第48話 野望
黒いドラゴンが放った緑色の炎は、迫りくるマリーナの水魔法を打ち消してしまった。
「そんな!?」
これはさすがに想定外だったらしく、マリーナは驚きを隠せない。
正直、周りで見ていた俺たちも「勝った」って半ば確信をしていた。それくらい完璧に裏をついた攻撃だったのだ。
しかし、結果としてはそれも読まれており、弾き返されてしまった。
「はっはっはっ! いいぞ! そのまま連中を血祭りにあげろ!」
若手のエースであるマリーナの攻撃が防がれた。
これは分団全体にとっても大きな精神的ダメージとなる。
――だが、それくらいでなければ実力者揃いとされるバークス分団を壊滅寸前にまで追い込むことはできないだろう。ある意味、想定通りの強さと言えた。
「ひとりでの攻撃は限界がある! 一斉攻撃で仕留めるぞ!」
ウィンタース分団長の呼びかけにより、俺たちはそれぞれの得意魔法で黒いドラゴンに総攻撃を仕掛けようとする――が、それを察知したドラゴンはこちらへ向かって緑色の炎を吐きだして妨害。さらには長くて鋭利な尻尾を振り回しながら暴れ狂う。
すると、吐きだした炎がエリック副分団長の制服をかすめて一部が炎上。
彼は慌てて地面に転がってなんとか炎を消すことに成功した。
「大丈夫ですか、エリックさん!」
「問題ない! それよりも気を抜くなよ、ゼルク!」
「はい!」
「いい気合いだ! もう一度――」
会話の途中で突如苦しみだしたエリックさんはその場に膝から崩れ落ちた。
「エリックさん!?」
黒いドラゴンの炎攻撃をまともに食らったわけでもないのに、なぜあそこまで苦しんでいるんだ?
苦しむエリックの治療にあたるため、ダンハムが近づいて詳しく調べたところ、驚くべき事実が発覚する。
「みなさん、気をつけてください! あの緑色の炎には毒があるみたいです!」
「なんだと!?」
ウィンタース分団長が驚くのも無理はない。
毒のある炎なんてこれまでに聞いたことがないからな。
かすめた程度であれほど苦しむというなら、少しでも体に触れたら火傷どころでは済まなくなる。
「どうだ! これこそが私の生みだした最高傑作ドラゴンだ! こいつがあれば今以上の富と名声を手に入れ、いずれはこの国を――いや、世界を支配できる!」
高らかに自らの野望を口にするブラッグス。
世界の支配者とはまた大きく出たものだ。
しかし、あれほど強力で、なおかつ彼の言うことを忠実に守るドラゴンが量産されてしまったとするなら、確かに世界中の国々はあの男の前に跪かなくてはならないだろう。
幸い、あれはまだ試験体であり、量産体制への研究はこれから進められるらしいので、ここで食い止めればまだなんとかなる。
「こうなったら……」
ためらっている時間はない。
最大級の魔法でヤツを確実に仕留めなくては。
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