第41話 証言

 マダム・カトリーヌの身柄を拘束してから数日後。

 ついに彼女の口から新たな情報が出たらしい。


 俺たちウィンタース分団へその情報をもたらしてくれたのは、俺をこの王都へと導いてくれたシャーリーだった。


「さすがはゼルク先生。魔法兵団に正式加入してから連日の大活躍ですね」

「いや、俺ひとりでここまでやったわけじゃないよ」

「でもやっぱり先生の貢献度が一番高いんじゃない?」

「この前のマダム・カトリーヌとの一戦はそうだな。最後の一撃がなかったら取り逃がしていたろうし、無茶をしたマリーナの身も危なかった」


 あの時は無我夢中だったっていうのもあるけどね。

 とはいえ、手配書に載るくらいの敵を相手にしても、自分の魔法がしっかり通用したというのは大きな自信につながる。


 ――っと、話が脱線してしまった。

 気を取り直して、シャーリーからここまで分かった情報就いての報告を受ける。


「マダム・カトリーヌの件も重要ではありますが、先に例の鱗の調査結果からお知らせしたいと思います」


 そういえばそうだった。

 マダム・カトリーヌとの一戦が強烈ですっかり薄れていたけど、こっちもまた事件の真相に迫るには重要な話だ。


「ゼルク先生が湖近くで発見した鱗と、その後に戦ったドラゴンの鱗を比較してみた結果――同一個体であり別個体でもあるという事実が判明しました」

「……うん? なんだって?」


 どういうことだ?

 まったく意味が分からんぞ。

 他のメンバーも頭にクエスチョンマークが浮かんでいるような反応だ。


「分かりやすく言いますと、同じ個体なのですが別個体というわけです」

「いや、それ分かりやすくなってないんじゃないか?」


 ただ、伝えようとしている内容についてなんとなく「こうじゃないか」っていうニュアンスは伝わった。


「つまり、同じ鱗を持つドラゴンが二体存在していると?」

「はい。調査班はそう分析しています」

「そんなバカな」


 真っ先に声をあげたのはエリック副分団長だった。


「まったく同じドラゴンが二体存在していたなんて……考えられない」

「調査班も最初は同じような反応でしたが、マダム・カトリーヌから得た情報で少し考え方が変わったようです」

「何っ? ヤツは何と言ったんだ?」


 ウィンタース分団長がそう迫ると、シャーリーの口からとんでもない事実が語られる。


「彼女は魔法で人工的にドラゴンを生み出す研究をしていたようです。実際に完成したドラゴンを試験体と呼び、人間をちゃんと襲えるかどうかをアドナス山脈近郊で実験を繰り返したいと証言しました」

「なっ!?」


 これには俺だけじゃなく全員が度肝抜かれた。

 人工的にドラゴンを生み出し、人を襲わせる……そのようなことが本当にできるのか?


 だが、それならなぜ同じ鱗を持つドラゴンが生まれたのか説明がつく。

 あのドラゴンはマダム・カトリーヌによって人工的に生み出されたドラゴンだから、そういった特徴もすべて同じ――いわばドラゴンの大量生産ができたからこそ、このような現象が生まれたのだ。


「こいつはシャレにならんぞ……もしその研究とやらが何者かの指示で行われていたのだとしたら、手強いドラゴンを大量生産し、兵器として運用する国が出てくるかもしれん」


 俺もウィンタース分団長とまったく同じことを危惧していた。

 どうやら、事態は俺たちの想定を遥かに上回るヤバさで進んでいるようだ。

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