第55話 昔話

 アドナス山脈近郊で起きた数々の事件。

 その背後に見え隠れする古代魔法の存在。


 一連の事件の真相にたどり着く鍵はそこにあるのではないかと睨んでいた俺のもとに、コリン村時代の弟子であるメイジーから興味深い話を聞いた。


 彼女が王立学園に通っていた際、古代魔法を研究している先生がいたのだという。


「ハインリック先生という方なんですけど、長年にわたって熱心に古代魔法を研究されていたんですが……」


 そこでメイジーの表情が曇る。

 それだけで、なんとなく今の彼が置かれている立場が察せられた。


「その先生は……学園内であまりよくは思われていなかったのか?」

「生徒たちからの人気はあったんです。優しい方でしたし、教え方も上手でしたから」

「学園でも古代魔法を?」

「いえ、先生が担当されていたのは魔法史です」


 なるほど。

 魔法の歴史を調べているうちに古代魔法の魅力にとりつかれたって感じか。


 ……なんだか、親近感が湧くな。


 俺も魔法を覚えようと思った最初のきっかけは「村の人たちの助けになれば」というものだった。それからすっかり魔法にのめり込んでいったんだよな。まさかそれが講じて魔法兵団に入るなんて、あの頃から想像もできなかったけど。


「先生は古代魔法の研究に没頭していたのですが、学園側はあまり評価をしていなかったようです。古代魔法に研究の価値はないって……」


 まあ、学園側の主張は分からなくもない。

 過去に散々研究され、その結果が進化した現代魔法だ。


 今さら掘り起こされた古代魔法を研究しても成果が出るとは思えないと判断してもおかしくはないが……問題はなぜハインリック先生とやらはそこまで古代魔法にこだわったのかという点だ。


 学園側の要求を拒み続ければどうなるか。

 火を見るより明らかな結果を前にしてなお研究を続けたというなら、彼はそこに何かを見出したのだろうか。


 だが、仮にその研究成果が凄い物であると主張すれば、学園側の態度も変わったかもしれない。それがないということは、やはり研究に価値なしという判断が下されたというわけだ。


「ハインリック先生は今も学園に?」

「いえ、私が卒業した翌年に学園を退職されたそうで……それからすぐに病で亡くなったそうです」

「えっ!?」


 亡くなっている?

 なら、一連の事件との関連性はゼロってことか。

 ハインリックという人物が関与しているかもしれないと読んだのだが……どうもハズレみたいだったな。


 ――しかし、俺の脳裏にはどうしてもこの先生の存在がチラついていた。


 本当に彼はこの事件に無関係なのか。

 そもそも亡くなったというのは事実なのか。


 ウィンタース分団長にも相談して、少し調べてみようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る