第49話 決死のゼルク

 もはや猶予はない。

 黒いドラゴンの猛毒を含んだ緑色の炎と刃物のような切れ味を持つ長い尻尾の連携攻撃。さらにその全身は甲冑の何倍も頑丈な鱗に守られているため、普通の魔法攻撃では致命傷に至るまでのダメージを与えることはできなかった。


 敵の攻撃をかわしつつ、なんとか状況を打開しようとする俺たちだが、このままでは魔力が尽きて攻撃手段を失ってしまう。


 そうなれば全滅は免れないだろう。


 最悪の結末を避けるため――俺は賭けに出た。


「ウィンタース分団長!」

「どうした! 何か策でも浮かんだか!」

「はい!」


 俺は分団長のもとへ駆け寄ると手短に作戦内容を伝える。


「分かった。ならばあとのことは任せろ」

「よろしくお願いします」


 成功させるには全員での連携が必要なため、ウィンタース分団長は他のメンバーにもこの内容を伝えに行く。

だが、敵に悟られてはいけないため、あくまでも攻撃の姿勢をとりつつもさりげなく段取りを説明していった。


 おかげでこちらも安心して準備に取りかかれる。


「はっはっはっ! そのドラゴンを相手にどこまでもつかな?」


 間抜けなブラッグスはこちらの狙いに勘付いてはいない。さっきのうっかり発言の際も思ったが、どうもこいつには領主として大事な部分が決定的に欠如している。


 有能な領主であれば、戦いの流れのわずかな変化を見逃さずにすぐさま対処できたかもしれないのに。

 まあ、おかげでこちらの作戦がより成功しやすくなったんだ。

 黒幕がチェスター家の当主で本当によかったよ。


 そうこうしている間に準備は完了。

 

「よし! この魔法で――ヤツを氷漬けにしてやる!」


 俺が放とうとしているのはSランクの超大技。

 一度試しに森の中でやってみたら辺り一面がカチカチに凍って大変な目に遭った経験がある。

 この魔法なら、あの巨大なドラゴンの動きを封じ込めるのに最適だろう。


「いくぞ!」


 叫ぶことで周囲に合図を出し、おまけにドラゴンが気をとられてこちらへと視線を向ける。

 直後、俺は全身が吹っ飛びそうな衝撃を受けながらもSランクの氷魔法を黒いドラゴンへと解き放った。


「っ!?!?」


 回避しようとするも、すでに間に合わず。

 ドラゴンの体は一瞬にして頭から凍っていき、ついには飛べなくなって地面へと落下していった。


「よっしゃあ!」


 ウィンタース分団長をはじめ、仲間たちから歓喜の雄叫びがあがる。

 一方、切り札の敗北を目の当たりにしたブラッグスは余裕の態度から一変して表情は絶望に染まった。


「バ、バカな!? あり得ない!?」


 氷漬けとなり、横たわっているドラゴンを茫然と見つめる。


「そ、そんな氷など炎で溶かせ! 聞こえないのか!」

「無駄だ。あの氷の中ではたとえあんたの最高傑作であろうと何もできない。大体、魔力で生みだしたあの氷は炎を当てた程度では溶けないよ」

「うぅ……おぉ……」


 ガクッと項垂れ、放心状態となるブラッグス。

 ヤツの栄華もこれまでだな。

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