第51話 新たな刺客?

 調査に関してはメンバーを分散して行われることになった。

 周辺に脅威はなくなったし、前に比べて多くの魔法使い、さらには騎士団からも増援が来てくれたおかげで安心して調べられる。


「こういう風に協力できれば、もっと活動の幅も広げられるのに……」


 現場の人間同士の関係は良好なのだが、上はそうでもないらしい。

 どちらが国防の中枢を担う組織として相応しいか――そういうどうでもいいことにばかりこだわっているのだという。偉くなると本当に肩書き優先で本当に大事な物を見失ってしまうんだなぁ。


 しみじみとそう感じながら、俺は一緒に調査するマリーナとともに例の荒野を訪れた。


「ここにはもう何もないんじゃない?」

「念のためさ」


 今ではもう消滅してしまっているが、この近くにはマダム・カトリーヌの屋敷があった。

 彼女は認識阻害魔法という現代で使用している者はほとんどいないレトロな古代魔法を使って自身の存在を巧みに隠し、ここで人工ドラゴンの実験を繰り返していたのだ。


 そういったわけで、もしかしたらまだ彼女が何かを隠していたんじゃないかと思い、やってきたのだが……マリーナの言うように、新しい発見はなさそうだ。


「空振りか。無駄足を踏ませてしまって悪かったな、マリーナ」

「そんなことないよ。先生と一緒にいられて楽しかったし」


 いつもの明るい微笑みをこちらに向け、そう言ってくれるマリーナ。

 おかげで俺も救われるってものだ。


 ――と、その時、俺は何か気配を感じて振り返った。


「どうかしたの、先生」

「いや、何かが近づいてきているような気がしてな」

「もしかして、新しい敵?」

「……分からない」


 だが、そいつは確実に俺たちの方へと進んでくる。


 恐らく敵ではないだろう。

 何せこの辺りには騎士や魔法使いが山ほどいるのだ。そんなところへ悪党がわざわざ突っ込んでくるようなマネはしないはず。まあ、してくれたら探して捕まえる手間が省けるので喜ばしいのだが。


 しかし、その可能性は薄いだろう。

 となると、こちらへ近づいてくるのは味方か?


「あっ、あたしも分かった! 先生よく気づいたねぇ」

「これも慣れさ。それより、誰だと思う?」

「うーん……味方だとは思うけど、分団のメンバーじゃないっぽいね」

「だな」


 俺も同じことを考えていた。

 近づいてくる者は俺やマリーナと常に行動をともにしている者じゃない。


 けど、嫌な感じはしない。

 それどころか……ちょっと懐かしいような?


「まさか……」


 懐かしいという感覚が俺の記憶を呼び戻す。

 シャーリー、メイジー、マリーナ――彼女たちと数年ぶりに顔を合わせた時と似たような感覚だった。


「もしかして……ユマか?」

「っ! そうだよ! この魔力の感じはユマだ!」


 一気にテンションが上がるマリーナ。

 俺も嬉しさに頬が思わず緩む。


 シャーリーたちと同世代で俺が魔法を教えた四人――その最後のひとりが、まさかこのタイミングで現れるなんて。


 彼女は颯爽と馬に乗って俺たちのもとへとやってきた。

 風になびく緑色の長い髪に緋色の瞳。


 うん。

 あの頃の面影は確かに残っている。


「お久しぶりですわね、ゼルク先生」

「ああ……成長したな、ユマ」


 俺たちは握手を交わし、再会を喜び合うのだった。

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