第53話 暗躍する者
何の前触れもなく襲ってきた謎の矢。
明らかに敵意ある者が仕掛けたその攻撃――やはり、今回の件はあの悪徳貴族を捕えるだけでは解決しないらしい。
バックにはまた別の……それも、さらに大きな権力が渦巻いているという俺たちの予想は的中したようだ。
「マリーナ、使い魔でウィンタース分団長に事態を知らせてくれ」
「了解!」
「どうしますの?」
「仕掛けたヤツを追いかける。まだそう遠くには行っていないはずだ」
転移魔法などを使ってこの場を離れた気配はない。
すぐさま探知魔法で周囲を調べてみたが、反応はわずか。
つまり、犯人は単独か、或いは二、三人による少数規模と思われる。
敵の実力は未知数だが、深追いせずに可能な限り正体に関する情報を掴めれば、真の黒幕を炙り出せるかもしれない。
マリーナが使い魔を送ったのを確認してから、俺たちは矢の飛んできた森の方向へと馬を走らせる。
「今のところは大きな魔力反応はないが、十分気をつけてくれ」
「「はい!」」
ふたりに怯んだ様子はない。
むしろ自分たちに攻撃を仕掛けてきたヤツを絶対に捕えてやるという強い使命感を感じさせる眼差しで前を見つめていた。
本当に頼もしく成長してくれたな。
なんかもう親に近い感情でうんうんと頷いていたら、前方に魔力反応が。
一瞬だけ強烈に反応が強まっていることから、何か魔法を使用したらしい。それが攻撃魔法なのかまでは判断がつかなかったが、特に目立っておかしな気配はない。
「なんの魔法を使ったんだ……?」
俺はふたりに敵が魔法を使用した件を伝え、慎重に進むよう指示を出す。
年齢差はさておいて、本来この中では俺が一番後輩なのだからそれもおかしな話ではあるのだが、妙にしっくり来ているので特に気にせず追跡を続行。
――で、たどり着いた先にはあったのは森の中に忽然と現れた開けた空間だった。
「変だな……ここだけ草木がまったく生えていないなんて……」
周りは鬱蒼とした木々に囲まれているというのに、到着したその場所には何もない。まるで誰かが人工的に生みだしたような空間であった。
すると、ここでマリーナが何かを発見する。
「先生! 足元に魔法陣が!」
その叫びに反応して視線を下ろすと、確かにそこには魔法陣が描かれている。
だが、すでに使用されたあとらしく反応はない。
「この魔法陣……転移魔法のようだな」
「でしたら、ここに魔力を注ぐことで敵のいる場所まで飛べるのでは?」
「そいつは無理だろうな」
魔法陣を確認した俺はため息を漏らした。
これは……ただの転移魔法陣じゃない。
「こいつを使用できるのは魔法陣を描いた人物のみだ。使用者を限定する特殊な仕掛けが施されている」
かつて俺も習得しようとしたが、かなり難しくて断念した記憶がある。できないというよりも、時間をかけて習得するよりもっと覚えやすい魔法にしようって変更したのだが、それでも本気でマスターしようとしたらどれほどの年月がかかっていたことか。
俺たちを矢で攻撃してきたヤツが用意したものかは不明だが、大きなかかわりを持っているのは間違いなかった。
「しばらくは忙しい日々が続きそうだな」
次から次へと現れる謎の敵。
連中の狙いは一体何なんだ?
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