第42話 人工ドラゴン

 ドラゴンを人工的に大量生産し、兵器として運用する。

 この信じられない計画が秘密裏に進んでいるのだとしたら、世界のパワーバランスは大きく狂うことになるだろう。


 そもそもそんなことが可能なのかどうか……しかし、実際に俺たちはアドナス山脈近くでドラゴンと戦った。あの時はそれほど苦労はしなかったが、もしかしたらあれが試験体なのかもしれない。


 ともかく、魔法兵団は本腰を入れてこの案件を調べる方向で話を進めているとシャーリーは教えてくれたが、彼女の口からさらに驚くべき情報がもたらされる。


「ちなみに肝心のマダム・カトリーヌですが……先ほど死亡が確認されました」

「なんだって!?」


 騒然となる分団メンバー。

 話が急に飛びすぎてないか!?


「ど、どういうことなんだ!?」

「恐らく呪術の類だと思われます。トリガーとなる言葉を口にした瞬間に発動するタイプだったのでしょう」

「となると、ヤツを裏から操って研究をさせていた黒幕側には呪術師もいるのか。……これは少々厄介な展開になるかもしれんなぁ」


 椅子にドカッと座り込んだウィンタース分団長が愚痴るようにこぼした。


「厄介な展開、というと?」

「呪術師の存在自体もそうだが、アドナス山脈の近くでそれほど大規模な実験をやっていたとなると……ノーザム王国側にも協力者がいるかもしれん」

「っ!?」


 俺も何となく「そうかもしれない」と思い始めていた疑惑。

 ウィンタース分団長も感じ取っていたか。

 

「大方、口封じのために殺されたのだろうが……呪術師が絡んでいるとなるとこちらも慎重にならざるを得ないな」

「うちのアマンダ分団長も同じ見解です」

「えっ? 『うちの』って……」

「言っていませんでしたか? 私は彼女がリーダーを務める分団のメンバーなんです」

「それは初耳だ……」


 一緒に食事をした際に教えてくれたらよかったのに。

 まあ、彼女は魔法兵団の現体制に懐疑的な意見を持っている人なので、どちらかというとこちら寄りの人だろう。シャーリーを俺たちへの報告担当に当てたのもそれを踏まえ上でのことだったのかもしれない。


「そちらは今後どうする?」

「バークス分団と合同でもう一度アドナス山脈を徹底的に洗い出します」

「分かった。ならばこちらはあの土地を治める領主へ会いに行こう。ついでに少しだけ突いてみるか」


 言い終えた後、ウィンタース分団長は俺に目配せをする。

 ――なるほど。

自分が治める領地でよからぬ研究をやりたい放題されていたという事実も伝えなくてはならないし、それを突きつけた時のリアクションで関与性を探るという手か。


どこまで真相に近づけるのか。

不謹慎とは思いつつ、少し楽しみでもある。

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