第43話 チェスター家

 アドナス山脈一帯を治めるのは国内でも有力な貴族として名を知られるチェスター家であった。


 そういえば、コリン村の領主って誰なんだろうな。

 果ての果てにある小さな村だし、統合して消滅する際も特にアクションはなかった。もしかしたら存在すら知られていないのかもしれないな。


 気を取り直し、俺たちはチェスター家の屋敷へ向かう。

 いろいろとあった後なので移動自体は全員揃い踏み。


 ただ、屋敷を訪れるのは俺とウィンタース分団長のふたりということになった。

 待機組はエリックさんをリーダーにして少し離れた位置から様子をうかがう。


 ……可能性としては低いと思うけど、チェスターが関与しているかもしれないしな。念のための用心だ。


 そのチェスター家の屋敷は俺たちが激闘を繰り広げたアドナス山脈からそれほど遠くない位置にある。


「交易路に関する事件についてはチェスター家も把握しているんですか?」

「そう聞いているが、どこまで本気にしているかは不透明だな」


 なんだか含みのある言い方だな。

 ウィンタース分団長も、俺が疑いを持っていると気づいたようだ。


「……ここだけの話だがな。魔法兵団の幹部連中はチェスター家が裏で何かをやっているんじゃないかって勘ぐっているようだ」

「そ、そうなんですか?」

「今でこそ大貴族として振る舞っているチェスター家だが、その功績には黒い噂がついて回っていたんだ」

「そ、そんな事情が……」


 田舎暮らしが長かったせいで政治的な話に疎い俺には、そのような事情があったというのは初耳だ。とはいえ、さすがにこの手の話はオープンにならないか。ウィンタース分団長もここだけの話としていたし。


 すでにアポは取ってあるとのことだったので門番に話をし、当主様への面会をお願いする。

 どうやら相手方も俺たちの到着を待っていたようですぐに通してくれた。


「随分と用意がいいですね」

「本当に一ミリも関与していないのか、それともいつこのような事態になってもうまく立ち回れるように入念な下準備をしていたか……いずれかだろうな」


 前者であることを強く願うが、果たしてどうなるか。


 通された応接室では当主であるブラッグス・チェスター様が待っていた。

 小柄な身長に太り気味の体形……こう言ってはなんだが、お世辞にも大貴族とは思えないというのが第一印象だ。


「待っていたよ、ふたりとも。私の治める領地でとんでもない事件があったそうだね」

「えぇ。本日は現在までに分かっている情報をお伝えしつつ、チェスター様が把握されている情報を調査のためにお教えいただければと思いまして。ご協力いただけますか?」

「もちろんだとも。何でも聞いてくれ。知っていることは包み隠さず伝えよう」


 自分は無関係だということを前面に押し出してきているな。

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