、ゼルク先生」
「こちらこそ」
シャーリーやメイジー、そしてマリーナと同じく今や魔法兵団にとって欠かせない戦力として数えられているユマ。
果たしてその実力はどれほどのものか。
ちょっと気になるところではあるよな。
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