第44話 怪しい領主
アドナス山脈一帯で起きた事件について、チェスター家の当主であるブラッグス・チェスター様はまったくの関係を強調し、調査に協力的な態度を示してくれた。
……とはいえ、どんな事情があろうとここはさすがに断れないだろうな。
何せ交易路を行き交う商人たちからの通報だ。
これが原因で他国との関係性に亀裂が生じれば、大きく国益を損ねる結果となり、ノーザム王国は衰退の一途をたどる。そうなればもう大貴族も何も関係ないだろう。
だからきっと、ここはたとえポーズであっても協力すると言い出すはず。
そんな俺とウィンタース分団長の予想は見事に的中した。
もっとも、本当に無関係で純粋な気持ちから協力を申し出てくれている可能性もあるのでそこは見極めなければならない。
「ではまず何から話そうかな」
「ここ数日の間に近辺で変わったことはありませんでしたか? アドナス山脈に関係のない話でも構いません」
「ふーむ……すまないが、心当たりはないな。というのも、最近は何かと外へ出る機会が多くてね」
申し訳なさそうに語るブラッグス様。
それを証明すると言って側近のひとりを呼び寄せると、ここ数ヵ月の予定を確認していく。
彼の言うように、まさに分刻みのスケジュールとなっており、悪事に加担している暇はなさそうに思える。
――が、すべては向こうが用意した物ばかり。
信用しないというわけじゃないが、鵜呑みにはできないな。
……少しかまをかけてみるか。
「どんな些細な情報でもいいんです。捕まったマダム・カトリーヌが死亡した今、我々に残された手がかりは彼女が隠れ家を造ってまで実験に及んでいたこの領地の主であるあなただけなのです」
「その話も聞いたよ。悪党に相応しい末路とはいえ、呪い殺されるとは恐ろしいな……事件解決の手助けをしたいのは山々なのだが、本当に心当たりはないんだよ。力になれなくて申し訳ないね」
「っ!?」
ブラッグス様の言葉を耳にしたウィンタース分団長の表情が一変する。
どうやら、俺の狙いに気づいたようだな。
そしてその狙いにヤツがまんまと引っかかったということも。
「はて、こいつは妙ですな」
「む? 妙というと?」
「いえね。マダム・カトリーヌが死んだという情報はその通りなんですが……なぜ呪い殺されたと知っているんですか?」
「えっ!?」
それまでの穏やかな表情が崩れ、汗が滝のように流れ始めるブラッグス様。
死亡したと聞けば「情報を漏らさないよう自殺したのか?」と考えてもおかしくはない。だが呪い殺したとなっては事情が異なる。
呪術師というのは非常に数が少ないし、そもそもかなりマイナーだ。
そんなものが偶然口をついたとは思えない。
事前に知っていなければ、な。
しかし、ここまですんなりと狙い通りに引っかかってくれるとは思ってもみなかったよ。
意外とうっかり屋なのか?
或いは、想定外の事態への対応が苦手なのか。
いずれにしても、せっかく出してくれたボロだ。
徹底的に突かせてもらおうか。
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